続・カミーノ 心に赤い気球

十一月六日(日)

 続・カミーノ巡礼三日目。八時。今日は十二キロしか歩かないのでゆっくり起床した。いつもとは違い、周りの巡礼者も不思議とお寝坊気味だ。まだ寝ている人もいるくらい。

 

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 宿併設のバルが朝ご飯を出してくれるらしいので期待して食べに行った。パンがでかい。思えばこの家が出してくれるものはなんでもでかかった気がする。そういう店はありがたいから好きだ。客からの注文があるとき以外、店主がずっと椅子にもたれて寝ているのも良い。ここは村唯一のバルがやっている宿という感じで、全体的にのんびりとした暖かい雰囲気があった。

 

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 十時ちょっと前、ようやく出発。我々が屋内でダラダラしている隙に俄雨が降って、いつの間にか止んだみたいだった。アスファルトの道路が濡れている。

 

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 今日の道はひらけている。両脇が草地になっていて見晴らしが良かった。森の中を歩くのもいいけど、こういう整然とした景色も好きだ。

 夫が歩きながら「先のほうに赤い気球が飛んでいそうな感じだよね」と言っていて笑った。視力検査のやつね。

 

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 小さな町を過ぎる。牛が柵の向こうからこちらを見ていた。

 

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 そっぽを向く猫。

 

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 遠くに小高い丘が見えてきた。かなり広範囲に渡って裾野が広がっているので、十中八九あそこまで登ることになるのだろう……と予想しつつ挑む。

 

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 草の葉に光が当たっていた。

 

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 意外と緩やかな坂だ。このまま迂回させてくれるのだろうか。

 

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 と、思いきや急にぐいぐい登らせてくる。残りの距離がわかるとつらいので、なるべく下を向いて黙々と足を動かした。

 

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 丘の上からの眺め。遠くのほうには湖が見えた。やっぱり高いところは気持ちがいい。三百六十度麓の景色を見渡せるのが丘の良いところだと思った。晴れていたらピクニックもできるし。

 

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 しかし進む先には更なる坂が……。

 

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 やるしかない!と丹田のあたりに力を入れていたら、あの坂には登らず右手側に折れることがわかって少しホッとした。

 

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 この道なら楽勝だ。途中、リスが視界の端を横切って道端の木に登っていくのが見えた。

 前回スペインに来たときはうさぎをけっこう見かけたんだけど、今回はいないねえ、と夫。

 

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 十一時。六キロ経過。ちょうど半分のところまで来た。この先しばらく何もなさそうなので、この辺で一休みして行くことに。近くのバルに向かって歩いていたら、ちょうどこれから町を出て行く人が「あの店は良いよ」と教えてくれて嬉しかった。

 

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 またサンティアゴケーキを食べた。シンプルな味付けで甘さがしつこ過ぎず、柔らかいクッキーみたいな感じなのでサンティアゴケーキのことはけっこう好きだ。

 

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 余裕ぶっこいて一時間半も休んでから再び歩き始めた。Twitter社が買収されたらしいという話題になり、「イーロン・マスクって誰?」「なんでもやっちゃう起業家のひとだよ」みたいなやりとりをした。


 しかしよくあんなにタイヤを集めたよねえ、と急に話を変えつつ。夫の前だと気を抜きまくっているので、目に映るものに反応して勝手に口が開く。

 

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 静かで誰もいなくて、学校をずる休みした日の午後みたいだね、と話した。

 

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 この村と廃タイヤ収集業者を繋ぐパイプのようなものを感じるな。

 

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 十三時半。今日泊まるオルベロイアの町に到着。

 

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 羊たちもいる。今日はとことんのんびりした気持ちだったので、十分ぐらい無言のまま草を食む様子を眺めて過ごした。

 

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 眠るシャコベオくんの看板があった。かわいい。

 

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 十四時、宿にチェックイン。今日の宿はベッド毎にコンセント・読書灯・カーテンがついているいちばん好きなタイプのドミトリーだった。特にカーテンの存在が地味に嬉しい。こんな旅をしているのだからある程度は割り切っているけど、やっぱりこれがあるとプライバシーが守られているように感じて安心する。

 

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 シャワーを浴びた後は近くのバルへお酒を飲みに行った。一時間ぐらい、特に目的もなくダラダラとインターネットを見て過ごす。そんなことをしていたらいつの間にかもう夕方だ。こういう時間の使い方が結局いちばん贅沢なんじゃないかって最近思う。


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 お腹が空いていたのでそのまま別の店に行ってピルグリムメニューを食べた。


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 デザートに「バニラクリーム」という名前のお菓子を頼んだのだが、これがなかなか不思議な食べ物だった。味はプリンなのに食感はヨーグルトに近い。店員さんから口頭でメニューを聞いていて、てっきりアイスクリームが出てくるものだと思っていたからびっくりした。でも、美味しい。シナモンとバニラオイルの組み合わせがいい感じ。


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 ふと壁を見たら明日歩く道の標高図が貼ってあった。前半はそこまで凹凸がないが、後半から一気に坂を下るらしい。なかなか膝にきそうなコースだ。明日もがんばろうね、と幸せな顔で言った。

続・カミーノ piano piano

十一月五日(土)

 続・カミーノ巡礼二日目。七時半頃目を覚ますと部屋の中にはもう誰もいなかった。また私たちが最後の客になりそうだ。まあ、それもいいか。キッチンに降りて二人で静かに朝ご飯を食べていたら、巡礼仲間が外へ出る直前に「piano piano」と声をかけてくれた。イタリア語で「ゆっくり」「のんびり」という意味らしい。かわいくてすてきな響きだ。

 

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 八時半。霧が立ち込めるなか出発。雨はかろうじて降っていなかった。今日も二十キロぐらい。

 

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 今日は初っ端から山道。雰囲気がすごい。童話に出てくる暗い森みたいだなあと思いながら歩いた。赤ずきんちゃんの世界だね。

 

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 基本的に登り坂。そこまでの急斜面はないが、緩やかに標高が上がっていってるのを感じた。

 

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 九時。少しずつ日が差してきた。

 

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 霧がすごすぎてよくわからないけど、実はそこそこ晴れている。ここ最近天気がいいね、と二人で話した。

 

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 絶対に毒があるきのこ。

 

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 「もう十七歳より三十七歳のほうが歳近いんだよなあ」という話をした。歳月が経つのは早い。夫の三十四歳という年齢はそのまま三十四歳なのではなく、心の中に十七歳の自分が二人いる計算なのでは?みたいなよくわからないことも言った。

 あとはもっぱら食べ物のことばかり話しながら歩いていた気がする。ラーメン食べたい。

 

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 地上にも雲があるように見えるけど、あれは霧。

 

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 十時。ようやくバルを一件見つけた。サンティアゴ以降明らかに飲食店が減ったように思う。この機を逃すな!という気持ちですかさず駆け込んだ。ケーキのデカさにびっくり。

 

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 たっぷり一時間以上休憩してから出発した。あと十二キロ。

 

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 青空を眺めていたらどんどん心が大きくなってきて、「もしかして、寝坊とか遅刻ってもっとしたほうが楽しいんじゃないだろうか」みたいなことを思った。私はわりときっちり時間を守るほうだけど、この旅がはじまってからルーズに生きるのも悪くないなと思えるようになった気がする。なんでもゆっくりやるのがいいよね。

 

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 気がついたら久しぶりに車道沿いを歩いといた。考え事に没頭していると景色の移り変わりを感知できなかったりする。

 

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 羊たち。喧嘩でもしてるのか、時々体をぶつけ合う鈍い音がした。きみら温厚な性格なんじゃないのか。時刻は十二時半。

 

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 そろそろ疲れてきたので道端に座って休むことに。チョコレートをかじりながらさっきの羊を見に行ったりした。今日は残り六キロ。

 

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 気がついたらまた一時間経過してた。動かないでいると肌寒い。

 

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 このステージに入ってからずっとすべてがすごく綺麗だよね、と言いながら歩いた。

 

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 もうすぐ十四時になる。この時間でもけっこう逆走組とすれ違った。みんなどこから出発して、どこに泊まるつもりなんだろう。

 

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 繊細そうな木。

 

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 十四時半、今日の目的地であるサンタ・マリーニャに着いた。目立った建物もない小さな町だ。

 

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 最初に行ったアルベルゲが閉まっていたので、少し道を戻って別のところに行った。一人十四ユーロと少々高めだが仕方ない……たまたますれ違った他の巡礼者に聞いたら、自分はがんばって六キロ先の町で宿を探すとのことだった。ガッツがあるならそれもアリだ。

 写真は宿のすぐ近くにあったすてきな教会。

 

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 十九時から一階のバルでピルグリムメニューを出してくれるというので行くことにした。しかし店主がマイペースなのかなかなか準備が始まらない。他の巡礼者たちはみんなかなり盛り上がっていて、ディナーが始まらなくても特に気にしていないようだ。まあそれならそれでいいや、のんびりしよ、ということで私たちも今度行くルーヴル美術館のチケットを予約したりしながら過ごした。

 それから三十分ぐらい経っていざ飲み物が運ばれてくると「ブエン・カミーノ!」の合唱が起こり、その場にいた全員が総立ちになって乾杯し合う流れに。和気藹々としたいい雰囲気だった。


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 レンズ豆のスープ。程よい塩加減で美味しい。


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 私にしては珍しくポークリブのステーキを頼んだ。付け合わせをサラダかポテトフライで選べるのも嬉しい。


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 最後はデザートかコーヒーか選べるというので、あえてコーヒーにして脳を覚醒させることにした。ここ数日、妙に疲労感があってご飯を食べるとすぐ寝てしまっていたので、今日はひさしぶりに夜更かししたかったのだ。「がんばって二十三時までは寝ないぞ!」と宣言すると、夫に「小学生じゃん」と笑われた。

 寝ないぞ!

続・カミーノ 冬の光 

十一月四日(金)

 続・カミーノ巡礼一日目。そんなわけで私たちはサンティアゴ・デ・コンポステーラからさらに西、地の果てと呼ばれるフィステーラの岬を目指すことに決めたのであった。詳しくは昨日のブログを読んでください。

 

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 九時半出発。朝から今後の旅程について話し込んでいたら遅くなってしまった。はじまりはやっぱりここ、ということで大聖堂を拝むところからスタート。昨日とはまた別の巡礼仲間がたまたまいて、話を聞くと彼女も徒歩でフィステーラを目指すとのことだった。巡礼路でまた再会しよう、と話してひとまず別れる。

 昨日で一度気が緩んだからかバックパックがいつもより重く感じた。今日は二十キロ。

 

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 公園を通ってちょっとずつ町を抜けていく。フィステーラまではバスで行くという人も多く、巡礼者の数は少なかった。

 と、思いきやフィステーラで折り返してサンティアゴまで帰る途中の人が向こう側から歩いてきたりもする。旅のスタイルは人それぞれだ。

 

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 フィステーラまで八十九キロ。メーターが戻って嬉しいね、と二人で話した。

 

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 十時。振り返れば遠くのほうにサンティアゴの町が見える。今日はまだまだ始まったばかりだ。

 

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 山道を行く。これまで歩いてきた道に比べるとあまり手入れされておらず、より野生的な感じがした。

 

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 切り株の上にハロウィンのカボチャが。最近置かれたものだろうか。

 

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 そのすぐ横には石で書かれた「ULTREIA(もっと前へ)」。

 

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 牛柄の馬がいた。

 

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 今日の空は曇っているように見えて、実はけっこう晴れていることに気がついた。よく目を凝らしてみると雲が分厚く、空の色が薄いだけだとわかる。羊毛みたいにモコモコしていてかわいい。

 

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 十一時半。町中で適当な公園を見かけたので休憩することにした。天気が良くて、且つ手持ちの食料があるとこういうことができるので良い。

 日陰は冷えるため、時々太陽光にあたりにいったりしながら三十分ほど休んだ。残り十二キロ。

 

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 休憩後はしばらく町が続いた。朝から勝手に「地の果て」モードになっていたけど、サンティアゴ以西だって普通に栄えているし、人の生活がある。

 

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 一時間ほどして再び山道に突入。急な上り坂が始まった。ここから一気に二百メートル程標高が上がるようだ。

 

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 木漏れ日。

 

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 すごい坂道なのにめちゃくちゃ早足で歩いているお兄さんがいて、圧倒されていたら向こうから話しかけてくれた。お兄さんはなんとドイツの自宅からスタートしてるらしい。もうすでに九十日ぐらい歩いてるのだとか。すごい。通りで健脚なわけだ。しかも年齢を聞いたら十九歳という若さだった。えー!と驚愕。そりゃ体力があるという意味では納得だけど、その歳ですごい精神力だ……。

 

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 話しながら一生懸命歩いていたらいつの間にか坂が終わっていた。お兄さんのペースに追いつくのが大変だったけど、向こうも向こうで歩調を合わせてくれているのがわかって嬉しかった。優しいね。

 会話が途絶えたタイミングで彼とは別れた。

 

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 三十分以上登り坂で大変だったけど、以前に比べたら楽な気がする。という話をした。実際、体力はともかく気持ちの面ではだいぶ余裕を感じるようになっていた。どんなにつらい坂でも、足を動かし続ければいつか終わるとわかったからだ。

 

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 十四時。バルに入ってオレンジジュースを飲んだ。今日はあまりちょうどいい休憩ポイントがなく、気が付けばほとんど休みなしで残り五キロのところまで来ていた。

 

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 三十分程で出発。今朝からの流れで、カミーノが終わった後のことを話し合いながら歩いた。フランスに行くことだけは確定しているのだが、最後のシメとして考えていたインド行きをやっぱりやめようという話になり、では代わりにどこへ行くのか?あるいはどこも寄らずに帰国するのか?と、ここへきて急にプランがとっ散らかってきた。

 個人的にはもう充分満足したし、お金もかかるのだからそろそろ帰ってもいいと思うのだが……夫が「せっかく仕事まで辞めてきてるんだから、全部をやり尽くしてから帰りたい」と主張するのもまあわかる。


 ベトナム、タイ、カンボジアパプアニューギニア?、逆にイギリス、あるいはアメリカ、むしろ西成?といろんな地名を挙げながら歩くのはけっこう楽しかった。

 

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 十五時。通り過ぎる町の入り口にかけられた橋が良い雰囲気を出していた。

 

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 川も勢いがあっていい。

 

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 今日の道もずっと美しかった。それに静かだ。

 

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 空の色の淡さを見て、冬が近づいているのを感じた。やはり、巡礼を始めたばかりの時よりもちょっと弱々しくて、やさしい色だ。


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 十六時。ネグレイラの町に到着した。


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 公営のアルベルゲが町の外れにあるらしいので、さらにもう少しだけ歩いてそこまで行くことに。


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 十六時半。無事チェックインできた。二十台しかベッドがない宿だったが、ハイシーズンを過ぎた後だからかこの時間でもそれなりに空きがあって助かった。

 

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 夜は近くのバルでハンバーガーを食べた。

カミーノ 第一部、完

十一月三日(木)

 カミーノ巡礼三十六日目。今日はとうとう最終目的であるサンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂を目指して歩く。残り十九キロ。ほんとうにもう終わりなのだと思うと朝から無性に切なかった。日に焼けて肌はダメージを負い、雨風に吹かれれば寒く、風邪を引いたこともあったし、決して良いことばかりではなかったはずなのに。それでも思い返すと毎日ただただ楽しかった。目に映る田舎の景色や、すれ違う他の巡礼者との交流、旅の疲れを癒す美味しいご飯、そして日々思いつく色んなこと。

 歩くという行為は、実はとても精神的な活動だと思う。歩きながら取り留めもないことを考えたり、夫といろんな話をするのが何より好きだった。くだらない内容やどうしようもないことも多かったけど、中にはこれからも大切にしていきたいひらめきや発見だってたくさんある。頭の中身がすごくすっきりして、ピースフルになれた時間だった。

 

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 今日は宿で朝ご飯を食べてから出発。スーパーで安く売られていたホールのサンティアゴケーキを二人ではんぶんこした。ケーキとは言っても生クリームやカスタードが塗ってあるわけではなく、サクサクした食感のシンプルなアーモンドケーキなのでそこまで重たくはない……が、やっぱりはんぶんこはちょっとやりすぎだ。最後のほうはちょっと気持ち悪くなってしまった。美味しいものほど適量で抑えたほうがいい。

 

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 八時半。オ・ペドローゾの町を後にした。空は曇り気味。カッパを着るほどではないが時たまポツポツと雨粒が落ちてくるのを感じた。

 

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 これが最後の巡礼路かあ。よくある山道だけど、いつまでも見ていられる光景ではないんだと思うとしみじみしてしまう。

 結局馬連れの巡礼者には出会わなかったね、という話をした。

※カミーノでは徒歩、自転車、馬による巡礼が認められている。

 

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 九時。数日前の予報では雨と出ていたのもあり、さほど期待はしていなかったのだが、ちょっとだけ青空が見えてきた。

 

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 登り坂が続く。たまたますれ違ったひとが「ブエン・カミーノ!あとちょっとだよ!」と声をかけてくれて嬉しかった。

 

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 こんな日なのにお腹が痛くなってきた。

 

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 十時半、休憩。七キロ程進んだようだ。サンティアゴに着くのが楽しみだなあという話をした。

 

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 体調があまり良くなかったので一時間近く休んでからバルを出た。無理は禁物だ。しかし予想に反して空はかなり晴れた。歓迎されているみたい。

 

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 教会の前で道を間違えそうになっていたら、たまたま通りがかった地元の方が正しい方向を教えてくれた。最後までひとの善意に支え続けられた旅だ。

 

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 太陽光が反射して、アスファルトの道路が輝いているように見えた。

 

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 十一時四十五分。残り十キロ。

 

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 このスカスカの柵で脱走とか事故が起きないのすごいな。

 

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 振り返った先の道がきれいだ。

 日本に帰ったらやりたいことや、美味しかったスペイン料理のことなどを話しながら歩いた。あと五キロ!

 

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 最後にもう一回巡礼者メニューが食べたかったね、という話をしていたらちょうどいいタイミングで目の前にレストランが現れた。看板には十三時からランチタイムが始まると書いてある。時計を確認すると、時刻は十二時五十五分。ついてる!

 一皿目のマッシュルームのアヒージョも、二皿目の子牛のシチューも美味しい……。且つ、量がちょうど良かった。お腹いっぱいではあるけど、動けないほど苦しくはならない。

 

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 進んだら終わってしまうというのが惜しく、またたっぷり一時間以上休憩してから店を後にした。

 歩きつつ旅の良い思い出を振り返るつもりが、「あなた、カミーノが始まってからお酒飲んでない日なくない?」という話になり、いつの間にか日々の酒量の追及に……。

 

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 どこをみても胸がいっぱいだ。

 

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 十四時半。ついにサンティアゴ・デ・コンポステーラの町に到着。たまたま居合わせた別の巡礼者に記念写真を撮ってもらった。

 

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 しかしここで終わりではない。巡礼路の終着点はあくまでも大聖堂だ。そこを目指して街の端っこからさらに一時間ほど歩いた。

 

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 建物と建物の間からそれらしきトゲトゲが見える!

 

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 やっぱりあれだ!

 

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 十五時半、ついに到着!感無量だった。夫に飛びついて喜びを分かち合う。喧嘩したり、イライラしたり、上手くいかないこともたくさんあったけど、最後まで手を取り合って一緒にいることができてほんとうによかった。

 私たちの最初の共同作業はケーキ入刀じゃなくてカミーノの巡礼だったね、はは、みたいなことを話した。

 

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 うさたろも記念撮影。ここまでがんばったねえ。

 

 しばらくの間陶然として大聖堂を見上げていたら、一週間前に別れてそれっきりになっていた巡礼仲間とたまたま再会してまた泣きそうになった。彼は昨日サンティアゴに着いたらしい。三人で肩を抱き合って無事にここまで来れたことを喜んだ。

 本当に何となくだけど、この人とはまた会える気がしてたんだよな。不思議。

 

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 クレデンシャルもこの通りスタンプでいっぱいだ。裏面もある。結局その巡礼仲間と別れた後もさらに放心して、一時間ぐらいその場に留まっていた。あたりにはそんな感じで余韻に浸っている人が大勢いる。この場所はきっと毎日がこんな感じなのだろう。

 

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 とはいえずっとそうしているわけにもいかないので、ようやく重い腰を上げて今日の宿にチェックインした。「KM.0」という名前が良い。

 

 部屋に荷物を置き、いつも通りシャワーを浴びて、洗濯物を干した後はどっぷり夜まで眠った。安心感から疲れが出たのだろう、もう何もする気が起きない。夫も、私も、そして他の巡礼者たちも、今日はほんとうのほんとうにお疲れ様だ。ここまでよくやった。第一部、完……。

 

 

 しかし。

 実はここが本当の終わりではない。カミーノには「フィステーラの道」と呼ばれる有名なエクステンションルートがあるのだ。

 

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 私たちの歩いた「フランス人の道」がここからここまでだとすると、


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 「フィステーラの道」はさらにここ、大西洋に面するスペインの端っこまで歩く。その距離九十キロ。三、四日もあれば到達できる場所だが、全員が全員そこまで目指すわけではない。実際、夫も前回の巡礼では結局行かなかったと言っていた。

 が、今回は私がたいそう巡礼の旅を気に入ったのもあり、せっかくだから挑戦してみることに。フィステーラは元々「地の果て」を意味し、世界の終わりの象徴としても知られる場所らしく、そういう意味でも気になる……。というわけで。

 

 明日からもふつうに歩きます!

カミーノ 日々の差分を生きていく

十一月二日(水)

 カミーノ巡礼三十五日目。七時過ぎには自然と目が覚めた。周りを見るともうすでにもぬけの殻になっているベッドもちらほらある。いつもと同じように夫の起床を待ちつつ荷造りを始めたが、今日はなかなか起きる気配がないのでどうしようかと思った。

 半を過ぎたところでとうとう同室の巡礼者が夫以外全員起きてしまったので、電気を点けるとさすがに気が付いたようだ。元気はあまりなさそう。今日は二十キロ。

 

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 八時過ぎ、出発。私たちを追い越して停まった車から、学校へ向かう子供が飛び出してきて、なんかいいなあと思った。何も知らない異国なのに、どこか懐かしさのある光景だ。

 最近では町を歩くと冬のにおいがして、一年の終わりが近づきつつあるのを感じた。

 

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 町を抜けて自然の中へ。木が倒れかかってアーチみたいになっていた。今日も山道が多く、それなりにアップダウンがありそうだ。登ったら登りっぱなしというのではなく、ちょっと登ったらちょっと降りての繰り返しが続くと地味に疲れる。

 

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 朝だからか霧が立ち込めていた。

 

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 高いところに立って振り返るとよりわかりやすい。雲間から見える太陽がきれいだ。今日も晴れますように。

 

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 最近、お互いになんとなくやる気がない。なんでだろう?と考えてみたが、たぶん、原因は旅の終わりが見えてきたことだ。帰国したらまず家を決めて、引っ越し作業をして、それも終わったら今度は仕事を探して……という流れを具体的に想像するとけっこう憂鬱になる。地味にやることが多いのだ。

 

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 十時。八キロ進んだところで休憩、というよりも朝ご飯。何も食べずにここまで来てしまったのでお腹がぺこぺこだ。もう十一月だからか巡礼者向けのバルは閉めてしまっているところも多く、営業中の店に出会うまで時間がかかった。

 

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 道の真ん中で堂々と寝ている犬と、その前を横切っていく猫。なんとなく良いものを見たな、という感じがした。

 

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 民家の屋根の上にも猫。

 

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 アヒルが道路脇を散歩していた。スペインは動物が多いなあ。ご飯を食べたのもあって急に元気になってきた。

 

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 再び森の中へ。サンティアゴまであと二十八キロ。もう、昨日一日で歩いたのと同じくらいしか距離がない。

 

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 時々お互いにちょっかいをかけながらも黙々と歩いた。

 たまたますれ違った夫婦が手を繋ぎながら巡礼していて、仲が良いなあとシンプルに思う。歩くペースが違う同士だとしんどいからやらないけど、ちょっと羨ましい。

 

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 十二時。休憩。気が付けばすでに残り六キロ地点まで来ていた。そろそろ疲れてきたなあと思っていたところに偶然良い感じのカフェが現れたので、ちょっと寄ることに。

 

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 顔見知りの巡礼者が「ホームメードレモネード!イッツファンタスティック!」と言って激しくレモネードをおすすめしてくるので試しに頼んでみた。ジンジャー風味で本当に美味しい。

 後からやってきたまた別の人がうさたろの調子を気にかけてくれて嬉しかった。

 

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 後半は平坦な道が多くて楽だった。歩いやすいところだと考え事が捗る。

 どんなに同じことの繰り返しのように感じても、一日として同じ日はないなあという、けっこう当たり前なことをしきりに思った。これはカミーノだけではなく、人生全般に言えることだ。一日と一日の間にある小さな差異をよく捉えながら生きていきたい。


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 窓に貼ってあるシャコベオくんの絵に気を取られて、手前の巨大シャコベオくん像に気が付かなかった。このキャラクターは本当に地域の人々に愛されてる。


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 十四時。オ・ベドローゾの町に到着。なんだかんだで今日も楽しかった。


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 お腹が空いていたので、宿にチェックインすると速攻で風呂と洗濯を済ませてスーパーに向かった。夕飯の材料を買うついでに緊急用のチョコレートも五枚ほどゲット。備蓄食料はあればあるほど心強い。そしてあればあるほど荷が重くなってつらい。


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 気になっていたパッケージのモンスターエナジーを買ってみた。味の違いはよくわからない。

 生ハムとチーズを買ってきて適当にやる、みたいなことを久しぶりに出来て嬉しかった。

 

 

 明日はいよいよサンティアゴ・デ・コンポステーラまで歩く。あんなに途方もなく感じていた道のりを歩き切ってしまうことが信じられなかった。どんなに永遠のような気がしても、結局終わらない日々はない。振り返れば短い間だったけど、特別な時間を過ごすことができて良かったと思う。人生の一時をかけてこの巡礼路を歩いたことは死ぬまで覚えていたい。

カミーノ 通りすがりの神父

十一月一日(火)

 カミーノ巡礼三十四日目。他の巡礼者たちのアラーム音で六時半には目が覚めた。まだ眠かったけど、今日は二十八キロも歩くしちょうどいいや、ということでそのまま荷造りを開始することに。のんびりやっていたらそのうち夫も起きてきたので、準備が整うのを待ってさっそく出発した。

 

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 七時半。パレス・デ・レイの町を後にする。

 

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 今日は天気もいいし道のりもそう険しくなさそうだ。振り返った町越しに眺める朝方の空が美しい。

 

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 森の中を歩いていく。ただ、すぐ傍に古い民家が点在して建っていたりと、完全に人里離れた山道というわけではないようだった。勾配も緩やかで登りやすい。

 

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 八時半。雰囲気の良いバルを見かけたので朝ご飯にした。お皿の模様がかわいい。久しぶりにスパニッシュオムレツとオレンジジュースという組み合わせを頼んだ気がした。二人で食べられるようにということなんだろうけど、オムレツが串刺しみたいになっててちょっとおもしろい。いや、おもしろがっちゃだめか。

 

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 くつろいでいたら猫がやってきた。自分で店の中に入ってくるくらいだし、慣れてはいるのだろうが、微妙に警戒しているようなので付かず離れずの距離を保って接した。

 

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 猫と十字架。いつの間にかいなくなったと思ったら外にいた。

 

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 よく見たら店の勝手口に猫が大集合している。なんだか元気になった。今日はまだ三キロしか進んでいないので頑張りたい。残り二十五キロなんて聞くと絶望してくる。

 

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 しばらく進んだところで玄関に大きな貝殻を飾っているバルがあった。夫が「さすがに偽物だよね」とわざわざ言うのがおもしろく、「本物かもしれない」と返した。

 

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 再び森の中に突入。

 今日はなんとなくマイペースでいたい気持ちが強く、歩き出してしばらく経ってもいつもみたいにエンジンがかからなかった。もうすぐこの巡礼生活も終わってしまうというのに……、いやむしろだならこそなのか、いま焦ってもしょうがないよね、みたいに思ってしまっていまいち背筋が伸びない。かといって別に気分が落ち込んでるとかではなく、すごくニュートラルなかんじだった。

 

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 森を抜けたところでモップみたいな犬が駆け寄ってきて愛おしかった。尻尾をブンブン振りながら夫と私の匂いを交互に嗅いでくる。

 

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 こっちはアサシンみたいな目つきの丸い猫。

 

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 羊雲。

 

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 十一時半。あらかじめ「次はここで休憩しよう」と決めておいたメリデの町に着いた。二人で話し込んでいると十キロぐらいあっという間に過ぎてしまう。

 

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 珍しくしっかりめにお昼ご飯を食べた。ガリシアはタコ料理(プルポ・ア・ラ・ガジェーガ)が有名らしく、滞在中に一度は食べたいと思っていたのだ。そしたら今日たまたま通りがかったレストランが試食をさせてくれて、美味しかったからつい……。気が付いた時にはガッツリおつまみを注文して、ビールまで飲んでた。今日の目的地まであと十四キロもあるのに……。まあでも、これで念願叶ったのでよしと思いたい。

 

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 クリームコロッケと焼きピーマンも美味しかった。

 

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 十二時半。お腹いっぱいの状態で再出発。こんな工事現場にも仮設の矢印が立ててあって優しいと思った。

 

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 酔っ払ってなんとなく幸せなまま無心で歩いた。すべてが美しく見えてたまんねえなあ、という感じだ。

 

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 犬は昼寝の時間。私も眠い。

 

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 サンティアゴ・デ・コンポステーラまで残り五十キロ。


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 静かな山道を二人で歩いた。夢心地で何の話をしたかあまり覚えていない。

 

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 よく見かけるこの子、調べたらやっぱりガリシア州のマスコットキャラクターらしい。名前はシャコベオくん。

 

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 十四時。残り八キロ。バルで休もうとしていたら、たまたま通りすがったおじいちゃんに話しかけられた。夫のことを見て「ボーイフレンド?」と聞く。結婚してる旨を伝えると、「病める時も健やかなる時も……」からはじまるあの誓いの言葉を英語で読み上げてくれて嬉しかった。特に聖職者の方とかではないだろうけど、粋だなあ。

 

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 後半はちょっと曇り行きが怪しかった。相変わらずいまいちやる気が出ないまま坂を登ったり、降りたり。

 

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 午後の光。

 

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 今日泊まる手前の町。オレンジと青の配色がかわいい。

 

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 十六時半。ようやく目的地・アルスーアに到着。今日はずっと晴れていたし、そんなに険しい道のりでもなかったのに妙に疲れた。

 とはいえ、残りの日数が少ないからといって無理に張り切ったりするのではなく、自分の「怠い」という気持ちを無視しないのも大切だと思った。怠いものは怠い。


 夫婦共々、宿に着くとすぐ寝てしまった。

 

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 十九時。夕食を求めて外へ。

 

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 今日は昼ガッツリ食べたので夜は買って安く済ませたかったのだが、どこも空いていなかった。若干予算オーバーだけどピザを食べて元気に。分厚くてカリッとしてて美味しかった。

カミーノ プリンの確率

十月三十一日(月)

 カミーノ巡礼三十三日目。七時過ぎ起床。朝から小雨が降っていた。

 

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 昨日スーパーで買ったブラウニーがあったので、宿のキッチンで食べてから出かけた。今日は二十五キロだ。

 

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 八時半。昨日、最後の最後に頑張って登った階段を降りるところから一日がスタートした。まあ、人生そういうこともあります。

 私は昔から長い階段が苦手なので慎重に降りた。

 

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 最初の三十分はずっと森の中だった。急な坂道をずんずん登っていく。いつも通り息は切れ切れだけど、なんとなく今日は最初から気分が乗っていて、体も軽かった。天気は悪くともそこまで気温が低くなく、それもよかったのだと思う。動いていると汗がどんどん出てきてむしろ暑かった。

 

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 だんだん風が強くなってきたので、カッパを着るついでに上着を全部脱いだ。体感的に雨量自体は大したことがないのだが、強風が吹くとどうしても威力が増す。

 

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 一時間ぐらい経った頃、少し空が明るくなってきたのを感じた。実際、方角によっては雨雲が途切れて青い下地が見える。

 ただまあ観察したところ、雨雲といっしょになって同じ方向へ歩いて行っているような感じなので今後どうなるかはわからない。

 

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 十時。きれいに晴れた。雨上がりの鮮やかさが目に眩しい。

 

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 本日最初の休憩。十キロほど進んだところでちょうどよく空いているバルを見かけた。夫婦それぞれ好きなものを頼んだら「貧富の差」みたいな絵面になってしまい、ウケる。残り十五キロ。

 

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 休みつつ窓から外の景色を眺めていたが、どうもまた雨が降ってきたようだ。

 

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 十一時半。やるしかねえ。

 

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 一時間近くずっと強風と雨に吹かれながら進んだ。何日か前のほうがずっと酷い天気だった気はするが、これはこれでまあまあしんどい。何度直しても汗と雨でメガネがずり落ちてきてしまい、ほとんど何も見えなかった。道自体も地味にアップダウンが激しく、ゴリゴリ体力を削られる。

 

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 夫が「ぬいぐるみのお姉さーん!」と叫んでいるような気がしたけど、よく聞いたら「恵みの雨だー!」だった。全然違う。カッパを着ていると何も聞こえない。

 

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 かわいいきのこ。本物かと思ったが、実際は木にそういう彩色が施されているだけだった。遊び心だね。これ以外にもいくつかあった。

 

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 十三時近く。再び晴れてきた。わかりにくいけど向こう側に虹が見える。

 

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 さすがにもう降らないだろう。

 

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 これは本物のきのこ。

 

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 湿気を含んだアスファルトの道から覗く青空が素晴らしい。

 

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 広々とした景色を前に、生きてるっていいなあと自然に思った。

 確かに、ずっと晴れていてくれるのであればそれがいちばんありがたいが、散々雨曝しになった後でこうして太陽に照らされると特別な感動を覚える。

 

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 十四時。気が付けば最初の休憩から二時間以上休みなしで歩いていた。さすがに疲れてきたが、適当なバルが見つからないのでその辺に座って休むことに。さっきまで着ていたカッパをレジャーシート代わりに使ったらちょうどよかった。家族のグループLINEに送られてきた姪の最新写真を眺めつつ、十分少々のんびり。

 

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 十四時半。残り三キロ地点でようやく良いレストランに巡り合えた。ちょっと一休み、とは言わずデイリーメニューを頼んでガッツリ休んだ。朝から軽いものしか食べてなかったのでいつも以上にボリューム満点のご飯が嬉しい。

 

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△チーズケーキを頼んだし、「チーズケーキ」と言われて出されたけど、たぶんプリンでした


 食べ過ぎてもう動けない。

 いつもはちゃんと町に着いてやるべきことをやってから食事の時間にしているので、こんなのは初めてだ。胃が落ち着くのを待って十六時を目処に出ることにした。

 

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 外に出るとさっきよりずいぶん光が柔らかくなっていた。まだ明るいものの、日が暮れかけているのを感じる。酔っ払っていたのもあり、二人でのんびり散歩しているような感覚になって楽しかった。

 カミーノが始まったばかりの頃は毎日足が棒みたいになってたよね、とか、朝起きると体が燃えるように暑かったよね、みたいな話をしながら歩く。もうすでに序盤の記憶が懐かしい思い出になろうとしていた。


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 十六時半。パラス・デ・レイの町に到着。今日はあとお風呂に入って寝るだけだ。お腹いっぱいで苦しかったけど、そう思うと気が楽だった。明日も晴れるといいな。