帰国 日本はどんな国かしら

十一月二十五日(金)

 日本に帰るのが楽しみすぎてよく眠れなかった……と思ったけど、よく考えたら昨日三時間ぐらい昼寝したし、どちらかというとそのせいだったかもしれない。まあなんでもいいや。とにかく二人揃って無事帰国できそうなことが嬉しかった。

 三日間お世話になった宿のおばあちゃんに挨拶をして、十一時にはチェックアウトした。

 

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 マックで軽く腹ごしらえをしてからずっと気になっていた広場のマーケットへ。

 キュルテーシュカラーチというハンガリー発の焼き菓子を食べた。円筒状で中は空洞になっており、表面がパリパリしていて美味しい。私たちはキャラメル味を頼んだが、他にもノーマル、シナモン、チョコレートなどいろんなバリエーションがあるみたいだった。


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 別の店でホットワインも頼んだ。

 お金を払うと温めただけのワインを手渡されるので、そこに自分で好きなだけ砂糖や蜂蜜、シナモン、レモン、オレンジを入れていく仕組み。このセルフでやる感じが屋台っぽくて嬉しかった。熱した時点でだいぶアルコールが飛んでいるのか、けっこう呑んでもほろ酔いにしかならないのもありがたい。


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 観覧車を眺めながらぼんやり。


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 フライトは夜なのでしばし喫茶店で時間を潰した。よくある流れだけど、それももう最後なんだなと思うと感慨深い。本当にいろんなことがあったなあ。

 四ヶ月半もの間ずっと夫といっしょにいて、他に言葉が通じる相手もおらず、普通だったら多少なりとも窮屈さを感じそうな場面だけど、私はそうやって世界で二人きりみたいになんでもいちばんに意見を交換し合って過ごせたことがとても嬉しかった。美味しいご飯に素晴らしい芸術、優しい人との出会い……全部良かったけど、最大の実りはそのすべてを夫と共有できたことだと思う。昨日も書いたように喧嘩もたくさんしたし、上手くいかないこともあったけど、結果的には相手をより理解したり、自分の至らなさに気付く良い機会になった。無駄なことはない。

 この新婚旅行は結婚生活の縮図だと思って死ぬまで大切に覚えていたい。

 

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 惜しみつつもクルージュナポカの町を離れた。大きな見どころがあったわけではないけど、いいところだったな。


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△クルジュ=ナポカ国際空港

 

 十六時。かなり早めの空港着。来たときも感じたけど、こじんまりしていて市役所みたいな雰囲気だ。特にやることもないので早々に出国審査を終えてボーディングタイムを待つ。

 たまたまなのかルーマニアは入国時の審査が厳しく(どこに行くのか、何目的の滞在なのか、帰りのチケットを持ってるかどうか聞かれ、さらには持ってるなら見せろとまで言われた)、今日もどうなるかと冷や冷やしたが、出国に関してはもうちょっと和気藹々とした感じでホッとした。

 

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 十八時、離陸。


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ワルシャワフレデリック・ショパン空港

 

 十八時半、ポーランドワルシャワに到着。時差を入れて一時間半程度の短いフライトだった。そのせいか若干時間が巻き戻ってきているようなバグ感があっておもしろい。

 最後の保安検査をクリアしたらあとは乗り継ぎの飛行機を待つだけ……。


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 掲示板に二十三時成田行きの文字を発見。いよいよかと思うと痺れる。最初にアテネ行きの飛行機に乗った時と同じぐらい現実味がない。

 搭乗ゲートの近くで待っていたら周辺からちらほら日本語が聞こえてきて、いよいよだなあと思った。

 

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 二十三時、搭乗。

 明日の日本時間十九時に到着予定なので、時差八時間を引くと合計十二時間乗ることになる。ややこしい。


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 LCC(格安空港会社)以外の飛行機に乗るのは久しぶりだ。席にモニターも付いていてかっこいい。いい感じだね、とうさたろ。

 寒さの影響で離陸時間が押しており、席についてから飛び立つまで一時間ほど間があった。機体についた霜が溶かされていくところを眺めつつひたすら待つ。

 

 つい昨日までは早く日本に帰りたくて仕方なかったのに、この段になって急に名残惜しさが込み上げてきた。シェンゲン協定のギリギリまでヨーロッパにいたため、これ以上どこか他の国を旅するのは難しいし(インドに行く案もあったが意外とコロナ周りの渡航条件が厳しいようで諦めた)、何よりフランス・スペインの流れでだいぶ燃え尽きた感があったから、もう帰る以外の選択肢はないはずなんだけど……。まあそれだけ楽しかったということだ。

 いざ飛び立つとまた気分が変わり、日本に帰ってからやりたいことをあれこれ考えはじめた。

 

十一月二十六日(土)

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 深夜の一時半、お夜食の時間。もういい加減寝たいザマス。機内食が出る時間って世界でいちばん非常識なんじゃない?とか言いつつ、これが楽しみにすぎるあまり夕飯を抜いてきたのでもう無我夢中で食べた。左下のマヨネーズサラダが給食の味で懐かしい。

 食べ終わった後は意識を飛ばすようにして寝た。


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 明け方。ふと目を覚ますと外の朝焼けが綺麗だった。


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 朝の九時。もうすぐ二度目の機内食が出るとのことで起こされた。たくさん寝たはずなのに眠い。あと三時間ぐらいで日本に着くと聞き、じゃあ今って朝なのか?それとも夕方なのか?と混乱した。


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 今回はパスタ。白ワインを頼んだ夫に「朝から呑むの?!」と言ったら「夜だよ」と言われた。夜だった……?

 

 離陸までの時間はモニターについているパズルゲームに熱中して過ごした。もっと早くやればよかったと後悔。

※この時点で日本時間は十七時


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 二十時。成田に到着!案内表示板の漢字を見て心底安堵した。本当に帰ってきちゃったんだ、という惜しい気持ちもありつつ、やっぱり嬉しい。


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 入国!

 なかなか検疫が厳しくて参った。とはいっても簡単なアンケートに回答して案内通りに窓口を突破していくだけの話ではあるのだが、日本の市役所スタイルに慣れてない外国の人からしたら面食らうだろうな。しかしこういう煩雑な手続きや公的機関特有の網の目の細かさによって成り立ってる安心感というのは確実にあるな、とも思った。


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 そのまま成田空港駅のホームへ。人生で初めてCANMAKEの広告を見て叫んだ。うわあい。近くにコンビニがあったので速攻駆け込んでおにぎりを買う。ワシはファミリーマートの枝豆チーズおにぎりがずっと食べたかったんじゃ!電車に乗ったら乗ったで今度はスリを警戒しなくてもいいことに感動した。

 どれもこれもありふれた光景のはずなのに、久しぶりだと強烈な異国感があっておもしろい。帰国というよりも旅中の十三カ国目に入国しましたって感じが強かった。「日本ってどういう国なんだろうね」「これからどこ行く?トーキョー?キョート?」と二人でヒソヒソ話す。

 

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 旅の締めくくりは成田駅前の磯丸水産。ごま塩きゅうりをひと口齧った途端、夫が「はい優勝はい最高日本がいちばんいい国〜日本食がいちばん美味しいで決まり〜」と捲し立てるように言ってきておもしろかった。しかし本当にきゅうりを胡麻油と塩で和えただけのものが泣くほど美味い。炙りしめ鯖、揚げ茄子、ちくわの磯辺揚げ、キムチユッケ、シメのうどんまでしっかり食べた。こうしてチェーンの居酒屋で普通に飲んでいると今までのことが全部妄想か夢だったような気がしてきて変な感じだ。


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△うさたろ初来日!

 

 うさたろも鞄からひょっこり。「ここが噂の日本?」とびっくりしていた。チェコフリーマーケットで出会って以来、本当にここまでよく着いてきてくれたと思う。カミーノ中にうっかり落としたり、フランスの鉄道でスられたりしなくてよかった。うさたろとはこれからも末長くいっしょに暮らしていきたい。

 居酒屋のにおいがついたらかわいそうなのですぐ仕舞った。

 

 

  というわけで、完!

 長い新婚旅行でした。夫とは翌日駅のホームで「誘ってくれてありがとう。また遊ぼうね」と言って別れた。出発前に家を引き払っていて住むところがないため、当面はお互いの実家へ……。

 海外から帰ってきたと思ったら次はお家探しの旅、アンド職探しの旅。さらにそれも落ち着いたらあとは普通に国内旅行とかしたい。つまり人生は長い新婚旅行なのでした。ずっと「無事」は無理でも、出来るだけ夫婦共に健康で楽しくいたいものです。

 おしまい。

クルージュナポカ りんごの標本

十一月二十二日(火)

 朝、起きて十秒で夫が「ルーマニアに来てからまだ睡眠しかしてない」と言い出しておもしろかった。どう足掻いても予定をぎっしり詰め込んで動くことになるフランスの後で、出来るだけのんびり・ゆるく楽しもうという話から軟着陸したのがルーマニアのはずなのだが……。やっぱりいざ訪れると出来るだけ楽しまなきゃ損、という心境になるみたいだ。

 

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 そんなことを言いつつも結局チェックアウト時間ギリギリまで宿にいた。もっと動き回りやすいよう、今日からは町の中心にあるゲストハウスに移る。

 バス停のわかりにくさや、郊外の少し古びた風景がなんとなく懐かしくて良かった。ブルガリア北マケドニアアルバニアあたりの国を巡っていた夏頃を思い出す。どんな文化・ご飯・名所があるのかという事前知識が一切ない場所に降り立って、一からその国の良い部分を探していく楽しさ、みたいなものをひさびさに予感した。


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 たまたま二人ともお昼ご飯はジャンクなものを食べたい気分だったので、シャオルマというルーマニア独自のケバブプレートを食べた。想像以上のボリュームでお腹が苦しい。


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 宿にバックパックだけ置いて辺りを探索。クルージュナポカはわりとこじんまりとした町で、数時間もあれば中心部分をぐるっと見て回ることができた。広場には観覧車やメリーゴーランドが設置されている他、個人らの出店によるミニマーケットもあって楽しそうな雰囲気だ。


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 歩き回って疲れてきたので喫茶店に逃げ込んでホットワインを飲んだ。甘くて安心する味だ。

 宿から連絡があり、十五時には部屋の中に入れると教えてもらった。それまでのんびり待つことに。


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 猫。地方都市は猫がたくさんいるから素晴らしい。

 

 

  宿にチェックインした後はひたすら寝た。朝はあんなことを言っていた夫も燃え尽き症候群気味なのか気怠そうだ。明日もあんまり気張らずに行きたい。

 

十一月二十三日(水)

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 朝から落ち込むことがあったので、当初の目論見に輪をかけてより一層のんびりと過ごすことにした。手始めに近所で朝マックを食べながら数時間暇潰しをする。

 注文後、受付番号を呼ばれたことに気が付かないでいたら(ルーマニア語だったため)近くにいた人が「もしかして○○番?いま呼ばれたよ」と声をかけてくれてとても助かった。優しい世界だ。


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 昨日も通ったマーケット。平日でも関係なく賑わっている。


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△Botanical Garden Museum

 

 町の中心地から少し歩いて植物園を訪れた。人影はほとんどなく、静かで落ち着いた雰囲気だ。入ってすぐのところにいろんな雑草を集めたコーナーがあって、素朴だなあと思った。


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 季節柄、咲いている花はほとんどない。考えてみれば当たり前のことなのだが、そうであるにも関わらず冬以外の季節に植物園へ行ったことがないような気がした。


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 併設の博物館内。私たち以外誰もいなかった。


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 いろんな植物や食物の標本が飾られている。りんごをホルマリン漬けにする発想はなかった。「ピクルスを作ってるわけではないよね?」と二人で相談した。


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 石や地層の欠片。


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 何かはわからないけど妖精みたいでかわいい。


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 不思議なぐらい安心できる場所だ。丁寧に処理を施した上で保管されているひとつひとつの植物からはここに携わる人間の愛を感じたし、その愛の上で守られている静けさにはやさしい温度感があった。美しい空間。

 奥の方に大きなテーブルと椅子が何脚か置いてあったので、しばらくそこで書き物をしながらジッとしていた。


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 博物館を出て再び外へ。日本庭園を模した部分があった。


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 神社もないのに鳥居がある。異文化に対する己の浅い理解を恥じることってけっこうあるけど、これを見たらなんとなく「まあ、しょうがないよね」と思えた。


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 温室の中はひたすら蒸し暑かった。水蒸気が上から滴って水面を打つ。


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 天井の柱、金魚、ミルククラウン。いろんなものが見えた。


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 男の子はみんな好き、食虫植物。いや、女の子だって好きだ。


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 植物園は思っていたよりも広くて、奥のほうには森が広がっていた。そこそこ勢いのある川まで流れている。


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 こうして見ると地面のタイルまでかわいかった。一枚一枚がクローバーの形をしている。


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 数時間で植物園を後にした。これは近くの大学病院に生えていた木。白い靴下を履いているみたいで目を引かれた。


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△Mozart Café

 

 お腹が空いていたので事前に調べて気になっていた喫茶店に行った。「fall in love」と名付けられた紅茶が甘酸っぱい。店員さんの制服もラブリーだった。

 穏やかで良い一日だ。

 

十一月二十四日(木)

 明日には飛行機に乗って日本へ帰るので、実質今日がこの旅最後の日だ。

 

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 しかし完璧に気が抜けてしまって何もやる気が出ない。夫は「旧共産主義時代に造られた建築物を巡ってくる!」と言って元気に宿を飛び出して行ったが、私はただ着いていくだけの気力もないのでずっと宿の中にいることにした。本当はその間にいろいろやりたいこともあったけど、結局気がついたら昼寝……。

 

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 辛うじて日記だけ書いた。スペインにいた時はけっこうコンスタントに書いていたのだが、フランスでは観光に全部気力を待っていかれてノートを取り出すこともなかったな。


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 夕方過ぎになって夫が帰ってきたので、夕飯を求めてようやく外に出た。

 「さっきまでバーにいたんだけど、ワールドカップで日本が優勝おかげでたくさんビール奢ってもらえた」と夫。優勝したチームのメンバーというわけでもないのに得したねえ。やっぱりルーマニアは人が優しいと思った。どこの国においても同じことを言っているような気もするが。

※11/26追記…ドイツに勝っただけで優勝してない!私が早とちりしてた。


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 夕飯はケバブルーマニアの伝統料理を食べるという話もあったけど、気分的にそういうモードでもなかった。

 二人で旅を振り返って今日は終わり。たくさん喧嘩したし、険悪な雰囲気になることもあったけど、なんだかんだで最初から最後まで仲良くいることができてよかった。大きな怪我も病気もせずに日本へ帰れそうで嬉しい。

リヨン 財布を空にして

十一月二十日(日)

 明日の夜にはフランスを発つ。今日は丸一日使って観光を楽しめる最後の日……ということで、蚤の市へ行くことにした。パリで行こうとしたら土日しかやっておらず泣く泣く諦めることになったので、今回はそのリベンジだ。このところ予定を詰め込みすぎてバテ気味だったので、今日はざっと見て疲れたら帰って昼寝、ぐらいのゆるい感じでやっていきたい。

 

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 九時。寝坊気味の夫を起こし、宿が出してくれる朝ご飯を二人で食べた。ホットチョコレート、フルーツジュース、チョコクロワッサン、りんごのピューレがついて一人六ユーロ。六ユーロって響き的に七百円ぐらいぐらいかと思いきや、実は九百円近くするんだよね。

 

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 ゴリラくんは今日もドアストッパーとしての役目を果たしていて偉いな。

 

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 バスと電車を乗り継いで隣町のヴィルバンヌへ。二人とも眠くてやる気が出ず、途中パン屋さんに立ち寄ってエスプレッソを飲んだりした。


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 歩いていて見つけたダーティーなキティちゃん。


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 十一時半。予定よりかなり遅れて目的地に着いた。 これがレ・ピュス・ドュ・カナル、通称「カナルの蚤の市」と呼ばれるフリーマーケットだ。思っていたよりも規模が大きく、全部を見て回るのは大変だった。食器、生活雑貨、服、アクセサリー、家具、本などアンティークのものなら本当になんでもある。調べたらヨーロッパ全体でも五番目に大きい蚤の市だそう。

 全体的に日本で買うより価格が安く、かつ種類も豊富で選びたい放題なのに、荷物がかさばることを考えるとなかなか手出しできなくて苦しかった。


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 シルバニアファミリー・アンティークのおうち。

 

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 あちこち目移りしながらもどうにか選び抜いたブローチとイヤリング。次に行くルーマニアではまた通貨が変わるため、ユーロ札を使い切るいう名目で夫が買ってくれた。にこにこ。すべてかわいい。


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 十三時。早くも蚤の市が閉まりはじめるようだったので退散して駅のほうに戻った。ファーストフードのお店でグラタンを食べる。相変わらず眠い。

 

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 一時間ぐらいかけてリヨンの町に戻ってきた。流れていく雲がきれいだ。帰ってお昼寝しよう。

 

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 最後の夜なので奮発して少しいいレストランに行った。目当てにしていたところがどこも満席で途方に暮れていたところ、たまたま通りがかったお店に一目惚れして入店。内装のすべてが美しかった。今日の蚤の市でいろんなものを諦めた悔しさが供養されていく……。


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 料理も全部美味しかった。特にメイン料理のグラタンが絶品。たっぷり入ったゴルゴンゾーラチーズが最高だった。


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 デザートも良かった。もう見た目からして美しい。メニューには焼きプリン?と書いてあったのでクリームブリュレ的なものを想像していたが、実際にはまったく別のものだった。食べてみると強い弾力があるホットケーキのような感じ。ミルクの風味が濃厚で甘いチーズのように感じられ、付け合わせのバニラアイスやキャラメルソースとの相性も抜群だった。

 最後にいいものを食べられて良かったね、と二人で話しながら一日を締めた。

 

十一月二十一日(月)

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 九時。十時間以上寝たはずなのにまだ眠い。夫はシャキシャキしているのだが私は起きた時からずっと脳に靄がかかったみたいになっていて今にもひっくり返りそう。連日いろんなものを目にし、いろんなことを感じ、いろんな知識を増やし続けた結果、明らかにキャパシティの限界が来ていた。フランスを味わい尽くしたとはまだ到底言えないけど、これ以上長居していたらたぶんやばかったと思う。

 夜のフライトまで時間はたっぷりあったので、夫が買って来てくれたクロワッサンを食べつつマリー・アントワネットWikipediaをひたすら読んでぼんやりした。

 

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 三日間お世話になった宿に荷物を預け、十一時近くになってようやく町に飛び出した。こちらはリヨン出身の有名人が描かれた壁画だそう。誰が誰だかわからない。


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 雑貨屋巡りをしながら妹と母にあげるお土産を探した。それぞれ素敵な手鏡とかわいい布を買えて満足だ。喜んでくれるといいな。

※さかなちゃんの母は手芸が趣味。


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 眠い、ひたすらに眠いのだ。町の中心をひと通り歩いて疲れたのでしばらくカフェで休憩した。十五時過ぎまでインターネットを眺めてダラダラ。

 

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 十七時過ぎ。宿まで荷物を取りに行った後、バスと電車を乗り継いで空港に向かった。

 電子バイオリンと小さなアンプを車内に持ち込み、ひと区間だけマイケル・ジャクソンの『ビリー・ジーン』を演奏していったおじさんがいて、こういうこともあるのかとおもしろかった。周囲の"ノッちゃいけない"みたいな空気が逆にジワジワくる。

 おじさんは乗客からひと通り小銭を回収するとすぐに演奏をやめて降りていった。しつこすぎないのがプロっぽい。私も財布に残ってたユーロ硬貨を全部あげてすっきりした。良いタイミングで現れてくれてよかった。

 

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 十八時半。リヨン・サン=テグジュペリ空港に到着。星の王子さまの作者にちなんだ名前の空港から出発できるなんて素敵だ。

 売店を覗いたらこの期に及んでスーツケースが売られていておもしろかった。どういうシチュエーションで需要が発生するんだ。

 

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 二十一時。ルーマニアクルージュナポカ行きの飛行機に搭乗した。ついこの前まで聞いたこともなかった土地を目指して羽ばたくのは楽しいねえ。

 小さくなっていくフランスにさようならを告げた。本当にお世話になりました。


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 別ショット。壊れすぎている私の眼鏡をかけたうさたろ。


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 深夜一時過ぎ。ルーマニアに入国。時差を抜きにして考えると三時間ほどの短いフライトだった。


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 Uberタクシーを使って宿へ。運転手のお兄さんが陽気ないいひとだった。

 アナログな鍵ではなく、セキュリティコードで出入りできるタイプのゲストハウスなので深夜でも楽々チェックイン。あとはもう寝るだけ……。新婚旅行もこのルーマニアが最後になるので、明日からはまた観光を満喫したい。

リヨン シュヴァルの理想宮

十一月十九日(土)

 今日はシュヴァルの理想宮に行く。それは子供の頃にテレビで特集されているのを見て以来、長年憧れていた特別な場所だ。個人的にはルーヴルやヴェルサイユよりもずっと楽しみにしていた。

 この理想宮はシュヴァルというひとりの郵便局夫が仕事帰りにせっせと石を拾い、石を積み、三十三年もの年月をかけて作った建築物のことで、ピカソをはじめとする多数のアーティストに影響を与えたすごい芸術でもある。石を積むというシンプルな行為と直向きな情熱によって自分の理想とする世界を作り上げてしまった、という物語にはかなり惹かれるものがあり、この機会ぜひ訪れたいと思っていた。

 

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 が、理想宮はリヨンから電車で一時間、そこからさらにバスに乗って三十分というけっこう辺鄙な場所にあり、本当に行けるかどうかは試してみないとわからなかった。心配な人は事前に国際免許証を取得しておいて、レンタカーで行ってしまうのもありだと思う。私たちは一か八か賭けて公共交通機関を使ってみますが……。

 一抹の不安を抱えつつ、ひとまず出発地点のリヨン・パールデュー駅へ。近くのパン屋さんで朝ごはんを買ってから向かった。全部がとってもいいにおい。

 

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 リヨン・パールデュー駅。ここからまずは七十キロ南下した先にあるサンヴァリエ駅を目指す。携帯で調べた情報と睨めっこしつつ、券売機と格闘してなんとか電車の往復チケットをゲットした。

 が、ここでさっそく問題が発生。

 その流れでたまたま読んでいたブログに、「サンヴァリエからシュヴァルの理想宮近くまで出ているバスは土日運行していない」と書いてあるのを見つけちゃったのだ……よりによってこのタイミングで。元々スクールバス代わりに使われている路線だから、とその理由までしっかり説明してある。

 そんなバカな〜と思いつつブログの解説通りにもう一度時刻表を解読してみると、確かに土日の便はなかった。どうも我々は時刻表の見方を根本的に間違えていたようだ。

 理想宮自体は土日も開いているため、タクシーを使って行くことは可能だが、それだと往復八十ユーロ(約一万千円)もかかる。


 これはどうしたものかという話になり、「私が行きたいと言い出したんだから、このタクシー代は私が出す」と主張したのだが、夫は「それとこれは別だから自分が払う」と言って納得してくれない。優しいなと思った。しかし本気で行きたい場所なら自分自身で事前にもっとちゃんと調べておくべきだったし、やっぱりどう考えてもこの出費は私の責任だ。話し合いの末、最終的には「帰ったら何か美味しいものを奢る」というところで合意が取れた。しかし……。

 

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 十時。予定時刻通りサンヴァリエ駅に到着。一回は話がまとまったと思ったのだが、夫はなかなか諦めがつかない様子。もう一度時刻表を確認したり、他の手段はないか考えたり……。「お金がどうこう言う以前に、タクシーが嫌いなんだよね」と言い出して、そういえばそうだったのを思い出した。この場合は仕方ないんじゃないかとも思うのだが、だからといって相手の意に沿わないことはさせられないし、どうしよう。うーん。「もうヒッチハイクするしかないのかなあ」「それだ!」

 

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 ほぼ何も考えずに発した言葉がきっかけとなり、人生で初めてヒッチハイクに挑戦することになった。車道側に向かって立てた親指を突き出し、印象が悪くないように口元はにっこり。こんなんで本当に車が捕まるんだろうかと不安だったが……。

 

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 なんと乗せてくれるマダムが現れた。オートリーヴに向かう予定はないが、この先のもっとヒッチハイクがしやすい場所で降ろしてくれるとのこと。とてもありがたい。

※オートリーヴ…バスに乗って向かう予定だった町。

 

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 せっかくなのでそこからさらに移動して大きな道路のすぐ傍まで来た。この一本道を真っ直ぐ行けばオートリーヴに着く。これで同じ目的地を目指している車と遭遇する確率はだいぶ高くなったが、そんなに易々とうまくいくだろうか……。

 

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 と、不安に思っていたら今度はやさしい紳士が止まってくれた。オートリーヴの十キロ手前まで行く予定なので、そこまでだったら乗せて行ってくれるという。渡りに船とはまさにこのこと。残り十キロぐらいだったら余裕で歩けるし、ぜひお願いしますと頭を下げて同乗させてもらった。


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 というわけでここから先は歩いて行く。一時は絶望感が漂っていたが、なかなか良い感じの流れになって来た。フランスの田舎を散歩する機会なんて滅多にないのだし、この状況はむしろラッキーだ。

 

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 飛び出し注意の標識。色使いが洒落ている。

 

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 この国に来て初めて猫と遭遇した。

 

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 途中で小さなマルシェを見かけた。チーズとビールを買って食べながら歩くことに。ビールはラベルにフランボワーズと書いてあって、飲んだらロゼワインかと思うほど爽やかなフルーツの甘味が感じられた。

 

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 オートリーヴまで残り四、五キロ。カミーノみたいだね、と二人で盛り上がった。

 

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 そのまま普通に歩いていたらなんと自ら車を止めて声をかけてくれた方がいて、理想宮のすぐ近くまで乗せて行ってもらえた。良いひとすぎる……。

 

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 十三時、理想宮に到着。ひと目で圧倒された。元々自宅の庭に作ったものだからそんなに大きくはないと聞いていたのだが、いや、大きいよ。これがひとりの人間が成した仕事だと思うと途方もない規模だ。

 

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 最初に制作を始め、二十年の月日を費やしたという西側。

 

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 近づいてよく見ると、あちこちに羊やライオン、鳥などいろんな動物の彫刻が施されていた。少し幼い造りの顔が愛おしい。

 

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 理想宮は中に入ることも出来る。まずは二階部分から。細部を見れば見るほどシュヴァルの思い描いていた世界がいかに美しかったのか伝わってきて胸を打たれっぱなしだった。この城が今回の旅で見たいちばん美しいものだ。

 

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 「躓きの石」。郵便局夫としての仕事中、この変わった石に躓きかけて、それを家に持ち帰ったところから理想宮の建設は始まったそう。

 

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 一度階段を降りて今度は東側へ。ぐるぐる周囲を見てまわる。

 

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 ホワイトハウスヒンドゥー教寺院。シュヴァルは東洋西洋を問わず様々な国の文化や様式からインスピレーションを得ていた。世界のすべてを包容する、大きな夢の偶像としてここは存在しているわけだ。自分が美しいと感じるものすべてを平等に愛し、ここに再現して作ったのだと思うと胸がいっぱいになってつい泣いてしまった。


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 東側の階段の傍にベンチの様になっている部分があった。こういう、生活上必要そうなものを理想の世界に持ち込んでいるところも好きだ。究極的であるだけでなく、どこか丸みを帯びたやさしさを感じる。

 

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 一階部分にも入ってみた。当然中の装飾も凝っている。天井のシャンデリアみたいなところには灯りが吊るせるようフックが付けてあった。

 

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 天国と地獄をイメージして最後に手がけられたという北側。アダムとイブの彫刻、その周囲には大量のヘビがいる。近くにある木の実のようなものは林檎だろうか。見れば見るほど新しい発見があって全く飽きない。

 

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 遠くから見てもやっぱり良い。

 精神的な自由を守り、多くの時間と労力を使って理想を具現化することの素晴らしさについて考えた。私にこんなに大きな仕事は成し遂げられないだろうけど、生きるからにはいつか自分だけの砦を築きたい。そして出来るだけ多くの人間がそうするべきなんじゃないかとも思った。

 

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 たっぷり二時間は楽しんでから理想宮を後にした。近くにシュヴァルの墓があるというのでそこも行ってみる。

 

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 道端に落ちている葉の色合いがきれいだった。

 

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 シュヴァルとその家族が眠るお墓。

 当初シュヴァルは理想宮の地下に埋葬されることを望んでいたが、村人や教会からの反対にあって村営墓地に新しくこの墓を作ることにしたらしい。理想宮を見ながらそのエピソードを思い出した時には「ここまで頑張ったんだから好きにさせてあげなさいよ!」と怒りが湧いた。けどまあ、フランスの法律的にどうしてもダメらしいので仕方ないのか……。

 墓所は八年かけて手がけた最後の作品なだけあって技術の洗練が伺えた。

 

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 貝殻の中央にだけ色を塗って花を表現しているのがよかった。胡蝶蘭の様に見える。

 

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 素晴らしい夢を見せてくれて本当にありがとう。

 

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 帰りはさすがにタクシーを呼ぼうという話も出ていたが、結局またヒッチハイクをやる流れになった。が、行きに比べて車の数は少なく、たまに通りがかったと思ってもみんなスルーして行く。

 これはダメかな……と諦めかけていた矢先、なんとさっき理想宮まで乗せて行ってくれた女性がたまたま現れてまた助けてくれた。隣町のスイミングスクールに行くのでそこで降ろしてくれるという。

 

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 余っていた紙に行き先まで書いて渡してくれた。なんて親切なんだろう。本当はもっときちんと感謝を伝えたかったけど、メルシーと投げキッスしか出てこなかった。

 

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 でも、でもさすがにもう次はないよね……。と、期待しすぎない様にしていたけど、やっぱりまた別の車に拾ってもらえた。今度は寡黙なお父さんとかわいい娘さんの二人組だ。しかも本来は手前の町までしか行かない予定だったのに、どうせ五分程度しか変わらないからと言ってサンヴァリエの駅前まで送ってくれた。フランス、善人しかいないのか……。

 

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 駅前にあるカフェでしばらく時間を潰した。

 

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 本気でびっくりしたのだが、カフェにいた常連のお兄さんが「この辺は夜危ないから」と言って駅まで付き添ってくれた。ぜんぜんそんな感じはしなかったけど……。

 最後別れる時に二人まとめて抱きしめられて、逆にこの人が危ないんじゃないかと一瞬疑ってしまった自分を恥じた。

 

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 二十時。今日関わってくれたすべてのひとのおかげで無事リヨンに帰ってくることが出来た。美しい夢に泣き、他者の善意に助けられた素晴らしい日。

 日本に帰ったら海外から来た旅行者にもっと優しくしよう……とかそういうレベルではなく、根本的に生き方を変えたいと思った。そんな一日だった。

リヨン とても豊かな何かの肉

十一月十八日(金)

 今日でパリとはお別れ。これからフランス第二の都市・リヨンに移動する。

 思えば一週間近くいたけど全然パリのことを知り尽くすことができなかった。ポンピドゥセンターをはじめとして、気になっていたけど行けなかった美術館・博物館の類は山ほどあるし、なんなら存在すら認知していない素晴らしい場所だってたくさんあるはずだ。また、物価が高いから節約しようということでほとんど外食をしなかったことも今になってみれば後悔のひとつだった。スーパーで売ってるチーズや生ハム、鴨肉のパテみたいなやつが普通に美味しかったから、別にそれだけでもいいんだけどね。旅費を負担してくれている夫自身がけっこう悔いていたので、もうちょっと贅沢したい気持ちを後押ししても良かったのかなと感じた。

 

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 九時。リヨン行きの高速バスに乗り込んだ。最後の最後で乗った電車が途中停止しまくって肝が冷えたけど、どうにか間に合ってくれてホッと一息。

 

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 今日は六時間揺られます。パリ市外へ出た後はひたすら何もない森や農地の傍を走り続けた。これが日本の東京発だったらそろそろ群馬県に到達してるな、というところまで来てもとにかくずっと草と木しかない。人の気配がない。フランスは思っていたよりも大きかった。

 

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 バス内の貼り紙。車内でハンバーガーとピザは禁止です、と書いてある。飲食を丸ごと禁じるのではなく食品を限定しているのがちょっとおもしろい。


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 十五時。途中何度か休憩を挟みつつリヨンに到着した。放り出されたペラーシュ駅のあたりは治安があまり良くないようで、これまでの人生で見たことがないぐらいにゴミが散乱していた。さらに駅前の通りにはロマの人々によるテント群がずらり……。あと、燃えて焦げたまま放置されてる自転車とかがあった。パリの治安が意外に良くて安心していたところだったから、これはちょっとショックだ。十八区のグットドール通りなんかより全然やばいものを感じる。

 ただ荒れているのは駅周辺だけのようで、少し離れると綺麗な住宅街が立ち並んでいた。女性も普通にひとり歩きしているし、スリにさえ気を付ければまあ大丈夫そうだ。たぶん。


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 ソーヌ川。この町ではソーヌとオーヌというふたつの川が寄り添い合うように流れていおり、その合流地点には合流博物館が立っている。嘘みたいな本当の話だ。


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 ゲストハウスにチェックインした。こちらは宿のゴリラ。久しぶりのドミトリー部屋でカミーノを思い出してしまい切なかった。

 

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 パリにいる間予定を詰め込んで動き回っていた疲れが出たのか、今日は久しぶりに夜まで昼寝した。起きてから夕飯を求めて外へ。川の傍を散歩して繁華街のほうを目指した。


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 入ったレストランに一人十六ユーロで食べられるディナーメニューがあったので頼んでみた。一皿目は何かの肉のテリーヌ。何かの肉って、何?という話だけど、メニューがフランス語でほとんど読めなかったんだよね。どうせどれを選んでもそれなりに美味しいはず……と思って運命に賭けてみたら本当に美味しかった。しかも何気に量が多い。あと、サラダにドレッシングがかかっていて地味にびっくりした。ヨーロッパに来てからだいたい野菜はオリーブオイルと酢、塩で食べるのが主流だったから。さすがフランスは細部までこだわるなあ。食に対する意識がおしゃれ。でも、ドレッシングにまでこだわるのがおしゃれって言うなら、もっといろんな種類を用意している日本の松屋とかのほうがおしゃれなのでは?それは違うか。


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 二皿目のソーセージも良かった。普通にナイフとフォークで一口分だけ切ろうとしたら皮が破れ、中から何かのモツ肉が溢れ出て来て困惑。こんな風にソーセージを食べるのは初めてだ。ホワイトソースもただクリーミーなだけではなく、マスタードと白ワインによるアクセントがあって美味しかった。うーむ。

 正直、フランスの食文化を舐めてたとしか言いようがない……。いくら美味しいとは言っても他の国と同じぐらいなもんだと思っていたらけっこう超えてきた。


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 デザートも七種類ぐらいある中から選べた。口頭で何があるか伝えられて、よく聞き取れないまま適当に選んだらクリームブリュレが当たってラッキー。


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 宿に帰るとロビーで地元のバンドがライブをしていた。二十三時までやるというのでちょっと見て行く。選曲が良く、聴いたことがなくても乗れる歌が多くてよかった。あとシンプルに演奏がめちゃくちゃうまい。ひさしぶりに夜遊びの雰囲気を楽しめて良かった。

パリ ヴェルサイユ宮殿

十一月十七日(木)

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 パリ観光最終日。今日はついに乙女の憧れ・ヴェルサイユ宮殿に行く。パリの中心地からは少し離れた場所にあり、地下鉄を乗り継いで郊外に降り立った。元は狩猟の際に使われる小さな別荘だったというヴェルサイユ宮殿の成り立ちに相応しい、上品で落ち着いた雰囲気の町だ。

 

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 九時。駅から五分程度歩いたところでそれらしき建物が見えてきた。

 

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 「太陽王」の異名を持ち、この宮殿の創設者でもあるルイ十四世の像。この時はまだ知らなかったが今日のメインキャラクターでもある。

 

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 門構えからしてかっこいい。セキュリティチェックの人が何人か立っていたが、特に荷物の中身を見せるよう言われたりはしなかった。

 

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 二つ目の門。ここから真っ直ぐ入っていけるわけではなく、向かって左手側に入り口があった。そこでチケットを見せて中へ。

 

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 これが念願の本殿だ。改修作業中で足元が工事現場みたいになっていたのが少し残念だったけど、それでも感動は変わらない。

 地図がなくてどこから入ればいいのかよくわからなかったので、とりあえず人がたくさん吸い寄せられているところへ私たちも向かうことにした。

 

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 中に入れた。たぶんだけど正解の扉だったっぽい。


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 最初の廊下ではフランス王朝に関係する人物の像が延々と並べられていた。

 

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 まずは順路通りルイ十五世に関する展示室から見ていく。

 

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 ルイ十四世の世継ぎとして生まれた子供たち(子・孫・曾孫)の中で唯一生き残ったのがルイ十五世なんだよね。みたいな基本的なところから解説してあった。ただ彼自身も相当に病弱だったらしい。なんとなく名前からして二人は親子関係にあると思い込んでいたので、実際は曾祖父・曾孫同士だったことにまずここで驚いた。

 

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 国王御用達の技師によって作られ、ルイ十五世に贈られたという天文時計。正面から見た姿は元より、後ろの機械仕掛けの部分も中々だった。メカニック好きが見たら卒倒しそうだ。


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 ルイ十五世は天文学に大きな関心があったらしい。それに関する当時の道具を集めた部屋があった。

 

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 家系図マリー・アントワネットの名前を発見。

 実はこの宮殿においてはそんなにフューチャーされていなかったのだが、こちらとしては「ヴェルサイユといえばマリー・アントワネットでしょう」ぐらいの気持ちで来ていたので嬉しかった。

 

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 ロココ時代の置き時計。一見するとかわいいけど、よく眺めてみるとどことなく悪趣味で間抜けな感じがする。

 

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 パグと鶏がデザインされた燭台。

 

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 調度品をひと通り見た後はヴェルサイユの成り立ちを説明する歴史ギャラリーへ。

 十一の部屋を使ってメインの室内展示に関わるさわりの部分の話をしており、これがけっこう面白かった。

 

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 本人の肖像画を中心に、音楽・天文学・建築等ルイ十四世が支援に力を入れた分野を象徴する小道具が描かれた絵。こういうことを中心にやっていきますよ、という感じ。


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 ルイ十四世が作った美術アカデミーの入会に必要だったという肖像画作品の数々。入会志望者はこれを以ってテストされる。もうすでにアカデミーの一員である先輩芸術家を描くのが慣例だったらしい。

 ここまでなら「いろんな分野の発展に力を注いでいたんだな」と解釈できるのだが……。


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 その果てがこれ。一見すると神話の一場面を描いた絵のようにも感じるが、中央にいるのは他でもないルイ十四世だ。こういった、神話の人物を寓意として使った自身の絵や室内装飾はここから先に山ほど飾ってあった。あくまでも己の権力を讃え、記録するために芸術を用いていたことがよくわかる。

 顔の部分だけ依頼主の貴族に成り代わっている聖人の絵なんかは他でも見たけど、これだけ描写が露骨で、しかも数が多いのは初めてだった。まあ私はアレゴリーという表現方法自体詳しく知らなかったし、これまでもいろいろ見逃してきた可能性はけっこうある。でも歴史に詳しくない身からすると素直に「え〜?!」って感じだった。


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 さてここからが本番。十一の部屋を過ぎるといよいよ宮殿の内部を見学できる。こちらは国王・王族のみが利用していた王室礼拝堂だ。

 

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 元は礼拝堂だったというヘラクレスの間。天井画の右下あたり、棍棒を持っている男性がヘラクレスだ。ルイ十四世は太陽王と呼ばれ、太陽神アポロンに自分の姿をなぞらえていたが、フランス国外への対外的なイメージとしてはヘラクレスを表象に用いることが多かったそう。

 ちょっとまとめられる気がしないので端折り気味で行く。

 

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 宮殿の中でもいちばん人気の鏡の間。これはすごい!「舞踏会」と聞いて脳裏に浮かぶイメージと完全に一致した。ルイ十四世はよくここをお散歩していたらしい。


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 三百五十七枚にも及ぶ鏡が壁一面に貼られている。

 

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 反対側には同じサイズの窓。


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 アポロンの間。オランダ戦争における勝利を記念して作られた部屋だそうだ。その流れで飾るのはもちろん自身を重ね合わせていたアポロンの天井画。つまりそういうこと。


 伝えきれていない部分も多いのだが、全体を通してルイ十四世がいかに自分やその家族を神と同一視していたのかがわかった。現代に生きる庶民の身からすると特権意識を通り越してもはや誇大妄想的に思え、馬鹿馬鹿しさすら感じる。ウィーン滞在中にシェーンブルン宮殿ベルヴェデーレ宮殿にも行ったけど、さすがにここまでのことはしていなかったし……。

 しかしこの冗談みたいな価値観を冗談で終わらせず、圧倒的な権力と構想力によって具象化させてしまうのはやっぱりすごいしぶっ飛んでると思った。こんな意識でいたから数世代後には革命を起こされたんだ……とも感じる一方、ルイ十四世の特異なキャラクターと王としての器には存分に引き込まれた。

 

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 インパクトが大きかったものだからルイ十四世の話ばかりしてしまった。まあそこは一旦置いておくとして、ちゃんと自分の趣味に寄った話もしよう。

 こちらは歴代の王妃が使用していた寝室。ピンクをメインに描かれた花束の柄の壁紙が素敵……!とひと目見て胸に刺さりまくった。本物のお姫様ベッドを目にすることができるなんて感激だ。


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 ここはマリー・アントワネットが使った部屋でもあるため、出身であるハプスブルク家の紋章が室内に施されていた。

 

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 時代は変わり、こちらはフランス最後の国王ルイ・フィリップが作ったという戦士の回廊。フランス戦史に関わる三十三枚の大作が飾られていた。

 

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 ジャンヌダルク

 フランス革命後の展示になった途端、急に室内の雰囲気が常識的な感じになった気がした。

 

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 ヴェルサイユ宮殿から出た後は庭園をお散歩。晴れて良かった。

 

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 せっかくなので敷地内にある大トリアノン宮殿へ。ヴェルサイユに比べるとあまり手を加えられていないのか、自然な劣化具合を見ることができて新鮮だった。

 

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 内装はこの通り綺麗だ。ただ、色使いがちょっと毒々しかった。

 

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 大広間。目が慣れてしまったせいでかなり質素に感じるけど、これも充分すごい。

 

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 そのまま歩いて小トリアノン宮殿に向かう。

 

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 マリー・アントワネットが愛人との密会に使っていたという、愛の神殿。

 

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 こちらは宮殿での生活に疲れたマリー・アントワネットが離れとして作った村。小さくてシルバニアファミリーのお家みたいにかわいい……、と言えば聞こえはいいけど、人々の営みの上に自然とできあがった村とは違い、なんともいえないレプリカ感があった。単に復元ということを言っているわけではなく、全体的な印象がハリボテっぽい。

 

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△離れにあったマリー・アントワネットの家


 マリー・アントワネットといえば贅沢三昧の果てに滅んだ貴族というイメージが強かったけど、宝飾品や賭け事に莫大な金を注ぎ込んでいただけならまだマシで、飢えの苦しみも知らないまま農民の真似事みたいなことをしていたというのがいちばん残酷なんじゃないかと思った。なんか庭で野菜とか作ってたらしいし……。でも、その立場でいろいろ考えた結果のことなのかな。

 

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 しかしたいへん魅力的な場所でもあった。当時からあったという牧場にたくさんのうさぎや山羊がいて心癒される。自然はいいよ。

 

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 うさたろも同類との遭遇に思わずにっこり。

 一生懸命草を食むうさぎを見ていたらとても満ち足りた気持ちになったので、そろそろヴェルサイユを後にすることにした。

パリ オルセー美術館

十一月十六日(水)

 今日はオルセー博物館に行く。この前訪れたルーヴルが古代から十九世紀中頃までの作品を中心に展示しているのに対し、オルセーはそれ以降に作られた近代の芸術作品を専門に取り扱っている。規模こそルーヴルの方が大きいものの、モネ、マネ、ゴッホ、ポール・シニャックなど印象派の絵が多く収蔵されおり、その充実度は負けていない。個人的な好みもあってかなり楽しみにしていた。

 

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 九時五十五分。九時半からの入場チケットを持ってオルセー美術館に到着。指定時間の三十分を過ぎるとチケットが無効になってしまうのだが、なぜか余裕ぶっこいて一時間半前に起きたため遅刻しそうになった。あと五分遅かったら普通にアウトだ。この旅をはじめてからというもの時間感覚がかなりルーズになった気がする。

 

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 元は万国博覧会のために作られた駅舎だったというオルセーの建物。入ってすぐのところからして面影が見て取れる。

 

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 まずは順路通り一階から見て行くことにした。入ってすぐぐらいのところにさっそく裸婦画のコーナーが。こちらはそれぞれポール・ボードリーとウィリアム・アドルフ・ブグローというフランスの画家が描いた絵だ。クラシックな雰囲気ではあるが、ルーヴルに飾ってあった作品と比べると色彩も線の感じも柔らかく、より親しみやすい感じがした。

 

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 ギュスターヴ・クールベの『寝床の女性』。名前は覚えていなかったけど、この絵はどこかで見たことがある。脇毛と陰毛がしっかり描かれているのと、脱ぎかけの靴下がエロティックだ。他の裸婦画に比べて明らかに異質な視線を感じた。

 この近くに有名な『世界の起源』があって、上品そうなお客さんがみな立ち止まって撮っていくのがおもしろかった。


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 ミレーの絵。『落穂拾い』と『晩鐘』。

 

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 この作品も引き込まれた。


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 コンスタン・トロワイロン。他にもいくつか牛を描いた絵があって、並々ならぬ愛情を感じた。毛並みのリアリティがすごい。


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 モネの人物画。屋内を描いているのと、写実的な絵柄が珍しかった。

 

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 マネの『オランピア』と、すみっこの猫。

 この辺りまで見たところでだいぶ楽しくなってきた。ルーヴルではひとつひとつの絵に込められている歴史的意義や背景まで考えてしまい、情報処理が追い付かずに苦しんだけど、オルセーに飾られている絵は元々好みというのもあり素直な美的感覚を以って楽しめる感じがした。


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 エルネスト・エベール。美しい手をズーム。全体像を捉えるだけではなく、こうして細部をよく見れるのが美術館のいいところだと改めて思った。

 

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 十二時。気がつけば一階を見て回るのに二時間以上かかっていた。事前に読んだブログには「オルセーを見て回るのに二、三時間はかかります」と書いてあり、「それなら午後はポンピドゥセンターにでも行こうか」と二人で話していたところだったのだが、ぜんぜん嘘だったな。ポンピドゥは明日に回すか、それも無理そうだったら諦めることにした。


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 五階が印象派作品のメインフロアになっているそうなので、まずはそこを攻めてから余った体力で他を見て回る。


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 大好きなモネの『昼食』。同名の作品が二点確認されている内の、一八七三年に制作されたほうだ。個人的にこの絵が今日見た中でいちばん良かった。


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 『戸外の人物習作(左向き)』。『戸外の人物習作(左向き)』と並んで展示されていて嬉しかった。こんなに贅沢なことってあるか。

 最初の奥さんをモデルに描いているという話が念頭にあったせいもあり、ぼんやり眺めていると甘く切ない気持ちになれた。


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 ルノワールの『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』。人々の上に落ちる光の表現と、夢想的な雰囲気が美しい。個人的にルノワールは少し苦手で、作品によってはけっこう狂気的なものを感じてしまうのだが、これは好きだ。物と物の間にある境界線の曖昧さがやさしい範疇に収まっている。


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 同じくルノワールの『ジュリー・マネ(猫を抱く子ども)』。この絵も良かった。猫の幸せそうな表情が愛おしい。


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 ゴッホの自画像。これは耳切り事件があった後のもので、切断した左耳が見えないように描かれている。

 

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 『オーヴェルの教会』。

 同じ大好きな画家でも、モネが「心ときめいてうっとり」という感じなのに対し、ゴッホはどこか切なく、胸が締めつけられるような気持ちにさせられるなあと思った。

 

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 モーリス・ドニの宗教画がとにかく刺さった。


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 五階を見終わった後は予定通り他の階の展示を巡った。

 こちらは彫刻家ジャン・エスクーラの『la douleur』という作。直訳すると『痛み』。表情から察するに、タンスの角に小指をぶつけた系の状況かな?と思う。なんともいえない瞬間を捉えていて魅力的だった。

 

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 ロダンの『地獄の門』。とにかく圧巻の存在感。どうやってあんなに大きな作品を作ったんだろうね、と二人で話した。


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 ルーヴルがロココならオルセーはアール・ヌーヴォーだ。当時の家具や調度品もたくさん展示されていた。


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 ふらふら彫刻群の間を歩いていたら一目でコ心奪われる作品に出会った。フランソワ・ポンポンの『白熊』という作品だそう。百年前の彫刻家らしいのだが、とてもそうは思えない愛らしいフォルムをしている。


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 署名の筆跡まで丸くてかわいい。

 

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 探したらポンポンコーナーみたいになっている部屋があった。美術館からの愛を感じる。

 

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 見逃したと思っていたピエール・ボナールの『猫』。足が長い。

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 ひと通り全部見終わった後は五階に戻っておかわりタイムをした。気に入った絵の前にもう一度立って心ゆくまで見つめる。お互いの感性を尊重してこの間夫とは別行動にした。しかし後でどの辺にいたのか聞いたら「ムンクの企画展見てたよ」と言われ、特別なチケットがない限り入れないと思っていた私は無事撃沈……。

 

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 十七時半。閉館のアナウンスが流れ始めたのでお暇することにした。外は雨だ。楽しく充実した時間を過ごせたという気持ちも相まって、なんだか遊園地帰りの夜みたいだと思った。


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 パンとチーズとワインを買って宿へ。今日はきのこと茄子の煮込み料理を作った。作ったというか、成った。本当はアヒージョ風にするつもりだったのだが、ものぐさをして解凍しないまま冷凍きのこを入れた結果こんな感じに。まあ味は美味しい。夫も喜んでくれたので良かった。