2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

第六十五回短歌研究新人賞応募作『温め鳥』

☆予選通過、2首掲載でした(※が掲載歌) 『温め鳥』 下茹でを忘れられてた大根の態度和らぐ二日目の朝 信じてたよりも甘いワンカップ片手に煮卵譲って冬至 婚約の夜に温め合うひとのように震えて鍋底の澱 おろしたてのセーター脱げば湿度保つ人の薄皮静電気…

トラベルクリニック(旅支度の断片集)

旅の才能 そもそもの話、私はまったくと言っていいほど英語が話せない。幼稚園児でも知っているレベルの単語しか知らないし、語順が日本語と違うのもなんとなく覚えているだけで詳しいことは全部忘れた。中学校に入ってはじめての定期試験で挫折感を覚えて以…

結婚しました

六月六日。今日はバームクーヘンの日だそうです。なんかかわいいですよね。そんなキュートな日に二人で区役所へ出向いて、婚姻届を提出してきました。恋人だった彼と、今日から法律上の夫婦になります。同じ家に住みはじめてからもうけっこう経ちますし、こ…

ケーキ屋さんにGO

欲しいものがいくつかあった 世間はピカピカしていた 飼い主をひっぱる子犬 はだかになった柘榴の木 蜂蜜酒をかけられて 酔っ払ってるバニラアイス バーカウンターの向こう側は 五右衛門風呂の話で 賑わっているようだ ここにいると 心が ドラム式洗濯機にな…

生きることに栞をくれる喫茶店 で あなたがしたことを考えていました 白百合の花粉で手を汚すのは もうこれきりにしたかったの ずいぶん若いんだね あの青年実業家 あの家の猫 あの子 そういって ゆっくり瞬きをしたかった 春 世界地図をひらいて すべてのと…

宇宙の瘤

魂の 整形手術を受けました たとえば 真夜中のバス停で 殺しのアナウンスを聞いているとき 世界はトレーシングペーパーによって 無限に転写され続けている あなたと私 から 私はあなた に移行した王国で 土砂降りの音のスコール ゆっくりくぐり抜け 何度もこ…

やさしい類義語辞典

丸いピンクのマグカップに 淹れたての珈琲を注ぐ あるいは チーズケーキを十六等分にしてみる いまこのフロアにいる人数分 作りすぎちゃった肉じゃがは いつだって近所におすそわけだし エプロンのポケットは 転んでしまった子に渡す ミックスフルーツ寒天で…

float

神様がいない世界って 親がいない金曜日の夜みたいだね あなたと過ごす週末は 時々 大きな声で笑いすぎる 花瓶を倒して気まずくなるよりは ずっといいかんじだけど でもね BIGサイズのポテトチップスと ストローをふたつ刺したコカ・コーラ 脂肪まみれのピン…

鈴虫

虫のいのちを 一途にやっている あたらしい 薄緑色の石鹸を 粉付きの紙包から取り出すとき カサカサと 微かな音がした それを 耳の奥に閉じ込めたまま あなたがいる寝室へと向かう まあるく窪んだ足の裏が ふたつ 笑いかけているようだったので 壊さないよう…

破損

透明な葡萄皿を泡立てながら おい おまえはいつ割れるつもり? と問いかけてみる 水の温度が下がったので それを返事と仮定して カステラのあまいにおいが充満する 食器棚に そっと 寝かせてやると ひとすじの光るしずくを流して おまえは死ぬのが怖いんだと…