あたらしい朝

 上海へ行きました。噂に聞いていた通り、夜景がとっても綺麗だった。同行者が運転する車の後部座席から、右へ左へと広がる輝きを眺めていると、自分の身体が芯を失って、空気と同化していくような気がしました。自身の処理能力をはるかに超えるうつくしさと出会ったとき、人は感覚だけの存在に成り果てます。色や形を知覚するための器官があり、においを嗅ぎ取るための器官があり、音を脳に響かせるための器官があり、冷気を実感するための器官がある。それ以外のことはすべて忘れてしまうのです。

 気が付くとそこは繁華街でした。車から降り立って、物珍し気にあたりを見渡してみると、いたるところに巨大なパンダのオブジェが浮かんでいて、馬鹿みたいに光っています。青、ピンク、黄、緑、赤、やけに雑多なネオンサインたち。わけのわからない文字ばかりが書かれた看板を眺めていると、つくづく、異界に来てしまったんだなあという感じがしました。

 そんな私の傍らで両親が言います。「死んだあの子はもっと出来がよかったのに」彼らと私との間に血の繋がりはありません……。

 という、夢を見たのでした。本当は一度も中国に行ったことがありません。でも、いつか行ってみたいとは思います。

 完全にとは言い切れませんが、吹っ切れました。我ながらたくましいと思います。あんなに好きで、あんなに楽しくて、あんなに切なくて、あんなに傷ついて、あんなに震えていたのに、一週間足らずで立ち直ってしまうなんて、意外と薄情ですね。でも、それが真実です。こんなにあっさりしていられるんだから、きっと最初から好きじゃなかったんだ、とも特に思いません。あのひとのことはいまでもちょっと好きだし、同時に、わりと憎いです。

 はやく新しい恋がしたいなあと思います。昔はかわいい女の子とかわいくない女の子のことしか好きになれなかったのですが、いまはそうじゃないし、イケている男の子のこともダサい男の子のことも平等に愛しています。そしてそういう子たちとするデートの時間が大好きです。

 恋をしてもしなくても、生きていれば傷なんていくらでもつく。そう思ったとき、生まれてはじめて他人を怖がらずにいられるような気がしました。