第61回短歌研究新人賞応募作 ☆予選通過、2首掲載でした(※が掲載歌)
『光明』
凍らせた百合の花々摘み取って天上のひとミンチ機遊び
いつもより酸素が多い朝だからついつい手伸ばす刃物特集
しろいろの侵略戦争受け入れてわたしの眼下もすっかり永遠
敷布団猫布団毛布掛け布団駄肉をこねる四角な獣
「きりん座によく似ているねおまえの瞳(め)」画面みせても知らん顔され
だれか火を 瞼を透かす陽光のよわよわしさにまどろみたくない
軽蔑を知ってるひとは奇麗だな憎まれてるのがわたしであっても
薔薇じゃない花も知るべきだと思い図鑑をめくる暮らしをつくる
食べログで天国という字検索す 明日行けるとはどういう意味だ ※
いちご酒片手に描いたくるぶしがくるくるまわる踊れバレリーナ
豆電球みつめておもう犯罪の名前をいくつ挙げられるか
友達の譲渡権さえ手放して愛するためにひとりになりたい
このくまは男のくまだなんとなく赤いリボンをきつく結んで
きみぷりてぃあなたらぶりーぼくきゅーとぬいぐるみにも社会があるよう ※
高校の選択科目に宇宙史が加わる日のこと夢みて午睡
善いひとになれないままで老人にやさしくしたい祝福の日に
夏の夜に一度轢きかけた野うさぎの呆けた顔をひやり思い出す
薄化粧会いたいひとなどいないけど汚れた食器も洗えないけど
山葡萄、桃にすいか、蜜柑の木 腕のうぶ毛 恋しいのがや
逆行をはじめてるらしきそのひとの口から垂れるおいしいお水
銀色と、肉、細やかな肉、きゃべつ ささくれのことは黙っておこう
食欲を削がない青があるものだ新入りらしき深皿ひかる
頻繁に最終回がやってくるこの腑だけ撃つバッハのなんらか
ふへほへと発語繰り返す祖母の歯は戸棚の奥で宙に浮いてる
古びてくばかりでこまるなこの家は赤い花瓶に小蝿の死体
明日にはこの退屈さえ色褪せて萎えた靴下とか履くんだろ
はずかしい思いをたくさんしてきたねしらないおんなよおい無視ですか
足裏の窪みがかわいいわたしです目が鼻が耳があらゆる穴が
理科室で鏡を割った日のことを反芻しながら二十歳になった