ㅤ人を好きになるのって、簡単すぎて逆に難しい。世の中よい人間が多すぎる。優しかったり親切だったり。偽善、というのだってなかなか侮れない。例えその動機が不純なものでしかなかったのだとしても、実際に起こした行動によって相手が助かるのであればそれは素晴らしいことだ。内実はどうであれ、私はよく躾けられた礼儀正しい大人たちのことを尊敬する。
ㅤそれに月並みな話ではあるが、本当によいところがひとつもない人間なんてこの世にいないと思う。どんな人であってもみな何かしら長所があり、美点があり、そのひとにしかないおもしろみを抱えながら生きている。
ㅤ例えその人物が私に対してまったく優しくなかったり、つれない態度をとってきだのだとしても、きっとその事実は変わらない。そういう風に私は信じている。
ㅤ問題はこうだ。
そうした中で、どうすれば「みんないいひとだけど、でも、このひとの替わりだけはいない」と思えるのか、ということ。そこのところがまったくわからない。あまりにもわからないので昔からずっと困っている。次から次へと同性を好きになり、異性を好きになるのはよいのだが、そのせいで一個人との間にトラブルが起きた際、もうちょっと踏ん張ってみようかという気持ちが起こりにくい。もちろんまったくないわけではないのだが、最終的には通じ合うことを諦めてしまうことが多かった。
ㅤこの性質が治らない以上、ひとりの恋人と長く付き合っていくことは不可能だと思う。
II
ㅤ最近、また好きな男ができた。他と比べてそのひとの何が特別なのか、やはり私にはわからない。というか、今回に限ってはさすがにわからなすぎる。まったくタイプではないし、話が合うような予感もしない。そのくせすごく気になるし、視界にそのひとが現れると安心する。なぜなのか。
ㅤ考えていて気が付いたのは、理由なんてものは所詮すべて後付けなのではないか、ということ。
ㅤいま大切にすべきなのはそのひとに対して何らかのインスピレーションを感じた、という事実そのものであって、なぜそうなのか、という部分ではない。いくつか選択肢がある中で、自然と手が選んでいた。それだけで十分ではないか。言葉で説明できることだけを信じて生きるのはナンセンスだ。自分の心に従って、暗中模索の恋を楽しんでみるのも悪くはない。
Ⅲ
ㅤ洋服と恋のことしか考えたくない。
