不燃物

僕もそれをやりたかったのだ。そうだそうだ、そうだよな、燃やされたくないよな、とそのときは思ってううとかやってたけど、本当は僕がそれをやりたかったのに、先を越されて、僕まで続いてそれをやったらバカみたいだし、バカと思われたくないし、これで僕まで棺桶にすがりついたらホントに火葬が中断されて葬式が台無しになっちゃって皆に迷惑をかけてしまうかもしれないし、それは怖いな、というつまんない気持ちでその大事な瞬間を逃して悔しかったのだ。(好き好き大好き超愛してる。舞城王太郎

 

 なぜ私はもっとみじめったらしくなることができなかったのか、なぜ捨てられたかわいそうな女になることを嫌がったのか、そればかり考えている。こんなどうしようもない人間、プライドなんか持ってたらそっちのほうが恥ずかしいだろ、みたいなポーズを取りたがるくせに、いつもギリギリのところで自分を守ってしまうことが、我ながら心底情けないし、嫌だ。この性格のせいで私はまた大切なものを取り逃してしまったわけだが、悔やんだところでもう遅い。新しい彼氏もできたことだし、いまさらあの子に会うことはできない。苦しいな。苦しい苦しい苦しい。苦しいよ。

 

 あの子とちょっとの間会って、お互いそれなりに楽しく生きていることを確認し合う、それ以上に必要なことがこの世にあるのか?ないだろ。ないけど、でもそういう瞬間を得るためにはいったいどうしたらよかったんだろう。わからん。路上にひっくり返ってみっともなく喚いたところで現実が変わっていたとは思えない。

 でも、だとしてもやっぱり一度ぐらいは死にかけの蝉でも真似てみるべきだったのかな。ちょうど夏も終わりだし。

 

 つまるところ私はまだあの恋を引きずっている。