鬼とひよこ豆

わたしの上司を ひとは 鬼と呼ぶ

本人の前では言わない

かくれてこっそり そう呼ぶ

わたしも あのひとに仕事を教えてもらったの

それぞれにいいやり方があるってね

ちょっとこわいけど 尊敬しているの

そんなことをいいながら

みんなどこかに隠れてしまう

怒っていないときの上司は

ちょっと天使にも似ていて

肘から手首までが赤ちゃんみたい

上司がつるんとしているとき

あれ みんなどこいった

なんて言われると ちょっとかなしい

かなしいけれど 愉快な気もする

鬼もほんとは みんなと仲良くしたい

わたしには なぜかわかる

なぜだろう?

取引先の かわいい女の子と話すとき

鬼はちょっと うれしそうな顔になる

そして実際 うれしいんだろう

でもほんとうは あまり興味がない

女の子よりも仕事がたいせつ

仕事というよりきちんとすること

嘘をつかず ずるをしないこと

わたしはなぜか 知っている

たまごみたいだった上司の顔が

だんだん鬼に変わってゆくとき

わたしはふるえて ひよこ豆みたいになる

こわいけど きらいだとはおもわない

尊敬しているからだとおもう

そんなことを言いながら

わたしもみんなとかくれたい