2019短歌

詠んだ順に56首

1.満員の電車つり革につかまって案外大きい彼女のつむじ

  1. 過ちを犯してからも生きてけよ念込め見やる変身ベルト

3.死ねるほどの夜があっても吐きはせずかわいい寝癖に綿毛かさねる

4.吊るされたシェード・ランプよ落ちてこい不眠で滑るマカロニの穴

5.星たちの忠告無視して求愛を続けるつもりがあなたは忌引き

6.お月さま丸くてうけるお前みたい はしゃぎすぎたね春は夜だね

7.もうなんか、全部が自業自得です身から出た錆ラメ感つよめ

8.わかるっていっちゃいけないけどわかる胡桃割るとき感じる恐れ

9.がんばらなきゃなのにがんばれなくて泣くやわからかくあれきみの寝床よ

10.スカートをひるがえすときちょっとだけ悪魔じみてる腿の青痣

11.もう若くないあなたが好き若いけど別にかわいくないわたしより

12.花の名をいくつ知っても背は伸びぬ街は壊れず酸にも解けず

13.ゴミ袋締めてるときに思うこと自分の指を間違って棄てた

14.差し入れに肉を選ぶな 人工のバニラふり撒くきれいだったひと

15.宗教に縋りたしとは思っても和解すべきは神じゃなく親

16.やさしいね ぼくはとっても愚図だけどソフトクリームこぼさず食べる

17.劣化していく薄皮に切れ目いれ無垢な肉見て安心したい

18.なぜだかはわからないけど生きていてほしいとおもう新品の友

19.情熱と名付けられてる羊羹を素通りしたあと悲しかったな

20.デパ地下の光に照らされ保護された煎餅とかより価値なき私

21.正解が存在しない人生にせめて三角だけでもくれよ

22.コンビニへ行く才能すらないわけで 今日のため噛む昨夜のするめ

23.丸すぎる顔に嫌気がさしてきて攻撃的な目つきのブラ買う

24.当館に下り専用エレベーターありませんからここから落ちて

25.気狂いをいくら反省したとこで頭の螺子は蛍光ピンク

26.処方箋出せるものなら出してみて赤いスカートみんな褒めるよ

27.わたしよりうつくしいのにわたしより楽に手折られ哀れシベリア

28.胡蝶蘭ゆうべの夢では羽根ひろげ知らん死体をいつくしんでた

29.向日葵が自殺者のこと話してる眩暈だけが七月だった

30.ご自分の病気使って遊ぶのはそろそろやめてサティをとめて

31.他人事のような顔したファミレスで何度振り翳す銀のフォークを

32.欠落が露呈するたび笑うなんて悪いひとだね光るツノ撫で

33.教室の談笑横目についさっき死んだうさぎが空を飛んでる

34.焼きたてのパンの香りが蔓延ってぼくらの理性透過してくる

35.保健室無地のカーテン風に揺れ明るい午後に溶けろと迫る

36.行けなくてごめん ほんとは好きでした文脈無視のピザの絵文字も

37.野性とは口から滴るものかしらやけに四角い前歯を叩く

38.まだ腐る前でよかった会えたのが無菌室に置き忘れの夏

39.あらかじめ遅刻すること決めていたのをばらしてもキスは続いた

40.遺失物センターにゆくわたしごと持ち主不明でいたかった餅

41.あたらしい恋人と会う前夜なり躊躇うことなくしぼるニンニク

42.髪切ったぐらいで変われるはずがない わたし以外は 真っ赤なリップ

43.自販機で売ってよホット・チョコレート編んだばかりの緑のマフラー

44.盗癖を告白された朝にまた戻れたらなとシャツにアイロン

45.生きているというよりかは逃げているなんて罪なの冷めた味噌汁

46.容疑者の背中にあおの鱗ありいまだ逃走中の模様

47.痩せこけた祖母の手のひら百合に似てかなしい軽さ私に重なる

48.きよらかなつもりでいてね金色の光がいずれ攫いにくるから

49.体温と、猫と風呂場とまな板をきみとぼくとは共有してる

50.なんちゃって おもちゃのナイフ翳すふり怯えた顔に払う百円

51.屋上ででっかいメロンを切り分ける月の分身みたいと笑う

52.製菓用ブランデーの瓶ラッパ飲みしてる天使が告げる終末

53.止まれって書いてあるのに進んだねきみは毎朝パンを選ぶね

54.暗闇に花が浮き出てああ白い女の首を刎ねたいとおもう

55.LOVELYと呼ばれてみんな返事する野菜ぎらいが元気に笑う

  1. 肉と肉 昔の日記読んでみりゃ愛という字が壊れ切ってる