もう一生おもしろいことが書けなくてもいい

 いまの彼氏と付き合うようになってから、何かと欲が薄くなったな、という気がする。

 もちろん、いっしょにいる間は相手に性欲を感じるし、おいしい食事やきれいな景色を共有したいとは思うけど、この世に望むことといったらほんとうにその程度のもので、それ以外の、特に一人でいるときなど、無性に何かを買ったり食べたりしなくては気が済まない、というような焦りに襲われることがほとんどなくなった。彼氏と一緒にいるだけで気持ちが満たされるから、余分なものをあまり必要としなくなったのだと思う。去年、失恋のショックで過食が止まらなくなり、十キロ以上太ってしまったときとは大違いだ。いま考えてみると、つくづく、あのときは不安とさみしさでどうにかなりそうだったなあと思う。

 

 彼氏の好きなところはいくらでもある。だけど、いちばんはやはりその真っ直ぐな愛情だろう。会うたびに、どころか、もはや目が合うたびにかわいい、好き、と言ってくれのが嬉しいし、こちらが求める以上に私を求めてくれるので、一緒にいるだけで存在を肯定されたような気になってとても安心する。好きって言ってくれたから好き、なんて不純な考え方じゃないかと思ってたけど、実際、こうやって熱烈に愛されてみるとそれを突っぱねる気になんかとてもなれないし、好意には好意で返そうという心理が自然と働いて、こっちもバカップルみたいなことばっかり言っちゃうししちゃう。愛情を出し惜しみする人って嫌なんだよな。私は自分に自信がないし、そのせいで常に不安定だから、こうやっていつでもわかりやすく愛情を表現してもらえないと他人の気持ちを信じられないんだなって、報われてからはじめて気がついた。自分が傷つく心配よりも、私に尽くす愛を優先してくれる相手だからこそ、こっちも120%の気持ちで返そうって思えるんだろうな。こういう人とじゃなかったら、きっと一生涯恋愛は無理だったろうなあとつくづく思う。彼氏と違って私は自己中で卑屈だから。愛情に飢えているくせに、それを隠して、自分でも気づいていないフリをするプライドの高さもあるし。こんなひねくれ者を好きになるなんて、彼氏は変わってるなあ。

 

 お互いがお互いのことをめちゃくちゃ好きなので、最近は彼氏と週5くらいで会っている。その影響で趣味に費やす時間が減った。本を読まなくなったし(これは仕事が忙しいせいでもある)、ひとりで喫茶店めぐりをすることもない(行きたい店があったら彼氏と行きたい)。前みたいにぐるぐるわけのわからない理屈をこねくりまわして遊ぶこともなくなったので、わりと依存していたつもりのTwitterにもあまり顔を出さなくなった。彼氏の惚気だけどんどん出てくるので、それを吐き捨てるためだけに裏垢を動かしている。最初にも書いたように、余分な欲が沸かないから服も買わないし、ひとりの時は雑なご飯しか食べない。

 幸せだけど、人間としてはどんどん退化していっている気がして、でもそのだめにされてくかんじが気持ちいい。生活って、人との暮らしって、いままで考えていたよりもずっと動物的なものだったんだなあと思う。

 

 女は彼氏ができるとつまんなくなるとかよけいうけど私に限ってはほんとの話だったな。でも別にそれでいいのよ。彼氏と無言で抱き合ってる時間以外全部全部消えますように。もう一生おもしろいことが書けなくてもいい。