冬の穴

失踪がだいすき母と父捨てて餃子が好きな舌だけ連れて

顔のないひとになりたい知らん町 紙コップもらう 熱さかんじる

朝だよと触れてくる手がない朝にシーツの奥で種になってる

砕かれた携帯埋めて木を生やす中身が空の檸檬育てる

待ち人は来ませんそれでいいだろうふらつきなさいと口説く中吉

釜飯をひとりで食らう歓びに胃の腑の底の獣性吠える

捨てたのか捨てられたのかわからない蓮根の穴数え続けて

木彫り熊連れて行こうか寒空の下で一献傾けようか

硝子片風に溶いたの誰だろうお湯で流せる切り傷だらけ

やけっぱちねずみになって逃げ惑う抵抗なしでおとなになれない

洗顔の回数ふえて気がついた血が不得意なあなたが必要

軟膏を指先で取る 取りすぎる 不安の量だけべたつく火傷

台無しになることだけを考えるその一方で外科医を探す

言わないでおきたい話ばっかして不愉快にしてごめん好き死んで

火曜日を生き抜く中で笑わずにいられた事実うれしくて泣く