第六十七回角川短歌賞落選作『吹きさらしのクマ盗難計画』

 遺家族と呼ばれ応える三人の子、三人の父、霊前の海老

 

 「別の人のロイヤルベビーも産みたいと言われてみんなフラれたみたい」

 

 季節来遊魚のように棲むことが得意な女性だったと聞いて

 

 妹の定義が欲しい妖怪の名前にずいぶん詳しそうだね

 

 馴れ初めをはじめて知ったそれは金色に輝く雛壇の落下

 

 長生きに寿司が効くって耳慣れぬ教えはたぶんインド哲学

 

 惑い箸とがめるほどの仲じゃなく眼鏡の縁に興味を変える

 

 アマチュアの天文家名乗る少年にファンタグレープ奢って寄越す

 

 花冷えの気配の中の那須旅行 家族写真は複製されて

 

 「こんなんじゃダメだよママは焼き林檎供えられてもぼくら認めない」

 

 放火罪よりはマシだと出来立ての身内に言われ幽体となる

 

 お猪口からジンジャーエール溢れ出し岬の方へ逃げたいのかも

 

 ウィスキー・ボンボンあげる菓子盆の主力選手の話をしよう

 

 窃盗をポップに誘われ婉曲に断るときのタイ語知りたい

 

 見取り図にフィッシュナイフを突き立てる役は確かにやりたかったな

 

 王様の代理人的顔をして熱弁ふるうミニチュア仏陀

 

 名産の酸っぱい果実並べ立て片っ端から爆破するという

 

 まかせてと有害図書にしおり挿す左手首にりすのスタンプ

 

 「仏壇にこれがあったらクールだと私も思う。キャプションも要る」

 

 少子化の世に生まれ出て箱入りにされるでもなく星盗む定め

 

 母親のサブスクリプション解約し所有欲とは昭和の流行り

 

 つるぴかな親父だけどもミニカーを買ってもらった覚えとかある

 

 「終わったら手花火しよう。サイレンが鳴る美術館の緑の庭で」

 

 罪状を西洋カルタで占って受験のこともおまけされたい

 

 無軌道な歩みを好む血筋だと会話じゃなくて身体で気付く

 

 ちょうどいいチェーンソーなら家にある氷を切って風呂に隠すか

 

 喪主が来てお開き告げるこの会の主役は個人じゃなくて各自

 

 ばあちゃんの匂い袋をこじ開けて数式書いた紙入れ返す

 

 霊光がモールス符号発信しテレビに出たら録画するねと

 

 背開きにされた金魚を池にやる等価の命宿る手青い

 

 春の風熱った体に心地よくソウルメイトがどこかで笑う

 

 人権について作文書く課題出てたらネタにしてた黄昏

 

 温め鳥おなかの中に我らいて腐り果てても変わらずふかふか

 

 ネグリジェを羽織って帰るそのひとの配慮のなさに母の面影

 

 変声期きたら遊ぼう難読の漢字を何個も忘れた頃に

 

 「みなしごの控え室だね火葬場は。パパ、お兄さん、酒呑童子も」

 

 前借りの梅干飴を転がしてどうしてこんな長い家系図

 

 入念にやるなら棄てるべき炎クリアケースにはさんで仕舞う

 

 倒産が予定されてる我が家には床屋のくるくる、あと栗がある

 

 別にずっとふたりだったろ泣くなって中華料理でビールをやれよ

 

 ルビーには魔力があって記念日にデートで焼いた山のようと父

 

 レトルトの離乳食さえ思い出か空のパウチのスクラップ帳

 

 留守電にプールの音が入ってて音楽室の床が恋しい

 

 永日の終わりに篭るキッチンで水切りラックに心置きたい

 

 今朝まではホットとしての自意識があった深煎り珈琲流す

 

 こそ泥が三角窓から覗いてるような気したが絵本の投影

 

 熟睡の合間見る夢図に描いて肺循環の改革謀る

 

 洋酒瓶ラクトアイスにかたむけてなんにもでない 春の不具合

 

 よく脱げる靴下だけをつけ狙い軽犯罪のトレンドになる

 

 ノンセクト・人類として今日あったことはもらさず隠匿しよう