大阪旅行 出発

十一月十八日(木)


 アルバイトの最終出勤日だった。本当は入って三日で辞めるつもりだったし、それほど思い入れもない仕事だと思っていたのだけど、いざとなるとやっぱりどうしてもさみしい。

 帰り際、いちばんお世話になったおじいちゃんに「たくさん働いてもらったね、次のところでも頑張ってね、おれはしばらくここにいるから、次が見つからなかったら戻っておいで」と言ってもらい、思わず泣きそうになった。「○○さんもお元気で」のついでに「長生きしてね」って言いたかったけど、「まだそんな歳じゃないよ!」って怒られるかもなあと思ってやめておいた。


 お互いに別れを惜しんだあと、最後の最後に「お疲れ様です」と言って外へ出ると、なんともいえない空っぽさを体の真ん中あたりに感じた。それは解放感でもあり、寂寥でもあるような。見かけない猫が裏庭の階段でじっとしていたので、思い出として写真を一枚撮っておく。

 この頃随分暗くなるのが早くなったなあ、なんてありふれたことを考えながら帰路に着いた。

 

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 とはいえ感慨に耽ってばかりいるわけにもいかない。今日から十日間、恋人と大阪に行くことになっているのだ。


 帰宅するとすぐに干してあった洗濯物を取り込み、キッチンとメインの部屋を片付け、荷物のパッキングをはじめた。

 いつも思うけど、私は「やるべきこと」の処理が本当に早い。これは基本的なところに「どうせいつかはやらなきゃいけないことなんだから、さっさと終わらせてしまったほうが精神的にも時間的にも余裕ができていい」という割り切った考えがあるのが大きいと思う。また、もっと単純に、「やるべきこと」の存在に拘束されている状況が嫌いだ、という感覚の問題でもある。どうせのんびりするならなんの予定も入っていない状態でのんびりしたいし、そのために物事に優先順位をつけ、効率的に目の前のことを片付けいくのは気持ちがいい。まあ、そういう性分なんだろう。反対に、「やるべきこと」ではなく「やりたいこと」があるときはものすごくダラダラしてしまったりする。結局損なのか得なのかわからない。


 恋人の仕事が終わるのを待ってから二人で簡単に夕飯を食べ、お風呂に入るとすぐ家を出た。二十四時二十分新宿発の高速バスが出るまではまだ四時間近くあったけど、いてもたってもいられない気分だったので仕方ない。

 新宿の喫茶店で閉店間際までダラダラと本を読み、夜逃げ気分を味わいながら時間をやり過ごした。(ちなみに私は旅先に本を大量に持っていっては結局たいして読まずに後悔するタイプなんだけど、今回はpha『どこでもいいからどこかに行きたい』/五木寛之塩野七生『おとな二人の午後』/池上俊一『魔女と聖女 ヨーロッパ中・近世の女たち』をお供に連れてきている。)


 そこからさらに一時間ぐらいバスタ新宿の待合室で待った後、ようやく乗車。死ぬほど眠い、疲れた、しんどい、でもそのおかげでよく眠れそうだ。

 

 

十一月十九日(金)


 目が覚めた時には八時過ぎだった。予定通りなら目的地の梅田にそろそろ着く。高速バスの椅子は決して寝心地がいいとはいえないような硬さだったけど、限界まで疲れていたのもあり、思ったより熟睡できた。途中、トイレ休憩などの折に何度か目が覚めたものの、合間の眠りが深かったために体力はかなり回復している。これなら宿のチェックイン時間まで元気に歩き回れそうだ。


 と、そのときは思った……。


 私は大阪の地理に全く詳しくないのだが、梅田というのはどうも東京でいうところの銀座や丸ノ内に当たる場所らしく(恋人が教えてくれた)、バスから降りた瞬間に都会だなあと感じた。東西南北どっちを向いても綺麗な高層ビル群が立ち並んでおり、歩いているひとも品のいいビジネスマン風の人物が多い。

 通勤途中の人々とすれ違いながらいいかんじの喫茶店を目指してしばらく歩く。

 

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 『喫茶サンシャイン』でモーニング。ホットコーヒーとチーズトーストのセットを頼んだ。分厚くて美味しい。

 近くの大阪駅第3ビルの中にある古書街が気になっていたので、開店時間までしばらくまったりする。バスを降りたときは大丈夫だと思っていたのに、座ってゆっくりしているとそのうちだんだん眠くなってきた。

 

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 二人ともお腹が空いていたので、古書街を適当にぶらついたあとさっそくお昼ご飯を食べることに。そのまま第3ビル内の飲食店をぶらぶら見て歩いた。イメージ通り、基本的にどこも安くてボリューミーだ。あと、オムライスの上にハンバーグが乗ってることが多い。名物とはちょっと違うけど、そういう風土ってことなのかもなあと思ったのでそれを選んだ。出発前に新宿で飲んだロイヤルミルクティーとほぼ同じ値段だね、なんて言いながら、お腹いっぱいご飯を食べて幸せに浸る。いや、もう超眠いっす。

 

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 梅田駅の地下(おそらく……)。噂には聞いていたけど、駅周辺がダンジョンみたいになってる。単にわかりにくいというよりは、面積が広く中に入っている店の数が多すぎる。これだけ地下街が充実してるんだから、たとえ地球に強い酸性雨が降り注いで人類の99%が滅亡したとしても、大阪の人たちだけは今日と同じようにいいもん食いながら楽しく生き延びるんだろうね、という話を恋人とした。

 

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 疲れてきたのでぼちぼち予約している民泊へ。なんとあの有名な西成区のすぐ近くです。いろいろと不安はあったものの、調べた中でいちばん安いかったし、面白そうな飲み屋街も近くにあるし、危ない行動(夜一人で出歩く、観光気分でやばそうなところに近寄らない等)さえ取らなければ大丈夫じゃない?と恋人がいうので一応合意の上ここに決まったのだった。

 その町の治安を知りたかったら自販機の値段を見ろ、とはよく言うが(恋人談)、この安さね。ほんとに大丈夫なんですか?まあ、大丈夫なのかもしれないけど、うちのひとにはこういうところがあるよね。

 

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 とはいえ部屋自体は綺麗だし、設備も良く、ベランダから眺める夕焼けもいい感じ。

 

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 部屋でゴロゴロしているとそのうちいい時間になってきたので、腹を満たすため新世界方面へ繰り出すことに。写真は通天閣

 

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 大阪といえば、ということで一軒目はたこ焼き屋にしておいた。甘ガーリック味のたこ焼きが美味しい。

 あちこちに射的屋さんやレトロなゲームセンターがあり、日常的に祭り気分を味わえるのがいいなあと思った。

 

 二軒目で串カツを食べて〆。

 

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 ちょっと散歩してスーパー玉出で軽く買い出し。めっちゃかわいい。


 このへんにはどうもカラオケ居酒屋という独自の文化があるらしく、意味のわからないぐらい大量にその手の店が立ち並んでいた。シンプルに気になる。明日以降行こうね〜という話を恋人とした。