透明な葡萄皿を泡立てながら
おい
おまえはいつ割れるつもり?
と問いかけてみる
水の温度が下がったので
それを返事と仮定して
カステラのあまいにおいが充満する
食器棚に そっと 寝かせてやると
ひとすじの光るしずくを流して
おまえは死ぬのが怖いんだと
葡萄皿が囁いた
わたしはなにもわからない
薄い硝子戸の向こう側では
うつくしい 便利なものたちが
勝手に愛を覚えて
子を増やそうとするので
わたしはそれを間引かなくてはいけない
だけど
ほんとうはあなたがたも
割ってもらうのがすきなのだ
いまは夜で 夏で
わたしはまだ
人を殺したことがないようでした
(☆ココア共和国2021年10月号傑作集Ⅰに掲載していただきました)