鈴虫

虫のいのちを

一途にやっている

 

あたらしい

薄緑色の石鹸を

粉付きの紙包から取り出すとき

カサカサと 微かな音がした

 

それを

耳の奥に閉じ込めたまま

あなたがいる寝室へと向かう

まあるく窪んだ足の裏が ふたつ

笑いかけているようだったので

壊さないように そっと そっと

表皮に触れてみる

 

真逆に寝転んで

月の光と遊びながら

空気の音を身体でなでた

 

青く透る血管の

向こう側には虫が住んでいて

そいつはきっと

鈴のような 木琴のような

金色の声を持っている

 

とても静かだった 日

 

 

(☆ココア共和国2021年11月号佳作集Ⅰに掲載していただきました)