九月七日(水)
目覚めると足がものすごい筋肉痛だった。階段を昇り降りするのがつらい。大人になってからあまり運動をしてこなかったので、この感じは久しぶりだった。昨日の登山を振り返って思うのは、確かに頂上からの眺めはきれいだけど、別に麓から見ても同じくきれいだし、そこにわざわざ"登る"意義は見出せないな……ということと、であるにも関わらずなぜか体を酷使したことが楽しくて、夜寝る直前までずっとテンションが高ぶったままだったということ、そして一晩明けた今もなんとなく気分がいいということだった。理由はわからないが想像していたよりずっと好きだと思った、登山。この勢いでどんどんアクティブな遊びに挑戦して、そのうちブラックバス釣りとかもやりたい。
三度寝ぐらいしたのちに外へ出たら、宿の飼い犬・飼い猫たちが寄ってきてくれて嬉しかった。わりとみんな人懐っこい。動物がたくさんいると楽しいなって思った。
ビューティフルイズキャット。
昨日すごいと思った教会が宿の目の前にあるので、礼拝がてらもう一度行ってみることにした。が、扉が閉まっていて中に入れない。どうしようかねと二人で話していると、近くの木陰で休んでいたおじさんがアルバニア語でこちらに何か呼びかけてきた。「怒られるかも」とか思いつつ、何か教えてくれるかもしれないしとりあえず近くに寄ってみる。するとおじさんは傍に置いてあった三味線みたいな楽器(後で調べたらチフテリという民族楽器だった)を手に取って、得意の速弾きを見せてくれた。おおー、と感嘆してひとまず拍手。すると今度は懐から透明な液体が入ったペットボトルを差し出して、「ラキ!」と言う。ラキとはアルバニアで最もポピュラーな蒸留酒のことだ。どうもそれを飲めと勧めているらしい。おじさんと間接キッスだよ!と思いながら夫婦揃って一口二口回し飲みすると、身振り手振りで「もっと飲め!」と言われた。私はかなりお酒が弱いので断ろうとしたのだが、「いいから!」みたいな感じでぜんぜん聞いてくれない。仕方ないので言われるがままにもう一口だけ貰う。そしたらおじさんも渋々満足したようだった……ということがあった。特に金品などは要求されなかったけど、何?たぶん良い人だったとは思う。ラキ自体もまろやかな口当たりで美味しかった。
一時間半ぐらい歩いたところに有名な滝があると聞き、ちょっと探検がてら行ってみることに。村の景色が美しくてどこを撮っても絵になる、というか絵かもしれない。
△復讐の塔
通りすがりに、人々が"血の復讐"から逃げるために使用したとされる塔を見つけた。私たちは外観だけで満足してしまったが、入場料を払えば中にも入れるらしい。
奥のカフェでコーヒーを一杯。客の子供がひたすら成人前の鶏を追いかけて遊んでいた。ギリシャでも鳩追いに熱中してる子供をよく見かけたし、人間の本能の一部なのかもしれない。
マリアのような像。
親切な道標を見つけた。川のすぐ傍を歩いていく。
ペラペラの板で出来た橋。少し怖かったが、自分より明らかにガタイのいいお兄さんが先行くのを見て「理論上は大丈夫!」と唱えながら渡った。
渡った先の道。
こんな感じの岩場を伝いながら歩いた。後で気がついたが、他にもっと易しいルートがあったっぽい。
石垣。しばらくの間は平らな道が続いた。
残り八百メートルぐらいの地点から道が急になりはじめた。昨日の登山程ではないが、ゴツゴツした岩と砂利の上を歩くので少し注意が必要だ。
道を一本間違えて小さな滝を見つけた。
本物はこっち。結局一時間ぐらいで着いた。山奥なのになぜかフリーWi-Fiが飛んでおり、しかもけっこう早い。アルバニアに来てからいちばんいいWi-Fiだったかもしれない。気分がいいのでしばらく座って滝を眺めながら過ごした。
犬が気持ちよさそうに寝ている。
ぼちぼちお腹が空いてきたので村に戻ることに。気がついたら来た時とは微妙に違う道を進んでいた。でもこっちのほうが良い水場もあるし、何より安全だ。
十二時半、空が綺麗。
適当なレストランを見つけたので入ってみた。赤いパラソルの下で食べたので写真がサイバーな感じに。トマトの自家製ピクルスが美味しかった。
しばらくダラダラしてから宿に戻り、昼寝。起きがけに若干喉が痛いような気がして、一瞬「あのおじさんとの間接キッスが……」と脳裏をかすめたが結局気のせいだった。良かった。
夕飯の時間まで外をお散歩。暮れていく村も美しい。
今日のディナー!画面に収め切るのが困難なほどの量。しっかり昨日とメニューが違うのも嬉しかった。
来たな!にゃんこ怪獣。
餌をくれ、という顔。
母猫と子猫がいて、子猫の方がベンチの隙間からおしり引っ掻き攻撃をしてくる。最初は「やめて〜」としか思ってなかったのだが、これってもしや人間を椅子から退けて餌を取りに行く作戦?だとしたら賢すぎる。
宿のひとが頻繁に二匹を捕獲して外へ連れ出すのだが、何回やっても結局あの手この手で中に入ってきてしまうし、私たちとしても猫が傍にいたら嬉しいのでそのままにしてもらうことにした。食卓に手を出そうとするのを諌めて床に下ろすのが楽しい。明日からまた猫ナシ生活か〜と思うといまから寂しかった。