九月十四日(水)
八時には起きて行動を開始した。ウィーンは見どころが山程あるのであんまりのんびりもしていられない。あれを見逃した、あそこも行けばよかったと後悔しないように、初日からぶっ倒れるほど予定を詰め込んだ。正直、行くところが多すぎて見たものをきちんと文章にまとめられる気がしない。
まずはカスタマーセンターまで行き、事前に予約しておいたウィーンパスをゲットした。これ一枚で美術館・博物館など、六十以上の観光名所に入場することができる。一日間券、二日間券、三日間券、六日間券とあり、私たちは滞在日数に合わせて二日間券を購入した。大人一枚百十九ユーロ(約一万七千円)なのでまあまあな値段だが、これで見ることのできる内容を考えるとだいぶ安い。ウィーンパスがあれば優先的に入場させてもらえる場合もあるようだし、複数巡りたい箇所があるのであれば買っておいて損はないはずだ。
最初に目指したのはシシィ博物館。
"シシィ"はオーストリア=ハンガリー帝国の皇帝フランツ・ヨーゼフ一世の皇妃・エリザベート王妃の愛称だそう。ちなみにこの前行ったラテン橋で暗殺されたフランツ・フェルディナントはフランツ・ヨーゼフの甥っ子。
中はいくつかのセクションに分かれており、私たちは順路に沿ってまずハプスブルク家の宮廷銀器コレクションを見ることにした。
トイレセットと書いてある。たぶん、用を足した後に手を洗うためのバケツとかなんだろうけど、それさえも優雅ですごい。
一面のキャンドルスタンド。
お皿の上のナプキンに注目。これは皇帝が君臨するディナーにのみ用いられるたたみ方で、「皇帝のひだ」という名称がついているらしい。折り方は極秘で、代々決まった役割の者にだけ口伝えで教えられるそうだ。
ひたすらにうつくしい食器類が並ぶ。
フェルディナント皇帝が戴冠式の際に発注したという、ミラノのセンターピース。
なんかもうよくわからないけどすごい。
日本・中国風の食器も。
ラストでまたグッと心を掴まれた。これは何の用途に作られたものなのか……。わからなくても、良い。
銀器コレクションを見終わった後はそのままフランツ・ヨーゼフとエリザベート皇妃の皇帝住居の展示へ。こちらは写真撮影禁止だった。
フランツ・ヨーゼフの部屋にエリザベートの肖像画がたくさん飾られていたのに対し、エリザベートの部屋はそうでないのが印象に残っている。いろいろあって彼女は最後暗殺されたそうだ。
シシィ博物館を出た後はスーパーでパンを買って一旦休憩。
次、ウィーン王宮宝物館へ。こちらではハプスブルク家が収蔵していたいろんなキラキラしたものを見ることができる。
マントに刺繍されているのがハプスブルク家の紋章。
王冠の絵と、おそらくその実物。ついていた宝石は盗られてしまったのだろうか。
富!
キリスト教関係の彫刻等も充実していた。
中でもびっくりしたのは聖遺物が展示されていたこと。最後の晩餐で使われたとされるナプキンの切れ端などが大切に保管されており、真偽はともかくすごいなと思った。
ディテールの細かさが狂おしい。
宝石の加工技術がまだそれほど発達していなかったのか、素材そのままといった感じで王冠にあしらわれているのが逆に良かった。
金羊毛騎士団の首飾り。ウィーン宝物館はこんなところ。
が、なんと休館中でした……。まあこれだけ名所がたくさんあったらひとつぐらいは行けないところがあってもしょうがない。その分他で行けるところが増えたと思うことにして、次へ。
アルベルティーナ美術館。モネやピカソを初めとし、近代美術のコレクションを多く収蔵している。
フロアマップ。これを見ただけでお腹いっぱいだ。
まずはバスキアを見に地下一階へ。気にはなっていたけど、ちゃんと見たことはなかった画家だ。
△バスキア/pater(1982)
△バスキア/Self-Portrait(1983)
「バスキアってどこの人?」「ニューヨーク」「バスキア好きなひとってなんかカッコいいよね」と話しつつ、でも今のモードではないよね、せっかくオーストリアに来たんだからもっと古典作品に時間を割こう、ということで今回は軽く流し見た。贅沢すぎる話だ。
本命のモネやピカソが飾られている二階へ。
△ルノワール/Douarnenez(Sunset)(1883)
△モネ/The Water Lilly Pond(1917-1919)
△ポール・シニャック/Venice,the Pink Cloud
好きだけど生では見たことがなかったポール・シニャックがあって嬉しかった。モネが好きだという話をしたら、昔誰かがこのひともいいよって教えてくれたんだよね。
点描で絵が構成されている。近くに寄ってみるとなお素敵。やさしい雰囲気なのにどこか不安な感じがしてやっぱり好きだ。
△アンリ・マンガン/Back View of a Nude under Trees,Villa Demiere(Study)(1905)
△カンディンスキー/Taut at an Angel(1930)
△パウル・クレー/Blue Coat(1940)
△ピカソ/Bacchanal with Blue(1959)
特に気に入った絵たち。他にもたくさんあったけどさすがに載せきれない。子供っぽい自由さが感じられる作品が好きだな、と思った。
実はこの美術館、元々は宮廷役所として建てられた物らしい。その後いろいろあって貴族の邸宅となり、その貴族が美術品のコレクションをはじめたことがすべてのきっかけだとか。当時使われていた応接間なども展示されており、中に入ることができた。私もいつかこんな家に住みたい。
息も絶え絶え最後、美術史美術館。こちらではハプスブルク家が収集した十五から十八世紀頃の絵画を見ることができる。
展示スペースに入る前からこれ。やられた。
わかりにくいが、石の柱の間に描かれているのがクリムトの絵。そういわれてみれば確かにどこかで見たことがあるような気がするけれど、知らなければスルーしてしまいそうだ。
美術史美術館では絵画の他に古代ローマ・エジプトに関する展示もしているのだが、私たちの場合、おそらくもうすでに似たようなものをどこかで見たか、あるいは今後どこかで見る予定なので今回はスルーすることにした。閉館まで残り三時間。余裕がない。
絵画ギャラリーは大きく分けて「オランダ、フラマン、ドイツ絵画」と「イタリア、スペイン、フランス絵画」の二つのセクションがあるそうで、まずは近くにあった前者から行ってみることに。
ライオンの赤ちゃん。
もう、暴力的です。だいたい一時間ぐらいかけてざっくり見終わったけど、何も理解できていない。
次はイタリア、スペイン、フランス絵画のセクションへ。
憧れのマリー・アントワネット。
Cabinet with night clockと書いてあった。時計らしい。時計なのか?
マルガレーテ・テレジアの肖像画。これも見たかった。
アンチボルドの絵まであった。
こちらのセクションもざっくり見て一時間。事前のリサーチでは「ゆっくり見たかったら三日は必要」と書いている人もおり、実際この濃い内容だったら丸一日館内にいるぐらいがちょうどいいかもと思った。
最後、時間が余ったので美術工芸品のフロアへ。
結晶のようにうつくしい水差し。
時計細工のコーナーがあった。よく見ると星座盤があしらわれており、占い好きにはたまらない。
駆け抜けるように見た。というか、本当に見たと言えるのか怪しい……。
が、じっくり見てさえいれば全部の作品を理解・記憶できるかというとそれもまた怪しいので、これはこれで良かった気がする。単純にたくさん歩いて疲れたのもあるし、情報量が多くて疲れたのもあり、とにかく疲れたので今日はゆっくり休みます。さようなら。