九月二十四日(土)
寒くてまた半日以上寝て過ごした。お昼頃夫が行き先を告げないままどこかへ遊びに出かけたので、さすがに私も……という気持ちになり、渋々寝床から抜け出す。カップ麺を食べつつ、「今頃夫は二人で行きたいと話していたウクライナ料理のお店でランチでもしてるのだろうか」と想像して、羨ましいような、どうでもいいような感情になった。とにかくやる気が出ない。三泊も四泊も同じ宿にいて、しかも個室だとどこまでも自堕落になれてしまうのが自分でも恐ろしいと思った。ダラダラするのもたまにはいいよね、ってクラクフに来てから何回言っただろう。
Twitterでスペースを開いたら友達が二人も遊びに来てくれたので、一時間ぐらい雑談をして過ごした。気を抜きすぎて、「最近短歌を詠みすぎて強迫観念的になってる」という発言した二十分後ぐらいに今度は「また歌会したいですね」とか言っていた気がする。我ながら矛盾してるとは思ったけど、どちらも本心だった。久しぶりに文芸関係の話ができて楽しかったな。
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スペースをお開きにしてまた布団でゴロゴロしていると、ちょうどいいタイミングで夫から電話がかかってきた。このまま夜まで帰らず街の中心でのんびりする予定なので、良かったら来ないかと言う。朝起きた時からずっとパジャマのままだったし、正直めんどくさいな、どうしようかな、みたいに思ったのだが、たくさんお喋りした後でなんとなくいい感じの気分だったのでえいや!で出かけることにした。
ひとりで路面電車に乗って、夫が待っている喫茶店に向かう。海外に来てからというもの、どこへ行く時もひたすら気を抜いて夫の後を着いていっているだけなので、ただそれだけのことでもけっこう緊張感があってワクワクした。
ここで迷子になったら面白いのにな、とか考えて実際に迷子になりかけたりしつつ、なんとか無事夫と合流できた。聞いたらウクライナ料理はまだ食べていないそうだ。疑ってごめんね。
置いたあった新聞に載っていた風刺漫画。時勢を感じる。
喫茶店二件目。
お香の香りと薄暗い照明がなんだか懐かしいなと思って記憶を探ってみたら、引き払った高円寺の家に雰囲気が似ていた。さすがにこんな素敵なところではなかったが。
△聖ペテロ聖パウロ教会
毎晩クラシックコンサートをやっている教会があると知って観に行くことになった。パッヘルベルの『カノン』やヴィヴァルディの『四季』など、有名な曲を一時間ぐらいかけて演奏してくれるとのこと。開演十五分前ぐらいに着いてその場でチケットを買ったのだが、それでもまだ席数に余裕があって入りやすい雰囲気だった。
観た。良かった。専門外なのでたいしたことは言えないけど、やっぱり演奏者の手元がしっかり見えると「音楽を聴く」という行為に立体感が出るなあと感じた。あと、生だからこそ知らない曲が流れると嬉しい。
コンサートの後は近くの広場でポーランド風ピザ・ザピエカンカを食べた。フランスパンの上にいろんな具材とチーズが乗っていて美味しい。
地下がクラブになっているバーで少し遊んで帰った。クラブというものに行ったのはこれが人生初だ。最初は「あんなタコ踊りみたいなことはできないよ……」と思っていたのだが、夫がフロア中の誰よりもクネクネしているのを見たら勇気が出て、少しだけ踊った。
九月二十五日(日)
今日は昨日より元気だった。
カツカレーを出してくれる日本料理の店が街にあるそうなので、ちょっと行ってみることにした。この手のお店に行くのはブルガリアのソフィア以来だ。海外に来てまでこれは禁じ手じゃないか……という思いはありつつ、でもたまにはいいよね。
入店と同時に流暢な日本語で「いらっしゃいませ」「日本の方ですよね?じゃあ日本語で大丈夫です」と言われて若干困惑した。いくら日本料理の店とはいえ、ポーランドに住んでいるポーランドの方なのに、わざわざ日本語でコミュニケーションを取ってくれるなんてなかなかありがたいことですね。
「カツカレーとほうじ茶を二つずつください」と言うと「すみません、今日はほうじ茶切れてます」「代わりに茎茶があります」と言われ、「茎茶……!」と感動した。
「KISSに撃たれて眠りたいぜ/ロマンティックな夢を/いつまでも追いかけて/最後まで 止まらないぜ」と書かれた壁。
カツカレー、美味しかった。というか、「よくある日本のカレー」としての再現率がすごい。水も違えば日本の調味料の入手も容易じゃない海外においてこれを作るのはかなり大変なはずだ。店員さんが「シェフも日本の方なんです」と教えてくれて、納得の味だった。
食べ終わった後はお城を目指して散歩。
ヴァヴェル城。入るつもりで来たんだけど、入らなかった。最近城行きすぎやねん。
昨日のカフェにさっそく再訪。一時間ぐらいスマホを見ながらダラダラして過ごした。それだけで十分楽しいし幸せだ。
夜はまた夫がパスタを茹でてくれた。ありがたやありがたや。明日は朝早いので二十二時には就寝。