カミーノ 空はずいぶんピンク色

 

十月十五日(土)

 カミーノ巡礼十七日目。このところ遅い時間にスタートすることが多かったので、今日は気合を入れて七時半には出発!

 

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 するつもりが、歩いて十秒で近所のベーカリーに吸い込まれていた。今日もどうせそんなにたくさんは歩かないからいいよね、と言い訳しつつドーナツをモグモグ。最近ではかなり体が慣れてきていて、一日二十キロ前後だったら正直余裕だなあと感じるようになっていた。だったらもう少し先に進んでもいいのだが、その日の目的地から次の町までが十キロ以上離れていたり、なんとなく気分が乗らなかったりするので難しい問題だ。まあ、焦る必要はないのだしゆっくり行けばいいと思う。


 コーヒーにクッキーつけてくれる人のことは、コーラに檸檬を入れてくれる人と同じぐらい好きだ。

 

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 再び外に出ると空がかなり明るくなり始めていた。

 

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 なんか雲がもやもやしてておもしろい。

 

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 八時半。今日の空はまたずいぶん濃いピンク色だ。すれ違った巡礼者の「beautiful!」という声につられて後ろを振り返ると、もう太陽が顔を出している。それで「わあ本当にね〜」みたいなことを言おうとその人たちの顔をよく見たら、たまたま一週間ぐらい前に宿で軽く話した中年女性二人組だった。お互いすぐ気がついてびっくり。私たちはけっこうマイペースに巡礼しているため、スタミナがある人とは一日に進むペースが違いすぎて自然と会わなくなってしまうのだが、のんびり同士だったらこうやってなんかの拍子に再会することもある。縁だね。

 

 さらに良かったのは、その二人がリュックサックにそれぞれ猿と牛のぬいぐるみ(マスコット?)をつけていたことだった。向こうも私のバックパックで揺れるうさたろに気が付いて思わず笑顔に。ぬいぐるみ仲間だ!


 やっぱり一日に何十キロも歩くハードな旅だからこそ、折に触れてふわふわしたかわいい存在に癒されたいと考えるひとはけっこういるんだろうなあと思った。

 

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 たまにある分岐路に行き当たった。どちらを選んでも見える景色もさほど変わらないようなので、消去法で距離が短い方を選ぶ。

 

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 影が真っ直ぐ伸びていて、太陽がすぐ後ろにあることを感じた。

 

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 今日は短歌を詠みながら歩くつもりだったのだが、ついつい思考があらぬ方に行ってしまってあまり上手くいかなかった。何度頑張っても過去のどうでもいい思い出や取り留めもないイメージばかり頭に浮かんでくる。

 そこで気が付いたのだが、もしかすると歩くという行為は「思考の整理・検討」と相性がいい一方、「アイディア出し」にはあまり向いてないのかもしれない。たまに何かひらめいたとしても、それは過去の蓄積を統合した結果であって、全くの更地から新しい考えを生み出したわけではない……ような気がした。

 

 創作行為をするためには最低でも立ち止まって物を考える必要がある。

 

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 十時。小さな町を通り過ぎた。民家の壁が剥がれてこびと用のボルダリングみたいになっている。

 

 普段ならそろそろ休憩を挟むところだが、今日はなんとなく二人とも気分が乗っていたのでもうちょっとだけ歩くことにした。「次にいい感じのベンチを見かけたら休もう」という、めちゃくちゃざっくりした取り決めをして先に進む。

 

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 今日はずっと車道沿いの道だ。

 

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 結局どんなに歩いてもちょうどいいベンチは見当たらなかったので、その辺の道の脇に座って休むことにした。今朝ベーカリーで買ったパイをはんぶんこして食べる。


 あと八キロぐらいで目的地に着いてしまうので、これが今日唯一の休憩だと思って三十分以上ダラダラ過ごした。

 

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 サンティアゴまであと四百六十三キロ。もうすぐで全行程の半分歩いたことになる。

 

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 「Windows XPみたいな空だね」と、夫。懐かしいという感情の覚え方が独特。

 

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 十二時半。ようやく今日泊まるカリオン・デ・ロス・コンデスの町が見えてきた。もう今日はこのまま最後まで行ってしまう。

 

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 十三時、到着!

 

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 宿にチェックインして荷物を置くとすぐスーパーへ買い物に出かけた。明日は初っ端から十七キロ歩かないと次の町に辿り着けないので、今のうちに朝昼の食糧を確保しておきたかった。

 ついでに今日の夕飯も……と思ったのだが、一気に三食分の飯のことを考えたらいろいろ難しくなってしまったので適当なところで切り上げて帰る。

 

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 夜は結局もう一度スーパーに行って冷凍ピザとトマトを買い、それで全部終わりにした。近くでイタリア人グループがサイゼリヤみたいな音楽をかけていていい感じだ。