カミーノ おれたち毎日ピクニック

十月十六日(日)

 カミーノ巡礼十八日目。

 

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 八時前には出発できた。おじいちゃんオスピタレロにお見送りしてもらいつつ一日を始めていく。今日は二十三キロ。

 

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 進んでいく方向と、振り返った先それぞれの景色。

 

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 今朝はなんとなく自分の頭の中に埋没していくモードで、いま勉強している資格試験のこととかを考えながら黙々と歩いた。


 ふと気になって夫に話しかけると、「俺はずっと蛇とアヒルについて考えてたよ」と言う。びっくりした。詳しく聞くと、自分の中の実務的な処理を担当しているのが蛇で、そいつは確かに有能なんだけど、不安を餌にして生きている節があるから付き合いすぎるとたまに苦しいんだという話だった。また、趣味の領域を担当しているアヒルが蛇を怖がってなかなか外に出られないのも問題らしい。

 なるほどなあと思って自分に置き換えて考えてみると、確かに私の中にもそういった存在がいるような気がしてきた。私の場合は実務担当のせっかちなうさぎと、趣味に生きる隠居亀が一緒に暮らしている感じだ。せっかちうさぎはやることがなんでも早いが、家の中のことなど自分の手に届く範囲のことしか見えておらず取りこぼしも多い。ちょっと過干渉気味で、隠居亀のやることにまで口出ししてくるのも玉に瑕だ。ただ、こいつのおかげでなんとかなっていることもたくさんある。


 こういう取り止めもないイメージを人と交換し合うのは楽しいな、と思った。

 

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 九時半。八キロぐらい歩いたところでキッチンカーによる移動式カフェを見つけたので一休み。あと九キロ先まで町がない。

 

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 歩いても歩いても道。

 今日の景色は全体的に淡い色をしているような気がした。半袖で歩ける程度の気温ではあるが、日差しがやわらかく、いつもよりのどかな雰囲気だ。燃えるように赤い秋ではなく、優しくて少し弱々しいほうの秋を感じた。

 

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 うさたろのことを指して「彼もサバイバーね!」と言っていった人がおり、改めて自分の影を見てみたらなんだかおもしろかった。

 

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 十二時。無心で歩いていたらいつの間にか町に着いていた。ここを通り過ぎた先でお昼ご飯でも食べようか、という話に。

 

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 昨日と同じく適当な道端に腰を落ち着けた。持ってきていた生ハムとチーズをパンに挟んで食べる。毎日ピクニックしてるみたいだなあと思った。幸せなことだ。

 

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 四十分ぐらいがっつり休んでから再スタート。残り六キロ。

 

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 風が強く吹いている。気持ちよかった。

 

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 十四時。目的の町・レディゴスに辿り着いた。今日はお互いに考え事モードで、ひたすら無心で歩いていたらいつの間にかここまで来ていたというイメージだ。なんとなく、そういう個人的な時間の持ち方を後押ししてくれる道だった。

 

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 町の入り口にあったアルベルゲにチェックイン。ここは個室の部屋が二十ユーロと格安で、ドミトリーのベッドを二つ借りるのとそう変わらない値段だったのでそちらにしてみた。

 

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 十八時半。アルベルゲでピルグリムメニューを食べた。今日は美味しかったより楽しかった記憶のほうが強い。六人席に座った全員の国籍が異なり、かつ英語圏の出身ではない……という状況の中でそれでもみんなが和気藹々と会話しようとしている雰囲気がとても良く、気がついたら一時間以上談笑していた。言葉が出てこなくてたまに「あれってなんだっけ」「これのことじゃない?」とGoogle検索の結果を見せ合うのも楽しい。

 今日はずっと一人で考え込むモードだったので、最後にいろんな人と交流できて良かった。