十月二十四日(月)
カミーノ巡礼二十六日目。微妙に小腹が空いていたけど、宿のバーカウンターは混んでいるのでとりあえず出発してしまうことにした。時刻はまだ八時前。いい滑り出しだ。今日は二十五キロ。
いつものごとく外で水を汲んでから出発。ただの水なら別に宿のキッチンでも出るんだけど、なんとなく外で汲んだ方がRPGっぽくて楽しくない?というのが夫の意見だ。
歩き始めてしばらくすると空が明るくなり始めた。薄っすら見える雲の感じからして、なんとなく今日は晴れそうな気がする。
出発した時は大丈夫だと思ったのだが、急な坂道が続いたのもあって空腹感が気持ち悪くなってきた。カロリーを寄越せと他の器官からせっつかれた胃が高速で空回りしているみたいな感覚。仕方ないので途中で立ち止まってスニッカーズをかじった。エネルギーが充填されていくのを感じる。やっぱり朝はきちんと食べないとダメだ。
久しぶりに綺麗な朝日を見ることができた。
しかし山のほうを見ると暗雲が……。
今日の道はアップダウンが激しい。さらには舗装されていない山道なのでなかなか足場が安定しなくて歩きづらかった。
九時半。ようやく最初の町に到着。バルで朝ご飯を食べることにした。
カウンターには甘い系の軽食しか置いてなかったので、がんばって英語で「サンドイッチはありますか?」と聞いてみた。「作れるよ!」とのことだったので、どんな具材があるのかも聞いた上でハム&チーズのサンドイッチを注文。たったそれだけの簡単なやりとりだけど、きちんと会話が成立して嬉しかった。夫にも「やったじゃん、これで世界中どこでもひとりで旅できるね!」とベタ褒めしてもらう。
なぜか仏陀が壁に貼ってあった。
三十分ぐらい休んで出発。やたら猫の多い町だった。
まだまだ坂道が続く。あと二十キロ。
町がある麓の方は晴れているのだが、やっぱり山に登ると雲行きがあやしい。雲というか霧?
△鉄の十字架
十時半。しばらく峠を歩いたところで巡礼者たちの象徴的な場所に出会った。
一見するとよくある十字架だが、その根本を支えているのはすべて中世以来の巡礼者たちが置いて行った石だ。ここに自宅や道中で拾った石を置くことによって、過去と決別したり、自分の願いを託したりする意味合いがあるらしい。
また、ここは巡礼路中でも最も標高が高い場所に位置しており(千五百メートル)、「これまで無事に歩くことができてよかったな」と道中を振り返るポイントにもなっているようだ。
そう知った上でよく見てみるとけっこう個性的な石が多い。色が塗ってあったり、メッセージが書いてあったりして、この時のために用意してきたんだなということがよくわかる。中には靴や写真、貝殻、ミサンガなどを置いていく人もいるみたいだ。
本当は私たちも地元あたりから石を持っていきたかったのだが、途中までうっかり忘れていたのでギリシャのアクロポリスで拾ったものを並べて置いておいた。願いは特にない。
周囲にはけっこう涙ぐんでいるひともいた。何らかの岐路に立って心の整理をつけるためにカミーノを歩くひとはけっこう多いし、そういうひとにとってはとても意味のある場所なんだと思った。
道が険しいせいかいつもより進みが遅く感じる。雨もパラパラと降ってきた。風がほとんど吹いておらずあまり足元が濡れないのは救いだ。
のんびりした雰囲気のかわいい牛がいた。
相変わらず過酷な道が続く。大きな石の上は歩きにくいので、地層が剥き出しになっているところを選びながら進んだ。ちょっとでもうっかりすると足を滑らせそうだ。
ちょっとした山の上を歩いているので景色はきれい。
十三時。久しぶりに町が見えた。あと八キロ程残っているが、それでもだいぶ進んだ方だ。
バルに入ってお昼ご飯を食べた。軽い気持ちでサンドイッチを頼んだら想像の倍のサイズで出てきて歓喜。挟まっているチーズオムレツのチーズの量がすごかった。
十四時。一時間ぐらい休んでから再出発。雨がまたちらついてきた。今度は下り坂だ。
黒い山羊。一生懸命草を食べてるね。
しばらくすると晴れた。やっぱり山の近くは天気が不安定だ。
すごい地層。危なくてあまり写真は撮れなかった。慌てると良くないことが起こりそうなので、自分を三歳児だと思ってひたすら慎重に道を下っていく。
十五時半、ようやく向こうのほうに今日泊まるモリナセカの町が見えてきた。長かった……。
十六時。到着!
宿にも無事チェックインできた。実は昨夜、最近仲良くなったスペイン人のおじさんが自分のついでに私たちのベッドも予約しておいてくれたのだ。今日はそのおかげであまり焦らずに済んだ。
読書灯には「DREAM」って書いてあるし、綺麗で広々としていていい宿だ。
☆
夜はマーケットで軽く食べられるものを買って済ませた。