第六十八回角川短歌賞落選作『ヴァーチャル・春の海』

魚駅過ぎたあたりで待ち合わせ二重写しの季節めくって


お別れのレビューは自動筆記の涙でしたねロボットメイド


眠れずに迎えた朝を掻き分けてエンターキーで花に水やる


ガラス戸の割れた心を手術するキラキラシールのりぼんを貼って


真夜中を縦に割いたら蟹がいる横に割いたら花屋が閉まる


オールインワンジェル肌に伸ばすときランダムドットにぶれていく皮膚


思春期の国では苺の天ぷらが流行ってるとか、東のほうで


たのしげな人魚の尻尾回転をしない寿司屋の倫理問題


かけがえのないおじさんを守りたい地球最後の海老をほぐそう


手についたラメで次々侵す街 ポスター、番犬、電車の座席


猛獣の飼育の手引き その1・サクマドロップスの白は除いて


プログラムされた魔性を発揮してヒレステーキで光る唇


ポータブルタイプのペンギン折りたたみ水玉模様のポッケにしまう


安全に登下校する必要性 実はなかった やがてシェルターへ


白鳥のボートに乗って道徳の教科書千切るまっぴるま 風


カエル肉小骨を吐いて確かめる日本の平和 泣いてみました


暗くなるニュースばかりと言いながら仮想キャンプで火を囲んでる


美味しいね、あなたが焼いたパンの耳あなたがいれた論理珈琲


ハンガリアンスタイル風というわけさグラニュー糖を嘘に浸して


フライパンに卵を落とした瞬間に世界はなんで縦に伸びるの


新聞の人生相談欄に貼る修正テープ なおしてあげる


ひさびさに会う友達とサイゼリヤ凍結された卵子に会釈


内側からキレイになろうフラミンゴの足を使った最新美容


VR雨宿りをして詩になった 今日は四人も死んだらしいぜ


薔薇園で傘をなくしてふうわりと飛んでみせれば犬に似ていた


玉砂利を踏み締めるとき手が忍者リュックサックのチャック開いてる


わがままに色を塗ろうかショッキング・ピンクの嫉妬 脆くなりたい


場所だけを決めてあなたを待っているダリの時計を海辺で見れば


まるかじりしたいようおしり月餅歯医者の看板あのフランス車


セルフィーに写り込んでる悪魔たちビキニの紐をとことん捻る


こぼすのが楽しい酒のランキングかわいいきみに発表したい


幻覚のテクスチャーで加工した日光浴びてしがみつく丘


世界樹の傍で頭を抑えられ蟻の視点を楽しみました


えっ、みんな足で踏んでたのこれ そっか 塩漬けオリーブ瓶が転がる


台風にまもられている夜もある青いクレヨン左手汚す


水を売るやつに言われてゆるせるのけっこうすごい カスタネット鳴る


設定の画面に飛んで目の前のあんたをトグルボタンで消したり


お茶会に遅刻しちゃうわ急がなきゃ という気持ちで追い焚きを押す


だらしなく生きてもいいしこれあげるトラベルガイドに海星挟んで


間違えて殺してしまうこともある宗教施設で野菜を買おう


花柄の壁紙どんどん追い越しておねがいたすけてぜんぶ摘まれる


おじいちゃん、実家に放火したんだって プロフ交換で言いたいニュース


ひらがなでかんじたことをほかんするくっきーかんのかちょうふうげつ


恋をやる前の身体を裏返しヌードモデルになりたかったな


取り返しつくことなんてなにもないあの助手席の熊をこちらへ


あの絵から音がしそうで立ちすくむ商店街で名前失くせば


加害者のFLASH BACK映像にたんぽぽ畑を重ね処理する


ベランダで乾かされてるわたしたちレゴブロックの麦酒で酔って


医療用ラブレターにはこうあった 自然科学のコーナーで待つ


痣を脱ぐ・わたしは無傷・あたりまえ ユニットバスに春の花浮かぶ