十月二十五日(火)
カミーノ巡礼二十七日目。朝起きると隣のベッドに夫がいなくてびっくりした。神隠しにあったのかと思って探してみるとロビーで寝袋にくるまって寝ている。事情を聞くとどうも夜中ダニに刺されて逃げてきたらしい。目が腫れていてかわいそうだ。よりによってそこかい、という感じもする。
私は特に異常なし、周りを見ても被害に遭っている人は他にいなかったので、たまたま外れのベッドを引いちゃったんだろう。
とりあえず失踪したわけではなかったのでよかった。
そんな感じでバタバタしつつも八時には宿を出た。今日は二十四キロ。昨日とだいたい同じぐらいの距離だが、道は緩やかで歩きやすそうだ。
一時間ほどで町の光が見えてきた。ポンフェラダだ。ただ、大きな町なので中心地に辿り着くのはまだまだかかりそう。
歩いていたら民家の軒先から猫がすっ飛んできた。ニャーニャー鳴いているのでお腹が空いているのかと思ったけど、首輪をつけているし餌不足ということはなさそうだ。
頭上にもう一匹いた!
二匹とも甘えん坊らしく、近寄ってきては人間の足に頭を擦り付けてくる。かわいい。朝から癒された。
いい空。基本は曇りだけど、ところどころ青空が見える。
△ロス・テンプラリオス城
九時半。町の中心に着いた。だいたい八キロぐらい進んだ計算だ。
この旅にしては珍しくちょっとおしゃれなカフェで朝ご飯を食べた。サーモンとクリームチーズのベーグルが美味しい。ここでは三十分程度休んだ。
スーパーに寄ったりしつつ出発。壁にあった道標がちょっとかっこよかった。
町の外れに展望の良い場所があった。これまでに歩んだ道を振り返ってちょっと一息。美しかった。
畑と畑の間を歩いていく。まったく何もないわけではなく、時々民家や小屋があって人の気配を感じた。
十二時。残り二百四キロメートル地点まで来た。ずいぶん歩いたなあと二人で話す。もう全行程の三分の一も残っていない。
最初の休憩から二時間以上経ち、ぼちぼち疲れてきた。良いタイミングで町が見えたのでバルに入ってお昼ご飯。食べ終わった後もしばらくのんびりしていたら知り合いが三人ぐらいやってきて、ちょっと盛り上がった。中にはもう二度と会えないと思っていた人もいて、再会が嬉しい。
十三時。再出発。
マイケルジャクソン。巡礼路を歩いてるとけっこう頻繁にこの筆跡・文言の落書きを見かけるのだが、意図がわからなすぎる。まさか本人じゃあるまいし。
写真を撮っていたら後ろからスペイン人の男性(一昨日宿を予約してくれた人)がやってきて、しばらく三人並んで歩いた。彼は教会を見かけるととりあえず入ってクレデンシャルにスタンプを押してもらっているらしい。
男性のかっこいい杖を見せてもらった。木で出来ていて素敵だなあと前から気になっていたのだ。しかも話を聞くとどうやら自作らしい。すごい器用!
彫ってある文字はラテン語の「ULTREIA(ウルトレイア)」と「SUSEIA(スセイア)」で、意味はそれぞれ「もっと前へ」「もっと高く」。古くから巡礼者の間で使われている掛け声で、ブエン・カミーノ!みたいなものだとか。
「もっと前へ」がぴったりなのはもちろんのこと、「もっと高く」というのが精神的な旅でもあるカミーノらしくていいなと思った。
十四時。とうとう二百キロを切った。
曇っていても銀杏並木はきれい。だんだん、どんな天気でも受け入れて、できるだけ美しい部分を見ようとする気持ちが育ってきた。
十四時半。今日の目的地に到着。町の名前はカカべロス。ケルベロスみたいでかわいい……という会話をしながら思ったが、ケルベロスってかわいいか?
アルベルゲにも無事チェックインできた。同室のお姉さんが疲れ切った様子で「シャワーして……洗濯して……乾かして……」と呟いているのを見て、みんな同じ気持ちなんだなあと感じた。着いたら終わり、じゃないのだ。
△ハロウィン仕様のかぼちゃ
午後はまたスーパーで買い物。明日の朝食べる用のパンと、今晩飲むお酒を買った。
夕飯は昨日と同じくキッチンで簡単に済ませる。夫は青唐辛子のピクルスが好物で、よく瓶で買って食べるのだが、最近付き合いでちょっともらうようになったらけっこうハマった。ビールに合う。