カミーノ 曇り空は溶けたクリームソーダ

十月二十八日(金)

 カミーノ巡礼三十日目。いよいよ巡礼を始めてから一ヶ月が経過した。ありふれたことを言うようだけど、長いようで本当にあっという間だった気がする。順調にいけばもうあと一週間もしないでサンティアゴに着いてしまうのだと思うと、なんとも言えず寂しい気持ちだ。来る日も来る日もただひたすらに歩き、その中でいろんな物を見て、いろんなことを考えるという、ある種の精神的な時間から離れるのは惜しかった。

 この旅を始めたことによって気付くことができた大切な考えや、自分が抱いている本当の望み、それから、出会ったひとびとの中でも覚えている名前について改めて思いを馳せた。

 

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 八時半出発。キッチンで軽く朝ご飯を食べていて、いざ外に出ようとしたら他の巡礼者が「雨降ってるよ」と教えてくれた。がーん。昨日、一昨日と晴れていて、なんとなく無邪気にこれからもそうだと信じていたからショックだ。

 まあ、この辺の地域は雨が多いと聞いていたし、ある意味予定調和かも……。今日は二十三キロ歩く。

 

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 オ・セブレイロの町からしばらく新道と旧道に分かれるようだ。夫は旧道の方を歩いたことがあるそうなので、消去法で新道を行くことに。まだ小降りとはいえ雨も降っているし、状況的にもある程度整地されている道のほうが良かった。

 

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 道端のきのこ。食べたらお腹壊すかな。

 

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 猫三匹衆。みんなまだ小さくてかわいかった。

 

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 曇り空だけどちょっときれい。青いクリームソーダと溶けたバニラアイスの泡みたい。というのはさすがにきれいすぎる喩えかなあ。

 

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 それにしても地味に登り坂が多い。昨日で山は制覇していたと思っていたのだが、ぬか喜びだった。しかし高いところを歩いているために見晴らしはいい。

 

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 一時間経過したあたりで町が見えてきた。バルの前で大型犬がゆったり寛いでいる。「寄っていく?」と、夫と顔を見合わせたが、二人ともまだそれほど疲れていなかったのでここは通りすぎることにした。

 

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 そう決めた途端に強くなる雨。霧がかかっていてなんとなく怪しそうだと思っていたエリアに突入していった結果なので、まあ予想はついていたけども……。

 

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 十時半。四キロ先まで歩くつもりが結局耐えきれなくなって、道の途中にぽつんと建っていたバルに逃げ込んだ。夫が頼んだトルティージャの厚みがすごい。一ピースで卵六個分ぐらいありそうだ。

 

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 雨宿りしにきた猫が店の中をウロウロしていたので、ちょっと呼んでみたら膝の上に乗ってくれた。触ると背中が少し濡れている。最初は野良かと思ったけど、かなり人馴れしているので店猫かもしれない。

 

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 せっかくなのでいっしょに自撮り。

 隣に座っていた人が羨ましそうに見てきたので、適当なタイミングで床に降ろした。すると今度は違うお姉さんの膝の上に乗って寛いでる。たぶん、人間で暖をとりたかったんだろうなと思った。

 

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 一時間ぐらい休んでから外に出ると、心なしか雨が少し弱くなっていた。あと十五キロ。

 

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 休みを挟んだせいで体が冷えて寒い。というか、着込んでいる上半身は温いのにそれ以外は全部寒くて、なんだか風邪を引いてるときみたいだった。とか言ってると本当に体調を崩しそうで怖い。

 

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 一部の隙もない曇天。歩いているうちにまた雨が強くなってきた。

 

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 だんだん雨風が暴風雨の域に達してきて、執拗にカッパのフードをめくろうとするもんだから大変だった。

 ただまあ、動いて体がだいぶ温まってきた効果なのか、ずぶ濡れでもけっこう楽しい。靴下ひとつとって考えてみても、濡れ始めは「この辺で勘弁して!」と思っていたけど、絞れるぐらいぐちゃぐちゃになっちゃったら一周まわってもうどうでも良い。水溜り入り放題だ。

 

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 十三時。ようやく下り坂が増えてきた。

 

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 残り四キロ地点で偶然いい感じの店を見つけた。気分が乗ってきたところだったので、このままの勢いで突っ走ることも考えたが、ちょっとトイレを借りたかったので寄ることに。

 その結果、めちゃくちゃ美味しいチーズケーキを食べることができた。最高。

 

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 暖炉もあって暖かい。ずぶ濡れの巡礼者がみんなこの周りに集まってちょっとでも服を乾かそうとしているのが微笑ましくて良かった。乾かないけどね!カッパを着てるはずなのに下の服までびっしょりだったのは驚いた。

 

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 十四時。外に出ると雨が止んでいた。今ならやれる!

 

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 原始人の方も応援してくれているようだ。

 

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 下り坂をすいすい。昨日の十八キロより今日の二十三キロの方がずっと楽だ。二人で桃太郎の話をして盛り上がった。

 

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 十五時。だいぶ楽しくなってきたところで今日の町・トリアカステーラに到着した。毎回町って書いてるから町で統一しちゃったけど、これはさすがに村かもしれない。

 

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 長い歴史を感じる良い木。

 

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 手作り感溢れる木彫りのベンチ。心が温かくなる。

 今日はあらかじめアルベルゲの個室を予約してあったので、焦らずゆっくり向かった。レオン以来ひさびさに羽を伸ばせる。

 

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 夕飯は近くのレストランで食べた。ランチョンマットがガリシア州のマップになっていてかわいい。

 

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 一皿目、夫の頼んだガリシア風スープ(じゃがいもとワカメの魚介系スープ)がこれできて思わず笑った。給食スタイル!たっぷり二皿分以上ありそうだ。

 

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 私が頼んだサラダパスタも山盛り。ピクルスの酸味とマヨネーズがいい組み合わせだ。

 

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 二皿目はエッグキャセロールにした。今日はそこまで疲れていなかったからか、自然と野菜中心の選択になった気がする。夫はいつも通りグリルステーキ。

 

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 チーズにはちみつをかけたデザートも美味しかった。甘味でありながら赤ワインにも合う。

 

 

 ほろ酔いで幸せな気分のままレストランを後にすると、また雨が降り出していて凍えながら宿に帰った。天気予報では明日も降水確率マックスだ。でも、楽しみながらがんばりたい。