十一月五日(土)
続・カミーノ巡礼二日目。七時半頃目を覚ますと部屋の中にはもう誰もいなかった。また私たちが最後の客になりそうだ。まあ、それもいいか。キッチンに降りて二人で静かに朝ご飯を食べていたら、巡礼仲間が外へ出る直前に「piano piano」と声をかけてくれた。イタリア語で「ゆっくり」「のんびり」という意味らしい。かわいくてすてきな響きだ。
八時半。霧が立ち込めるなか出発。雨はかろうじて降っていなかった。今日も二十キロぐらい。
今日は初っ端から山道。雰囲気がすごい。童話に出てくる暗い森みたいだなあと思いながら歩いた。赤ずきんちゃんの世界だね。
基本的に登り坂。そこまでの急斜面はないが、緩やかに標高が上がっていってるのを感じた。
九時。少しずつ日が差してきた。
霧がすごすぎてよくわからないけど、実はそこそこ晴れている。ここ最近天気がいいね、と二人で話した。
絶対に毒があるきのこ。
「もう十七歳より三十七歳のほうが歳近いんだよなあ」という話をした。歳月が経つのは早い。夫の三十四歳という年齢はそのまま三十四歳なのではなく、心の中に十七歳の自分が二人いる計算なのでは?みたいなよくわからないことも言った。
あとはもっぱら食べ物のことばかり話しながら歩いていた気がする。ラーメン食べたい。
地上にも雲があるように見えるけど、あれは霧。
十時。ようやくバルを一件見つけた。サンティアゴ以降明らかに飲食店が減ったように思う。この機を逃すな!という気持ちですかさず駆け込んだ。ケーキのデカさにびっくり。
たっぷり一時間以上休憩してから出発した。あと十二キロ。
青空を眺めていたらどんどん心が大きくなってきて、「もしかして、寝坊とか遅刻ってもっとしたほうが楽しいんじゃないだろうか」みたいなことを思った。私はわりときっちり時間を守るほうだけど、この旅がはじまってからルーズに生きるのも悪くないなと思えるようになった気がする。なんでもゆっくりやるのがいいよね。
気がついたら久しぶりに車道沿いを歩いといた。考え事に没頭していると景色の移り変わりを感知できなかったりする。
羊たち。喧嘩でもしてるのか、時々体をぶつけ合う鈍い音がした。きみら温厚な性格なんじゃないのか。時刻は十二時半。
そろそろ疲れてきたので道端に座って休むことに。チョコレートをかじりながらさっきの羊を見に行ったりした。今日は残り六キロ。
気がついたらまた一時間経過してた。動かないでいると肌寒い。
このステージに入ってからずっとすべてがすごく綺麗だよね、と言いながら歩いた。
もうすぐ十四時になる。この時間でもけっこう逆走組とすれ違った。みんなどこから出発して、どこに泊まるつもりなんだろう。
繊細そうな木。
十四時半、今日の目的地であるサンタ・マリーニャに着いた。目立った建物もない小さな町だ。
最初に行ったアルベルゲが閉まっていたので、少し道を戻って別のところに行った。一人十四ユーロと少々高めだが仕方ない……たまたますれ違った他の巡礼者に聞いたら、自分はがんばって六キロ先の町で宿を探すとのことだった。ガッツがあるならそれもアリだ。
写真は宿のすぐ近くにあったすてきな教会。
十九時から一階のバルでピルグリムメニューを出してくれるというので行くことにした。しかし店主がマイペースなのかなかなか準備が始まらない。他の巡礼者たちはみんなかなり盛り上がっていて、ディナーが始まらなくても特に気にしていないようだ。まあそれならそれでいいや、のんびりしよ、ということで私たちも今度行くルーヴル美術館のチケットを予約したりしながら過ごした。
それから三十分ぐらい経っていざ飲み物が運ばれてくると「ブエン・カミーノ!」の合唱が起こり、その場にいた全員が総立ちになって乾杯し合う流れに。和気藹々としたいい雰囲気だった。
レンズ豆のスープ。程よい塩加減で美味しい。
私にしては珍しくポークリブのステーキを頼んだ。付け合わせをサラダかポテトフライで選べるのも嬉しい。
最後はデザートかコーヒーか選べるというので、あえてコーヒーにして脳を覚醒させることにした。ここ数日、妙に疲労感があってご飯を食べるとすぐ寝てしまっていたので、今日はひさしぶりに夜更かししたかったのだ。「がんばって二十三時までは寝ないぞ!」と宣言すると、夫に「小学生じゃん」と笑われた。
寝ないぞ!