十一月七日(月)
続・カミーノ巡礼四日目。朝からお腹が痛くてやる気が出ない。どうしようもないので一時間ぐらいかけてゆっくり準備した。今日は二十キロ歩く。冷静になってよく考えてみるとまあまあな距離だけど、いまさら焦りはしない。
昨日メニューピルグリムを食べた店で朝ごはんを食べた。オレンジジュースとコーヒー、トーストのセットが五ユーロ。黄金比を感じる組み合わせだ。バターとジャムをたくさん持ってきてくれるのも嬉しかった。
まだ眠そうな様子のうさたろが愛おしい。この子は子供だから、いつもだいたい十時ぐらいまで寝てるんだ。
八時半、出発。おそらくまた私たちが最後尾だ。起きたときはただ曇ってるだけだったのに、いざ外に出ると雨が降り始めていた。とはいえそんなに激しくないが、風が強いために威力が増している。まあ、ここ最近はずっと晴れが続いていたから、たまに悪天候だと雰囲気が違ってけっこう楽しいさ。強がりとかではなく。
古い水路の横を歩いて通った。こういう剥き出しの橋って渡るときワクワクするな。
切り出された山の上を行く。
さっきまですごい勢いで雨が吹き付けてきていたのに、三十分ぐらいしたら急に晴れてきた。ガリシアの天気は変わりやすい。また降るかもしれないけど、とりあえず一安心だ。
十時。まだたいした距離は進んでいなかったが、この先十三キロ以上何もない山道が続くようなのでちょっとバルで休憩することにした。美しい白い猫がお出迎えしてくれてハッピー。飲み物を頼んでいる隙にちょっと遊んだらジーパンに肉球のかたちの跡がついてうれしかった。道路が濡れてるからね。
三十分ぐらい休んでから再出発。体調は相変わらずだが猫のおかげで少し元気が出た。
しばらくすると分岐路にぶつかった。左へ行けばフィステーラ、右へ行くとムシアという別の町に辿り着く。実はこのムシアを経由してからフィステーラに向かうコースもあるのだが、私たちは今回そこのところを計画に入れていなかったので予定通り左へ折れることにした。
すごい空だ。最近にしては珍しい力強さを感じる。
しかし行く手の方はけっこう曇っている。そのうちまた降り出しそうだ。このパターン、けっこうあるな。
雨に打たれてすっかり古ぼけてしまった聖母マリアとキリストの像。森の奥にぽつんとこれが建っているのを見て、表現し難い感情になった。
道は緩やかなアップダウンが続く。バルに入るまではきつい登り坂も多々あったが、それ以降はけっこう歩いていて楽だった。
予想通り再び天気が荒れ始めた。強風で木が倒れてこないか心配なぐらい。ぽつりぽつりと雨も降ってきたのでカッパを着た。
気のせいか、遠くに海のようなものが見えてきた。フィステーラまでもう残り二十キロもない。旅の終わりが近づいているのを感じる。
この辺りから町に向かって急な下り坂が始まったので、滑って転ばないよう気をつけながら前に進んだ。
港だ。数ヶ月ぶりに見るねえ、今年はたくさん行ったよね、海、と二人で言い合った。
十三時四十分。今日泊まる町・セーに到着。本当はもうひとつ先の町まで行く予定だったのだが、高い宿しか空いていないようなよでここに留まることにした。ここもなかなか大きな観光都市のようだ。
△キッチンのホワイトボード一面にゲストの落書きがしてある
時期の関係なのかけっこうクローズしている宿が多く、三件回ってようやくチェックインできた。たぶん、もう少し巡礼を始めるのが遅かったらけっこう危なかったと思う。どこにも泊まれずに途方に暮れる日とかあったんじなないだろうか。
ちなみにだが、冬に巡礼する人はそこも見越してテントを持って行ったりするらしい。上級者だね。
この宿のオスピタレロはみんなのお母さん的な人柄の方で、シャワーを浴びる前にベッドでゴロゴロしていたら「あんたたち早く入っちゃいなさいよ!」と怒られたのが嬉しかった。
夕飯はピザ。私たちが最初に目星をつけていた店は現在閉まっているらしく、宿を出るときにオスピタレロがそう教えてくれた。それで代わりにおすすめしてもらったところで食べることにしたのだが、これがまあ美味しい!人気店なのか中は地元の若者で賑わっていた。雰囲気もおしゃれだもんな。
お腹いっぱいになったあとは海辺をお散歩。
風が強く吹いていた。
明日にはフィステーラの岬に着く。スペインにいられる時間ももう残り少ない。いまではすっかり見慣れてしまったこの変な街路樹ともそろそろお別れだな、と思うと急にさみしかった。でも、このさみしさも含めて旅なんだと思う。