サンティアゴ スペインにキスしたい

十一月十一日(金)

 昨日思う存分ダラダラしたおかげで今日は目覚めがよかった。体力だけでなくやる気・気力も充分に回復している。起きてさっそく支度をするとまずは二人でバルに出かけた。明日にはサンティアゴを発ってフランスのパリへ向かうため、大好きなスペインのバル文化とももうそろそろお別れだ。地元のおばあちゃんが切り盛りしている、よくあるローテンションな店で今のうちにのんびりしておきたかった。

 

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 薄めのカフェ・コン・レチェを飲みながら詩を書いたり、明日乗る飛行機の確認をしたりした。結局こういう何気ない時間がいちばん愛おしい。

 

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 十一時半。毎日十二時から行われている巡礼者向けの礼拝に参加するため、大聖堂へ。クリスマスに向けた飾り付けがもう施されていて少し切なかった。年末も近い。


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 何回も前を通っているのに、中に入るのは初めてだ。礼拝がはじまるまでまだ時間があったのでちょっとだけその辺を探索することにした。この建物のどこかに聖ヤコブの遺骸が埋葬されているのだと思うとなんだか緊張してくる。ようやく旅の本筋に戻ってきた感じすらした。


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 柵で区切られたいくつかの部屋があり、その中で告解している人の姿をチラホラ見かけた。さすがは世界各国から人が集まる大聖堂なだけあって対応言語(英語、スペイン語)ごとにスペースが別れているっぽい。

 幾人もの人々から打ち明けられた罪を抱え込んで生きていかねばならない司祭の気持ちについて考えた。


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 剥がれかけた古い壁。


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 十二時。予定時刻通りに礼拝が始まった。使用言語はスペイン語なので例によって何を話してくれているのかはまったくわからない。せめてキリスト教徒だったらなんとなく予測がついたのかもしれないけど、そういうわけでもなかった。それでもこの厳かな雰囲気に浸って、自分自身に向き合うことができたらそれで充分なのかなあと個人的には思う。

 最後のほう、おそらく司祭が「隣人を愛しなさい」的な発言をした際に、礼拝に参加していたすべてのひとが近隣の人々と肩を抱き合ったり目を見つめ合ったりして心を通わせようと努めていたのが印象に残った。

 

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 礼拝が終わった後は巡礼事務所へ。ここで巡礼の完了証明書を発行してもらうことができる。手続きの方法はかなり電子化されており、インターネット上のプラットフォームに必要な事項をすべて記入すると待合番号を発券してもえるような仕組みになっていた。よく整理されたお役所みたいだね。


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 窓口でいくつかのやり取りをした後、無事発行完了!

 右の縦長なほうが巡礼証明書で、左が歩いた距離の証明書だそう。後者は有料で、保管用の筒と合わせて全部で五ユーロした。バチバチに本名が書いてあるのでそこは加工アプリで隠してある。帰ったら家の壁に貼ろう。


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 これにてミッションオールコンプリート!

 ということで、一旦落ち着くためにいい感じのバルへ駆け込んだ。サンティアゴに着いたらやりたいと思っていたことのすべてがつつがなく済んでくれて清々しい気持ちだ。

 

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 お昼ご飯はハンバーガー。食べ終わった後も一時間以上ダラダラして過ごした。

 

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 食後はピルグリム博物館を訪れた。まず巡礼とは何か?どういった意義があるのか?という話からはじまり、世界各地に存在する巡礼路の紹介やサンティアゴが発展していった歴史など、多岐にわたる情報が詳しく解説されている。日本の熊野古道西国三十三所巡礼に関する展示品もいくつかあった。


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 十三〜四世紀頃に作られた聖ヨハネ像。この頃の彫像は作画が荒くて好きだ。なんともいえないゆるいかわいさがある。


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 こちらは現代のピルグリムに関する展示。個人の寄贈品のようだ。


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 四十年以上前の日本人巡礼者による手書きガイドブック。書き込みの細かさもさることながら、「こんなに大きくて重そうなノートを持って巡礼したの?!」という驚きを感じた。気合の入り方が違う。


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 こちらは各地から伸びるサンティアゴの巡礼路図。次やるなら「ポルトガルの道」あたりを歩くのが楽しそうだよね、という話をした。


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 中世の巡礼者と現代の巡礼者の比較。


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 貝殻つけすぎだろう。


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 ULTREIAの字と共に飾られているいくつもの杖。


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 様々なヤコブ像。


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 思っていたよりも内容が濃くてけっこう疲れた。写真を載せた以外にも、ピルグリムの格好をした聖ヤコブの絵画や像、サンティアゴ大聖堂の成り立ちに関する説明など、さまざまな興味深い展示が並んでいる。


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 好きにメッセージを書いていける場所があったのでいまの素直な気持ちを綴っておいた。アホっぽい字だ。

 

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 本日二件目の店、そして二杯目の酒。明日にはスペインを離れるのだと思うとすぐには宿に帰りたくなかった。

 

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 今日はなかなかやるな。三件目。スペインの伝統的な食文化を最後にもう一度味わっておこう!ということでタパスを食べて締めた。どの料理もめちゃくちゃ美味い上に店の雰囲気もよく、そのわりそんなに値段も高くなくて最高。人気店なのか繁盛していて忙しそうだったが、どんなにオーダーが溜まっていても店員さん同士和気藹々としてのんびり働いている様子が見られ、そこもよかった。すべての飲食店がこのノリだったらいいのに。

 とても満ち足りた気持ちだったので、極力携帯は見ないようにして、二人でこれまでの思い出を振り返ったり妄想の旅プランについて話したりして過ごした。いい夜だった。

 

十一月十二日(土)

 八時。宿をチェックアウトした。この前郵便局で回収した荷物をバックパックに統合するとまあまあな重さに……なるかと思われたが、意外とそうでもない。今日乗る飛行機は八キロまで機内持ち込み可能とのことだが、余裕でクリアできそうな重量感だ。まあもしダメだったらその場で服とか捨てようかなと思う。

 

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 町を出る前にバルで朝ご飯を食べた。パリではなるべく外食を控えて節約する予定なので、優雅にこういうことができるのもいまのうちだ。店主の娘さんがレジカウンターで一生懸命お金を数える練習をしていてよかった。

 

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 朝の大聖堂前を通ってバス停へ。さすがにこの時間から到着している巡礼者はいなかった。

 

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 いまさらながらスペインから離れるのが惜しく、「スペインにキスしたい!」と言うと「地面とかにするしかないよね」と返ってきて笑った。

 

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 空港に向かうバスの中。一週間以上前に歩いた道をハイスピードで逆走していく。

 

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サンティアゴ・デ・コンポステーラ空港


 十時半。十三時のフライトには少し早かったが、到着。もういまさらやることもないのでさっさとチェックインや手荷物検査をクリアしてしまうことにした。

 

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 「あの辺は充電スポットもたくさんあるし寝床によさそうだね」と、最早空港を宿として認識している嫁。俺。

 

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 十三時十五分。フランスのボーヴェ行きの飛行機に搭乗。座席指定していなかったので夫婦で前方後方バラバラの席になった。久しぶりの移動で気疲れしたのかフライト中はずっと昼寝。


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△パリ・ボーヴェ・ティレ空港

 

 さすが距離が近いので二時間足らずで到着。ここからさらにシャトルバスに乗ってパリ市内に向かう。チケットを買ったら一人十八ユーロ(二千六百円)もした……。電車を使えばもっと安く済んだのかもしれないけど、時すでに遅し。着いてすぐの出口のところに発券機が置いてあったら油断して買っちゃうよね。


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 十七時。ついに念願のパリへ。けっこう外れの方で降ろされたせいもあり、想像していたよりも牧歌的な雰囲気があった。


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△スリに注意

 

 しかし治安が悪いと言う話は散々聞いているので気は緩めずに行く。これは地下鉄にあったポスター。

 

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 フランスはスペインと違って日が暮れるのが早く、宿にチェックインする頃にはすっかり暗くなっていた。スーパーで夕食の材料を買ったら今日はおしまい。いろいろ不安もあるけれど、明日からの観光が楽しみだ。