帰国 日本はどんな国かしら

十一月二十五日(金)

 日本に帰るのが楽しみすぎてよく眠れなかった……と思ったけど、よく考えたら昨日三時間ぐらい昼寝したし、どちらかというとそのせいだったかもしれない。まあなんでもいいや。とにかく二人揃って無事帰国できそうなことが嬉しかった。

 三日間お世話になった宿のおばあちゃんに挨拶をして、十一時にはチェックアウトした。

 

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 マックで軽く腹ごしらえをしてからずっと気になっていた広場のマーケットへ。

 キュルテーシュカラーチというハンガリー発の焼き菓子を食べた。円筒状で中は空洞になっており、表面がパリパリしていて美味しい。私たちはキャラメル味を頼んだが、他にもノーマル、シナモン、チョコレートなどいろんなバリエーションがあるみたいだった。


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 別の店でホットワインも頼んだ。

 お金を払うと温めただけのワインを手渡されるので、そこに自分で好きなだけ砂糖や蜂蜜、シナモン、レモン、オレンジを入れていく仕組み。このセルフでやる感じが屋台っぽくて嬉しかった。熱した時点でだいぶアルコールが飛んでいるのか、けっこう呑んでもほろ酔いにしかならないのもありがたい。


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 観覧車を眺めながらぼんやり。


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 フライトは夜なのでしばし喫茶店で時間を潰した。よくある流れだけど、それももう最後なんだなと思うと感慨深い。本当にいろんなことがあったなあ。

 四ヶ月半もの間ずっと夫といっしょにいて、他に言葉が通じる相手もおらず、普通だったら多少なりとも窮屈さを感じそうな場面だけど、私はそうやって世界で二人きりみたいになんでもいちばんに意見を交換し合って過ごせたことがとても嬉しかった。美味しいご飯に素晴らしい芸術、優しい人との出会い……全部良かったけど、最大の実りはそのすべてを夫と共有できたことだと思う。昨日も書いたように喧嘩もたくさんしたし、上手くいかないこともあったけど、結果的には相手をより理解したり、自分の至らなさに気付く良い機会になった。無駄なことはない。

 この新婚旅行は結婚生活の縮図だと思って死ぬまで大切に覚えていたい。

 

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 惜しみつつもクルージュナポカの町を離れた。大きな見どころがあったわけではないけど、いいところだったな。


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△クルジュ=ナポカ国際空港

 

 十六時。かなり早めの空港着。来たときも感じたけど、こじんまりしていて市役所みたいな雰囲気だ。特にやることもないので早々に出国審査を終えてボーディングタイムを待つ。

 たまたまなのかルーマニアは入国時の審査が厳しく(どこに行くのか、何目的の滞在なのか、帰りのチケットを持ってるかどうか聞かれ、さらには持ってるなら見せろとまで言われた)、今日もどうなるかと冷や冷やしたが、出国に関してはもうちょっと和気藹々とした感じでホッとした。

 

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 十八時、離陸。


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ワルシャワフレデリック・ショパン空港

 

 十八時半、ポーランドワルシャワに到着。時差を入れて一時間半程度の短いフライトだった。そのせいか若干時間が巻き戻ってきているようなバグ感があっておもしろい。

 最後の保安検査をクリアしたらあとは乗り継ぎの飛行機を待つだけ……。


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 掲示板に二十三時成田行きの文字を発見。いよいよかと思うと痺れる。最初にアテネ行きの飛行機に乗った時と同じぐらい現実味がない。

 搭乗ゲートの近くで待っていたら周辺からちらほら日本語が聞こえてきて、いよいよだなあと思った。

 

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 二十三時、搭乗。

 明日の日本時間十九時に到着予定なので、時差八時間を引くと合計十二時間乗ることになる。ややこしい。


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 LCC(格安空港会社)以外の飛行機に乗るのは久しぶりだ。席にモニターも付いていてかっこいい。いい感じだね、とうさたろ。

 寒さの影響で離陸時間が押しており、席についてから飛び立つまで一時間ほど間があった。機体についた霜が溶かされていくところを眺めつつひたすら待つ。

 

 つい昨日までは早く日本に帰りたくて仕方なかったのに、この段になって急に名残惜しさが込み上げてきた。シェンゲン協定のギリギリまでヨーロッパにいたため、これ以上どこか他の国を旅するのは難しいし(インドに行く案もあったが意外とコロナ周りの渡航条件が厳しいようで諦めた)、何よりフランス・スペインの流れでだいぶ燃え尽きた感があったから、もう帰る以外の選択肢はないはずなんだけど……。まあそれだけ楽しかったということだ。

 いざ飛び立つとまた気分が変わり、日本に帰ってからやりたいことをあれこれ考えはじめた。

 

十一月二十六日(土)

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 深夜の一時半、お夜食の時間。もういい加減寝たいザマス。機内食が出る時間って世界でいちばん非常識なんじゃない?とか言いつつ、これが楽しみにすぎるあまり夕飯を抜いてきたのでもう無我夢中で食べた。左下のマヨネーズサラダが給食の味で懐かしい。

 食べ終わった後は意識を飛ばすようにして寝た。


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 明け方。ふと目を覚ますと外の朝焼けが綺麗だった。


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 朝の九時。もうすぐ二度目の機内食が出るとのことで起こされた。たくさん寝たはずなのに眠い。あと三時間ぐらいで日本に着くと聞き、じゃあ今って朝なのか?それとも夕方なのか?と混乱した。


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 今回はパスタ。白ワインを頼んだ夫に「朝から呑むの?!」と言ったら「夜だよ」と言われた。夜だった……?

 

 離陸までの時間はモニターについているパズルゲームに熱中して過ごした。もっと早くやればよかったと後悔。

※この時点で日本時間は十七時


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 二十時。成田に到着!案内表示板の漢字を見て心底安堵した。本当に帰ってきちゃったんだ、という惜しい気持ちもありつつ、やっぱり嬉しい。


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 入国!

 なかなか検疫が厳しくて参った。とはいっても簡単なアンケートに回答して案内通りに窓口を突破していくだけの話ではあるのだが、日本の市役所スタイルに慣れてない外国の人からしたら面食らうだろうな。しかしこういう煩雑な手続きや公的機関特有の網の目の細かさによって成り立ってる安心感というのは確実にあるな、とも思った。


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 そのまま成田空港駅のホームへ。人生で初めてCANMAKEの広告を見て叫んだ。うわあい。近くにコンビニがあったので速攻駆け込んでおにぎりを買う。ワシはファミリーマートの枝豆チーズおにぎりがずっと食べたかったんじゃ!電車に乗ったら乗ったで今度はスリを警戒しなくてもいいことに感動した。

 どれもこれもありふれた光景のはずなのに、久しぶりだと強烈な異国感があっておもしろい。帰国というよりも旅中の十三カ国目に入国しましたって感じが強かった。「日本ってどういう国なんだろうね」「これからどこ行く?トーキョー?キョート?」と二人でヒソヒソ話す。

 

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 旅の締めくくりは成田駅前の磯丸水産。ごま塩きゅうりをひと口齧った途端、夫が「はい優勝はい最高日本がいちばんいい国〜日本食がいちばん美味しいで決まり〜」と捲し立てるように言ってきておもしろかった。しかし本当にきゅうりを胡麻油と塩で和えただけのものが泣くほど美味い。炙りしめ鯖、揚げ茄子、ちくわの磯辺揚げ、キムチユッケ、シメのうどんまでしっかり食べた。こうしてチェーンの居酒屋で普通に飲んでいると今までのことが全部妄想か夢だったような気がしてきて変な感じだ。


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△うさたろ初来日!

 

 うさたろも鞄からひょっこり。「ここが噂の日本?」とびっくりしていた。チェコフリーマーケットで出会って以来、本当にここまでよく着いてきてくれたと思う。カミーノ中にうっかり落としたり、フランスの鉄道でスられたりしなくてよかった。うさたろとはこれからも末長くいっしょに暮らしていきたい。

 居酒屋のにおいがついたらかわいそうなのですぐ仕舞った。

 

 

  というわけで、完!

 長い新婚旅行でした。夫とは翌日駅のホームで「誘ってくれてありがとう。また遊ぼうね」と言って別れた。出発前に家を引き払っていて住むところがないため、当面はお互いの実家へ……。

 海外から帰ってきたと思ったら次はお家探しの旅、アンド職探しの旅。さらにそれも落ち着いたらあとは普通に国内旅行とかしたい。つまり人生は長い新婚旅行なのでした。ずっと「無事」は無理でも、出来るだけ夫婦共に健康で楽しくいたいものです。

 おしまい。