占い練習

 自宅のガスコンロが壊れていて金曜午後に修理屋が来る、と職場の人に嘘をついて早退の許可を得た。本当のところを言えばその日は電話占い師の面接の日である。

 恋人には「そんな嘘つかなくてもいいんじゃない?」「占い師目指してるってはっきり言う必要はないけど、何かやりたい仕事があってその面接があるって話せば素直に応援してもらえるよ」と言われたが、職場で極力個人的な話をしたくない私としてはこうする以外の選択肢がなかった。


 さてここで話を脱線させるが恋人の言っていることを紐解いてみると「嘘をつくのは誠実ではないし、それ故に罪悪感に駆られて自分が苦しい」という基本的な道徳観の他に、「適度な自己開示は相手に喜ばれる」という人間心理に対する洞察が読み取れる。これは本当にその通りで、やはり、何を考えてるかまったく読めないようなひとよりも、適度に自分の意見を言ってくれるひとのほうが「心を許してくれてる」という感じがして安心できるのは事実だ。

 が、だからといって不用意に自分の本音を晒して突っつかれたくないところまで突っつかれるのはどうしても嫌(最初に占い師というワードを出さないようにしていてもどうせすぐそこに辿り着く)。私はどうでもいい雑談には積極的に反応するしまた表情豊かでよく笑うほうだが「夢」「恋愛」「トラウマ」といった自分の中の重要項目については極力誰にも話したくないし親友や恋人にもあえて黙っていることがたくさんある。恋人は私のことをよく「ミステリアスだよね」というが、それはこういう頑なに秘密主義者的な面が効果を発揮しているからでは?

 積極的な親切と自身の気持ちを秘匿しようとする態度は人をリラックスさせかえって相手から言葉を引き出すのかもしれないなあと私はこれまで生きていて何度か思ったし(パッとみ無害そうだと無意識を反映させやすいのだろうか?)、そういう他者に対する感触をもうすでに掴んでいることは占い師(を目指すもの)的には良いことだろうからこれからもその資質を大切にしていこうと思った。占い師ではなく生身の人間としては若干の罪悪感と苦しさがやはりあるが(嘘はよくない)。


 全然関係ないが他人から見た私のわからなさって西洋占星術的に言うと水星金星土星の三惑星が魚座の位置にある影響だと思う。ホロスコープ夢遊病


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 カードの意味について大まかに覚えはしたがやはり理解がまだ甘い気がしている。が、だからといって本をたくさん読むというのも何か違う。「このカードが出たらこう」というふうにいくら知識を詰め込んだって、実践でうまくいかなかったら意味がないのだ。大事なのはあくまでインスピレーションと対話。

 と、いうわけで次は①スプレッドの種類を増やす②恋人相手に実践占いの練習をする、の二方向から攻めてみることにした。


 まず①。タロットについて詳しくない人にも説明すると、スプレッドというのはカードの展開方法のことを言う。

 こないだTwitter上で占いをした時は比較的シンプルなスリーカード(三枚のカードを一列に並べて過去、現在、未来を占う)というスプレッドを用いたが、これだとカードの枚数が少なくてインスピレーションが湧きにくいし、内容が濃い相談にはとても対応できない。

 そこで新たにもうひとつ、ヘキサグラムというスプレッドを覚えることにした。これは名前の通り、六芒星型に七枚のカードを展開していくやり方だ。カードを置く位置によって、過去、現在、未来、自分が置かれている環境、無意識、問題解決の方法、結論が読み取れるようになっている。ワンオラクルやスリーカードよりは複雑だが使う枚数が多すぎるというわけでもないので初心者にちょうど良い展開方法だと思った。


 いきなり実践というのも無茶な話なのでまずは練習がてらに自分のことを占ってカードの配置を頭に入れていく。「占い師として成功できるのか」「ダイエット成功するか」「このまま結婚できるんですか?」……最後の問で「現在」のことろに「カップのエース(正位置)」、「環境」に「悪魔(逆位置)」、「無意識」に「ハートの3(正位置)」が出たのを見て「お〜」と思った。

 「カップのエース」からは恋人に対する純粋な気持ちが読み取れるし、「悪魔(逆位置)」は「"こうでなくてはいけない"という誤った思い込みや、自分にとっておもしろくない規範から恋人が引き離そうとしてくれている」いまの環境にピッタリだ。「ハートの3」についても、ちょうど昼間「家族に対して抱えている傷」や、「それを誤魔化したまま誰かと家族になることに対する疑問」について考えていたことがそのまま反映されている。読み取り方次第ではあるが、想像していたよりもタロットって当たるんだなあとこの前の体験も併せた上で感じた。


 慣れてきたところで恋人に相手になってもらい実践の段階に入る。「仕事について見て」というので占ってみたところ、出るわ出るわ、「戦車(逆位置)」「節制(逆位置)」「塔(正位置)」……不調和なカードばっかり!

 とりわけ「現在」の位置に「ワンドのナイト(逆位置)」が出たのはウケた。やる気ないんだね。

 これって素直に伝えていいのか?と思い悩みつつも、カードの位置と意味についてひとつずつ説明していく。感想を聞くと、「よくないカードばかり出て確かにショックだが感触としては当たってる」とのこと。

 そう言ってもらえるのはありがたいが、後から「本に書いてあったけど、占いが当たりやすい人って素直で無粋な邪推をしない人なんだって」と伝えたら脊髄反射的に「俺のことじゃん!当たってるー!」と言って喜んでいたし、私の占いがどうこう以前に彼が単純にいいやつなだけでは?


 「塔」のカードを見つめて「わかった!これはさ、パンクのカードなんだよね。つまり現状をぶち壊して進めってこと。シンプルに良い意味のカードが出るよりよっぽど刺さるわ」と無理やりポジティブ解釈していたのもよかった……愛。(うっかり惚気になってしまいました)


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 気を取り直して今度はシミュレーション練習に付き合ってもらう。彼氏自身のことを見るのではなく、何か適当に架空の質問を用意してもらってそれについて占ってみようという試みだ。今のままだといまいち気持ちを乗せられないから仮のペルソナを用意するわ、と言って手元にキティちゃんのぬいぐるみを持ってくる恋人。かわいい。二回ほどやったのだが、それぞれ「結構願望が薄い年下と付き合っているアラサー女性」「アパレルの仕事をやめて違うことをしたいのだが明確な目標が見つからず悩んでいる若い女の子」という設定を作って付き合ってくれた。思ってたより具体的!


 その際言われたことをまとめると、


・カードをシャッフルしながら雑談を挟むなど、「アイスブレイク」がちゃんとできていて良いと思った。

・自分のキャラクターの作り込みが甘かったせいもあるとは思うが、もっと相手に喋らせたほうがいい。

・「〜かもしれない」「〜のようなイメージ」等、曖昧な表現が多い。もっとビシッと結果を宣言した方が良いと思う。

・カードの位置と意味の説明はしたほうがいい。もしかしたら相談者はそんなことには興味がないのかもしれないけど、「これこれこういうわけで」という説明を挟むことによってによって説得力が増す。

・思っていたより形になっている。カードを見て詰まることがない。

・いくら一度きりの占いとはいえ、あまりに大胆なひらめきや願望についてははっきりと口にできない人の方が多い。良くも悪くも相談者の発言を鵜呑みにしすぎず、言葉の先にあるものを読んだ上で背中押してあげるのが占い師では?


 こんなところだろうか。すぐには解決できないものも多いが、大変参考になった。

 特に「曖昧な表現が多い」という指摘に関してはその通りだと思う。

 これは前回のブログで挙げた問題点とも繋がってくる話だが、私はあまり自分の占いに自信がなく(経験がないというのもあるが、いちばんのネックは占術という行為に確信を持てないことだと思う)、どうしても「当たらなかった場合の保険」をかけたい気持ちが強くなってしまう。

 ひとまずの対処法として、「結論」や「全体の雰囲気」を先に述べることで診断結果の印象を濃くする、というやり方をとってみることにしたが、これでは根本解決になるまい。


 カードの位置・意味の説明に関しては、私が今まで受けた占いでは特にしてない人の方が多かった(おおまかな結果だけ伝えてくれる)のだが、確かにそう言われてみると、それがあるのとないのでは大違いというか、やっぱり、あると筋道立てて話しやすいし、ないと話し方がぼんやりしてしまっていまひとつといった風に感じた。全てを説明し尽くす必要はないにせよ、ある程度は注釈があっても良いのかなと。

 こういった言葉の選び方や対話と説明のバランスに関してはやっていくうちに勘所が掴めてくる物だと思うので、あとは実践を重ねながら上達していきたい。


 さらにもう一つ自分自身で感じた問題点を挙げると、


・カードが示す抽象的な意味に具体性を持たせることの難しさ。


 というものがある。これは単純に私の世間知らずが悪い。「アパレルの仕事をやめて違うことをしたいのだが明確な目標が見つからず悩んでいる若い女の子」に対し、他の職業を薦めるというくだりで全く具体例が思い浮かばず「あちゃー」と思った。世の中のことや他人に対してもっと関心を抱かなくては……。


 なんにせよまだまだ修行が必要そうである。