短歌

第六十八回角川短歌賞落選作『ヴァーチャル・春の海』

魚駅過ぎたあたりで待ち合わせ二重写しの季節めくって お別れのレビューは自動筆記の涙でしたねロボットメイド 眠れずに迎えた朝を掻き分けてエンターキーで花に水やる ガラス戸の割れた心を手術するキラキラシールのりぼんを貼って 真夜中を縦に割いたら蟹…

第六十五回短歌研究新人賞応募作『温め鳥』

☆予選通過、2首掲載でした(※が掲載歌) 『温め鳥』 下茹でを忘れられてた大根の態度和らぐ二日目の朝 信じてたよりも甘いワンカップ片手に煮卵譲って冬至 婚約の夜に温め合うひとのように震えて鍋底の澱 おろしたてのセーター脱げば湿度保つ人の薄皮静電気…

第四回笹井宏之賞落選作『宇宙飛行士失業中』

辞めるなら地球に還るまでの間有人宇宙機の外にいろと 観念につながれている命綱 好きな武将の辞世の句叫ぶ 静けさに打ちのめされて横たわる月型蛍光灯下の温度 真夜中の青果売り場は冷たくて正しいグラムもわからなくなる パプリカの種を無重力空間に散らし…

第六十七回角川短歌賞落選作『吹きさらしのクマ盗難計画』

遺家族と呼ばれ応える三人の子、三人の父、霊前の海老 「別の人のロイヤルベビーも産みたいと言われてみんなフラれたみたい」 季節来遊魚のように棲むことが得意な女性だったと聞いて 妹の定義が欲しい妖怪の名前にずいぶん詳しそうだね 馴れ初めをはじめて…

今日は彼氏がいないから 百首会編

いっしょに住んでいる恋人が、ゴールデンウィークを利用して何日か実家に帰ると言う。 あからさまに「ショック!」という顔をしていると、「さかなちゃんも帰ったら?」と提案されたが、私はワクチン接種が終わるまで実家を出禁にされているためそれは出来な…

2020短歌

詠んだ順に49首 永いことうつくしかった髪に陽が射してどこまで白い朝かな 海を背にエビピラフ食う老夫婦ありふれたもの・よくある土曜 急死した友が推してたアイドルが生誕迎えアラサーになる 薔薇の名を教えてくれとせがむ子に太陽落ちてすべてが終わる あ…

冬の穴

失踪がだいすき母と父捨てて餃子が好きな舌だけ連れて 顔のないひとになりたい知らん町 紙コップもらう 熱さかんじる 朝だよと触れてくる手がない朝にシーツの奥で種になってる 砕かれた携帯埋めて木を生やす中身が空の檸檬育てる 待ち人は来ませんそれでい…

秋が笑ったね

すすきって持ちたくなるね月へ行くうさぎの隊列後方にいる 赤ちゃんに毛布をかけるしずけさで眠るあなたをくるんでいたい 卵だけ買って帰ろう他の人とみた睡蓮の絵なんか忘れて 白菜が安くなったよグラタンにいれてみようか魚卵ほぐす夜 キッチンの垢抜けな…

春のあわい

花野菜ピクルス漬けにしてみたよ さっきの女ちゃんと殺した? 本読もうやっぱやめようミント色の靴底で踏む地球愛そう すぐ踊るとこがいいよねお腹出てるとこもすきだね羊羹食べな ごめいわくおかけしました してないよ 春のぜんぶが遊べといってる きみとい…

美しい夏

青い花の刺繍をみせてあげたくてさわればよかったおじさんの舌 熱量をくれないなら死ぬ ミルクパン未開封だけど蟻にあげちゃう 誰にでもやさしいことが仕事ですグリンピースを残していい券 おじさんと海を見たいよ金星はいつぶつかってくるのねえして 桃食べ…

火星を殺しに

バニラとかメロンソーダの味がする煙草ばっかを咥えて腐る 太宰より中也がいいな作品のことではなくて付き合うのなら カラオケではじめていれたヒット曲不倫の話をずっとしてたの 好きなだけ我儘を言う好きなだけきみは無視してたまに従え なんだって食べて…

さかなちゃんの星座占い

ラム肉を頬張る赤い唇があっけらかんと告げる幕開け(牡羊座) 所有する初夏の光も嘘さえも釘もパン屋も実は怒りも(牡牛座) 移り気なきみだととうに知ってるよ「ぼくらは」なんて鏡に言って(双子座) 桃さえも器用に剥けるその指がうっかり倒した100均の…

2019短歌

詠んだ順に56首 1.満員の電車つり革につかまって案外大きい彼女のつむじ 過ちを犯してからも生きてけよ念込め見やる変身ベルト 3.死ねるほどの夜があっても吐きはせずかわいい寝癖に綿毛かさねる 4.吊るされたシェード・ランプよ落ちてこい不眠で滑るマカロ…

僕の宗教へようこそ

宗教に縋りたしとは思っても和解すべきは神じゃなく親 何のために生きるの?普通に働けてたら幸せなの?普通にご飯食べられたら幸せなの?子供は産むの?産まないの?産めないの?結婚したいの?したくないの?何がやりたいの?将来の夢とかあるの?人生の生…

天使

救済はどこにもないよいい意味できみはとっくに炸裂してるよ 大規模な光の中に投げ出されわたしゆらゆらコーヒー・タイム お金には執着しない贅沢がただ贅沢がすきだすきだよ 桜散れ牡丹は落ちろ薔薇は死ね機を逸さずに後ろ髪引け 白い服しかもう着ない浮世…

あかるい帰り路

やがて死ぬこの身でしばし待ちぼうけ三番ホームかじかむ時計 すれ違う人影に怯え食べかけのおにぎり隠す品行悪し 充電が切れていよいよ軽い鞄お願い刺してよいない通り魔 デートより楽しいことをするために今から嫌いになっとこ二月 棺桶に横たわるとき流れ…

第61回短歌研究新人賞応募作『光明』

第61回短歌研究新人賞応募作 ☆予選通過、2首掲載でした(※が掲載歌) 『光明』 凍らせた百合の花々摘み取って天上のひとミンチ機遊び いつもより酸素が多い朝だからついつい手伸ばす刃物特集 しろいろの侵略戦争受け入れてわたしの眼下もすっかり永遠 敷布団…

第60回短歌研究新人賞応募作『たいくつな水』

☆予選通過、2首掲載でした(※が掲載歌) 『たいくつな水』 わたしから溢るるもので浴槽は羊水として満たされている 名前さえ忘れてしまいそうになるからっぽのままほどかれてたい ふくらんだ腿の産毛は水をはね死体となってしろくゆらめく 肥大するすべてが…

2017.05~12 短歌

詠んだ順に32首 1.大正解!わたしの暮らしほろ酔いの昼はふらふら宇宙のはずれ 2.いちご味舌で転がし老人の語らい盗むと「いいやつから死ぬ」 3.果物の臍をやさしく掃除するジャムでも煮詰めて子猫と暮らせ 4.飼い犬にゆるしをえたときみ笑うずいぶんみやび…

限りなく赤に近いピンク

夏に買ったきり、ずっと使わずにとっておいたJILLSTUARTのリップブロッサム50番を、はじめて自分に塗ってあげた。限りなく赤に近いけど、でもぎりぎりのところでピンク、といった感じの色合いがとてもかわいらしく、見ているだけで胸がときめく。グリッター…

20171121

短歌というものは簡潔に研ぎ澄まされているからこそ光る表現なのであって、こういうことをするのは野暮かな、とも思うのですが、日々の記録を兼ねて。 今日の店予約しといてくれたんだ 次はいっしょに遭難しようね とてもすてきな友だちがいます。立ち振る舞…

2017.04 短歌

詠んだ順に31首 1.好きな花、薔薇とすみれと、好きな色、赤白ピンク、好きな犯罪 2.人類がざらめのようにはりついて地球をなめる神さまの舌 3.子供向けとんかつソースおごられてわたしのひみつ39円 4.こんなにも氾濫してるはずなのにだれも知らないあなたの…