第六十五回短歌研究新人賞応募作『温め鳥』

☆予選通過、2首掲載でした(※が掲載歌)

 

『温め鳥』

 

下茹でを忘れられてた大根の態度和らぐ二日目の朝

 

信じてたよりも甘いワンカップ片手に煮卵譲って冬至

 

婚約の夜に温め合うひとのように震えて鍋底の澱

 

おろしたてのセーター脱げば湿度保つ人の薄皮静電気放つ

 

暗闇で泣いていた目に手洗いの明かりを見せてなだめる獣

 

寝返りを打つたび檸檬かたくなるスノードームの海豚は不眠

 

寒がりに雪を見せれば抱き寄せている足の指毛布握って

 

お風呂場の床にしゃがんで電話する湯が溢れてもくすぐり合おう ※

 

光だけあつめましたと言いながらわたしの爪の噂をしてて

 

梅園をいつ訪ねるか決めたあと瞼とじれば火花青々

 

手づくりの意味を教えてくれるひとニューワールドの提灯赤い

 

炬燵から額を出して幸福はコルクボードの茶色のことね

 

トースターで餅は焼けるか話し合うだけの関係血縁を生む

 

うさぎ石、ではなくこれはほらあなた京都旅行で拾った箸置き

 

よく見れば変わった木だと思いつつ手をあてがえば春の脈動 ※

 

お米研ぐあなたの気配優しくて向こうの部屋で煙を掴めば

 

ドラッグにやられて死んだ脚本家後書きにいてまた痴話喧嘩

 

拾われてもう一年になるけれど飲酒紀行を続けましょうか

 

ガス台の下の戸棚に挟まれた旅館のタオルが記憶のしおり

 

何年も畳まれ続けた肌着たち洗濯機にはソフトに負けて

 

注ぐのは水に似ている懐かしさ製氷皿のアルバム割れる

 

木星がわたしの円を経由して駆け抜けるから風邪は引かない

 

ほうじ茶を淹れようかって声かけて噴火のニュース聞き逃してよ

 

取り返しつかないことを数えたい傷ついた床に耳押し当てて

 

ブラウスのボタンをひとつ失くした日 土砂降りの雨 あれはまだ夏

 

習慣にないことだからアイロンの表示記号と仲良くしない

 

終わり方想像しては数学の話に逸らすお茶目のくせに

 

えいえんの類義語として添い寝という行為があって手に手重ねる

 

暮れていく片隅の町 写真家はすべての色を緑に変える

 

あの日々のわたしに海をあげたいと思ってきたからいま泣いてます