十月二十二日(土)
カミーノ巡礼二十四日目。今日は三十キロ歩くので六時半には起きた。三十キロ……なかなかしんどい距離だが、それより以前の町で泊まろうとすると今度は十四キロしか歩かない計算になり、調整が難しい。すべての町にアルベルゲがあるわけではないのがネックだ。
歩いていてよっぽどしんどかったらその時は相談で、とは言いつつ、最終的にはやり切るつもりで一日をスタートさせていく。
宿の近くで水を汲み、七時過ぎには出発。ここのところ毎日上着の下にウルトラライトダウンを仕込んで出かけているが、今日は少しだけ暖かい気がした。
町の外れで街灯が途絶えた。ずっと向こうまで広がる真っ暗闇の中へ突入していく。視界が悪過ぎてアスファルトの水溜まりがブラックホールに見えたり、遠くにある平べったい林がUFOに見えたりした。なかなか楽しい。歩き出すタイミングが微妙にずれたのか、前後に他の巡礼者の影はない。
だんだんお腹が空いてきたので、途中スニッカーズを齧りながら歩いた。巡礼していていちばん嬉しいのって、スニッカーズを罪悪感なく食べられることかもしれない。まあ、いちばんは大袈裟だとしても五番目ぐらいには嬉しい。
サンティアゴまで残り三百キロ。昨日の時点でもう到達していると思ってたのだが、勘違いだったみたい。
八時。曇ってはいるけどちょっとずつ明るくなってきた。
昨日の朝よりは晴れた。雲の間から差し込む光が神々しい。
かっこよく撮れたトウモロコシ畑。枯れてる?
九時半、十キロ経過。最初の町にたどり着いた。アルベルゲ併設のバルで休憩。何日か前にレオンで買ったクッキーを食べた。
残り二十キロ、段々いけそうな気がしてくる。
三十分ぐらい休んで出発。謎の塔を通り過ぎた。天気も相まってちょっと不気味だ。
牛さん。
道の真ん中に大きな矢印。
後ろの方は晴れてるのに、我々が進む方向は曇天なんだなあ。みつを。霧のような雨がパラパラ降ってきたけど気にせずに行く。巡礼者の書かれた看板がかわいい。
十一時。十四キロ経過。ほぼほぼ折り返し地点だ。このあとまた十一キロぐらい町がないので、ここで一休みしていくことにした。今日は特に先が長いので息を切らさないことが大切。
町を出てすぐ、にこにこルートとがっかりルートの分岐点に出会った。調べると、私たちが行こうとしていたのはがっかりルートの方で、何もない道路沿いを歩くことになるらしい。一方でにこにこルートは自然が多い上町もちょこちょこある。ただしがっかりルートに比べるとちょっと距離が長い。
一瞬迷ったが、まあこう書かれてはにこにこルートを選ぶしかないだろう。
これがそのにこにこルートだ!
一時間もしないうちに町が現れた。これはたまたま見かけたかわいいと怖いの中間にいる人形たち。ブエンカミーノって書いてあるね。
素敵な場所に通りがかった。どうやら個人が自宅のガレージを解放して休憩所にしているようだ。壁一面にこれまで立ち寄った巡礼者の写真や各国のお札が貼ってあった。机の上には果物や飲み物が置いてある。お代はドネーション制。
気になって眺めていたら、奥の方からおじいちゃんが出てきて寄って行きなと手招きしてくれた。
クレデンシャルにスタンプを押してくれたお礼にハンギョドンシールを渡したら、一生懸命壁のどこに貼るか考えてくれて嬉しかった。
山道と町を交互に通り過ぎながら進んでいく。今日はよく牛に会う日だ。
十三時半。振り返るときれいな晴天が見える。
十四時。残り八キロぐらいの地点で小休止。適当な木の下に座り込んだ。三十キロと聞いたときは怯んだけど、意外とやれるもんだ。もう全体の三分の二以上歩いてしまった。確かに疲れたけどのんびりやれば大丈夫!
と、話した途端に雨が降り始めた。酷い。
雨がどんどん強くなる。とりあえずあと四キロで次の町に着くので、そこではバルに入ってしっかり温まろうという話に。
左の足からびしょ濡れになっていくのを感じて、左から風が吹いてるんだなあと当たり前のことを思った。
十五時半。目的地の手前の町に到着。ここにも一応アルベルゲはあるのだが、どこも一泊五十ユーロからと高額で断念。あと四キロがんばって歩く覚悟を固めた。
叩きつけるような雨。バルの前まで辿り着いた巡礼者たちが「ここで……休んどくか……」みたいな顔をしてどんどん吸い込まれていく。
十六時過ぎ。待っていてもどうせ止まないので諦めてラストスパート頑張ることにした。しばらく休むと体が冷えて寒いんだなこれが。途中暑くなって半ズボンになったきりそのままにしていた夫が体を温めるために小躍りしながら歩いていく。
こんなに雨が降っていて寒くて辛いときにテンションまで下がると本当に死んでしまうので、出来るだけ笑っていようと思った。そして実際になんか楽しかった。
十七時。町に着いた途端一層風が強くなった。祝福か?ここが今日泊まるアストルガです。
そしてチェックインした途端止むんだよな。窓の外を見た夫が「止んでら〜」と言うので「止ん寺。昔々、あるところに止ん寺という寺があったそうじゃ……」と続けたら「そこにはてるてる坊主という坊主が住んでおって……」と返してくれて良かった。
いつものルーティンをこなしてちょっとのんびりしていたらもうけっこういい時間になっていた。夕飯を食べに外へ出る。さすがに三十キロ以上歩いた後では観光する気になれないが、この町もなかなか大きくて見所がありそうだ。
雰囲気のいいレストランがあったので入ってみた。ピルグリムメニューはなかったのだが、代わりに同じぐらいの価格帯で本日のメニューを出してくれる。
一皿目、私は二枚貝と豆のスープを、夫はシーフードパエリアを頼んだ。
二皿目は二人とも肉料理。夫はビーフステーキ、私はチキンの煮込みにした。お肉は柔らかいほうが好きなのでどうしても煮込み料理を頼みがちだ。
〆のデザート。今日はたくさん歩いて疲れたので、ひさびさにガッツリした夕食が食べられて良かった。