十月二十七日(木)
カミーノ巡礼二十九日目。今日は元々十九キロぐらいしか歩かない予定だったので、遅めに起きてのんびり支度をした。夫の体調はすっかり元に戻ったようだ。良かった。とはいえまだ病み上がりだし、様子を見つつ焦らずに行きたい。
朝ご飯は宿一階のバルで食べた。
八時半出発。歩き始めてすぐにかわいい黒猫と出会った。昨日も見かけた子だ。写真だとちょっとわかりにくいけど、体のわりに顔が丸々としていてなんともいえない愛嬌がある。
近付こうとすると警戒の姿勢を見せるのだが、私たちが歩くと並行して付いてくる。一緒に巡礼する気なのかな?と思ってついつい振り返りながら歩いてしまった。
立ち止まると地面に寝っ転がって腹見せ。
歩くとやっぱり向こうも歩き出す。
しばらくそんな感じの距離感でいるうちに段々不安になってきた。本当に来ちゃったらどうしよう、と…。
が、町の外れぐらいでようやく立ち止まってお別れしてくれた。まあ、そうだよね。ちょっと名残惜しいけど、これからもあの町で幸せに生きてほしい。
今日の前半は動物パラダイスだった。歩いているのはコンクリートの車道沿いなのだが、脇のほうは牧草地になっていて自然も多い。
心ときめく高架下。
十時半。今日は二人共疲れ知らずでサクサク歩けた。残り九キロぐらいのところでようやくバルに入って休憩することに。写真はいい感じの水門。
十一時。再び歩き始めた。行く先はよく晴れているが、背後は若干曇っており、ちょうどよく日陰になってくれてありがたい。
南瓜がたくさん実っている畑。数日後にはハロウィンなのを思い出した。
なんとなく急斜面のはじまりを感じる。前半は平地が多かったが、後半はずっと山道の登り坂だ。ここから一気に標高が上がる。いつでもエネルギーをチャージできるよう、上着のポッケにチョコレートを入れておいた。
しばらく行くと自転車ルートと徒歩ルートで道が分岐した。
十二時。山道に突入。ここからが今日の本番。
いつものごとく坂を登り始めてすぐに息が切れた。数百メートル先で夫に待ってもらったりしながらゆっくり歩く。カミーノの巡礼をはじめてからそれなりに体力がついたはずなのだが、というか、こんなに頑張ったんだからついていてほしいのだが、結局最後まで苦手なものは苦手だった。
とはいえ楽しいといえば楽しい。初日に越えたピレネー山脈を彷彿とさせる素敵な道だ。雨は降っておらず、あんなに大変でもない。
帰国後も定期的に山登りやハイキングをして、頂上で大きな塩おにぎりを食べたり、麓の町で温かいラーメンを食べたりしたいなあと改めて思った。
十二時半。お腹が空いていたので途中の町で再びバルに入った。たまたま他の人が魚のスープとパンのセットを注文していたのを見て、私たちも真似することに。スープは満腹になるわりに苦しくなりすぎないのがいいと思った。
一時間近くたっぷり休んでからバルを出た。あと五キロ!平地なら一時間とちょっとで着く距離だが、相変わらず坂道続きなのでもっとかかりそうだ。
ところどころ雲が怪しい色をしているので、なんとなく「いまは大丈夫だろうけど、今夜は雨だろうなあ」と言ってみたら、どうも本当に十七時から降る予報になってるらしかった。何も見ずに今後の天気を当てるなんて我ながらたいしたもんだ。長い巡礼の旅を経て野生の勘が研ぎ澄まされてきたのかもしれない。
ゆるやかな斜面に立って草を食べる牛たち。
前を歩いていた人が立ち止まって写真を撮りはじめたので、画面に入らないよう手前で待つついでに私も同じ角度から一枚撮った。
十四時。町を一つ通り過ぎた。あと二キロぐらい。
振り返ればかなり高いところまで来ていた。テンションが上がってか、叫びながら歩いている青年二人組とすれ違う。やばい人かと思ったけどちゃんと挨拶してくれた。
十四時半。ついにカミーノの最終エリアであるガリシア州に突入した。サンティアゴまではあと百六十キロぐらい。
地図で見るとこんな感じ。もうかなり大西洋が近い。
ラストスパート。終盤に差し掛かったところで若干坂が緩やかになった。
十四時四十五分。山の頂上にある町オ・セブレイロに到着。やりきった!そして、きっとやれると思ってた……。慎重にゆっくり進めば攻略できない坂はない。
△登ってきたのとは反対側に広がる景色/アルベルゲから
百人以上が泊まれる大型アルベルゲにチェックインした。最近は多くても定員五十名ぐらいのところに泊まることが多かったので、なんだか懐かしい雰囲気だ。もうそろそろカミーノのシーズンも終わるし、私たち以外に歩いてる人なんかほとんどいないんじゃないかと思っていたけど、意外とそうでもなことがわかった。
シャワーを浴びようとしたらブースにドアがなかったけど、そこもまあお愛嬌。細かいことは気にしないのだ。がはは。
※ちゃんと見えないように男女でしっかりエリアが分かれてます。
バルで適当に夕飯を食べるつもりで外に出て、気になる売店を見つけた。からぶきの屋根をかぶった小屋みたいな外観なのに、外に向かって爆音でサンバを流している。
しかも地味に品揃えがいい。お酒や食料品だけではなく、シャンプー等の日用品までなんでも置いてあった。
バルでよくあるハム&チーズのサンドイッチを頼むぐらいだったらここで材料を揃えて節約したほうがいいという話になり、今日は自炊デーに変更。
アルベルゲのキッチンでいざ晩餐!と思ったらなんと棚を探しても食器やカトラリー類がほとんど見つからない。買ってきた物の大半が手で食べられるものだったからなんとかなったけど……。パスタを作るという話も出ていたが、採用しなくて本当に良かった。なんだか今日は全体的にワイルドな感じ。そんな感じ。