十月三十日(日)
カミーノ巡礼三十二日目。今日はちゃんと七時過ぎに起きることができた。ドミトリーだからというのもあるけど、早めに寝たのが良かったのだと思う。疲労困憊で宿に着いて、風呂入って、ご飯食べて速攻寝る、みたいなことひさしぶりにをやった気がした。
八時ちょっと前には出発。自転車巡礼者モチーフの電灯がかわいい。
時間の割にいつもより周囲が明るい気がして、どうしたことかと疑問に思っていたらどうやらサマータイムが終わったらしい。きっかり一時間分、昨日までと時計の進みが違うからこんなにもギャップを感じるのだ。
お腹が空いていたので歩いて十分ぐらいのところで喫茶店に入った。朝からケーキ、最高!
温かいカフェラテを飲んだら妙に気持ちがのんびりしてしまい、初っ端から三十分近く休憩した。気を取り直して再度出発。サリアの街を後にする。
今日はきれいに晴れた。距離も二十三キロと短い方だし、気持ちよく歩くことができそうだ。
昨日夫婦で「悪天候の日にも楽しみはあるよね」という話をしたばかりだけど、やっぱり雨は降ってないほうが良いな。
苔に覆われた古い石の橋。霧が立ち込める中にぽつんとあって、特別な雰囲気を出していた。
しばらく歩いたところで謎の偽分岐路を見つけた。右に曲がるとすぐ線路にぶつかるので、真っ直ぐ行くしかないと思うのだが……悪戯だろうか。
そのまま真っ直ぐ歩いていたら、結局途中で線路にぶつかった。どうやって渡ろうか考えていると、向こうのほうから「こっちだよ!」と呼ぶ声が。見ると地元のおじいちゃんが安全に渡れる場所に立って交通整理をしてくれていた。本当にありがたい。朝から人の善意を感じて心が温かくなった。
線路を渡った後はずっと森。急な坂を頑張って登った。
そこそこ大きな街から出発したからか、今日は巡礼者を見かける頻度が高い。二人で静かに歩くのも好きだけど、こうやってみんなでハイキングしてるみたいな感じも楽しいと思った。
太陽の力強い光。生乾きだったジーパンと靴がみるみるうちに乾いていく。
犬も交通整理してくれている。どこかの家の牧羊犬かもしれない。
馬が柵から顔を出してこちらを見ていた。挨拶がてらちょっと近寄ってみる。大人しくて賢そうな子だった。
十時半。朝食べたばかりなのに、もう空腹だ。というわけで休憩。おやつとして注文したクッキーがサクサクしていて美味しかった。
三十分ぐらいのんびりしてから歩き始めた。薄い雲がヴェールみたいで美しい。あと十三キロ。
自動販売機だけが置かれた無人の休憩所を見つけて、かなり心惹かれるものを感じた。無機質なようでいて温かみがあるよね、こういうの。休んだばかりでなかったらちょっと寄りたかった。
良い石垣沿い。
壁に描かれたかわいい巡礼者の絵。出発地点の町でも見かけた画風だ。この辺のシンボルなのだろうか。
うさたろも今日はビニール袋なしで快適に過ごしております。
十二時半。先ほどの休憩からまだそれほど経っていなかったが、トイレに行きたかったのでバルへ寄ることにした。今日はけっこう町と町の距離が近く、休憩ポイントがたくさんあって良い感じだ。逆に、気になる店があっても全部には入れないという悩みが発生するレベル。
コーラを飲んでまったりしていたら、
「はい、じゃあここでスタンプ押して行きますからね〜」
という、バリバリの日本語が急に聞こえてきてビックリした。え?!日本人?しかもたくさんいる!
※教会やバルなど、アルベルゲ以外でもクレデンシャルにスタンプを押してくれる場所はたくさんある。
カミーノが始まって以来ほとんど日本人と出会うことはなく、たまに見かけるアジア系の人といえばだいたい韓国の方だったので、これには本当にドッキリした。お話を聞いてみるとなんとパッケージツアーで来ているとのこと。カミーノツアー?!
最終目的地・サンティアゴで巡礼証明書を発行して貰うためには最低百キロ歩く必要があるため、ちょうどそのラインであるこの辺りからスタートしよう、ということらしい。なるほど。よくよく考えてみると、今日に限って巡礼者の数が多かったのもそういう訳っぽい。
言葉が通じることのスリルを久しぶりに味わいつつ、お互い頑張りましょうねと声をかけ合って御一行とは別れた。あと九キロぐらい。
十三時。ついに残り百キロ地点に到達。さすがに感慨深い。靴を捨てていく人の気持ちもわかる。たまたま居合わせた他の巡礼者に二人で記念写真を撮ってもらった。
カミーノラストステージといった感じ。
昨日は山羊、今日は羊。
十四時。今日の町・ポルトマリンが見えてきた。広い空を見て、晴れて本当によかったなあとしみじみ思う。
油断して歩いてたら急にすごく急な天然の階段が現れた。危ない。こういうところではかえって杖を使わず、手で両側の岩を掴みながら降ったほうが安全だ。
ポルトマリンに向かって架かる橋。
ハート型の鐘があったので二人で鳴らした。「イェーイ!」とか言っていたら後ろで写真を撮っていたおじさんも「イェーイ!」と言ってくれてほんとうにイェーイ。
十五時。到着!
ポルトマリンは街並みが白っぽく、どことなくギリシャのサントリーニ島ににている気がした。山・サントリーニ。
△ポルトマリンのサンソアン教会
宿にチェックインした後は少し街を散策した。小腹が空いていたのでスーパーで軽く食べられるものを買って帰る。
ポテトチップスにチェダーチーズをかけてピザポテトを錬成した。こんなに悪いことができるのは私ぐらいだろう。
おやつ程度に考えていたのが思いの外満腹になってしまったので、今日はもうベッドでゴロゴロして終わることにした。