カミーノ 緑は神聖な色

十月二十九日(土)

 カミーノ巡礼三十一日目。またやっちまったよ、二度寝。七時半頃に一度目が覚めたのだが、夫はまだ寝ているし、外から聞こえる雨音が心地いいしでつい……。起きたら十時前だった。カミーノではじめて個室に泊まった時も大寝坊して、それ以来ずっと油断しすぎないよう気をつけてたのに。

 まあでも、悔いたところで時間は巻き戻せないからしょうがない。三十分ぐらいで手早く荷物をまとめて、チョコレートをかじりながら歩きはじめることにした。

 

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 安宿の壁に飾られている絵が好きだ。

 

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 そういうわけで十時半出発。けっこうな勢いで雨が降っている。この天気のなか今日は二十四キロ歩く予定だ。正直、起きた直後はそんな気になれなかったけど、いざ外に出たら腹が決まった。まあどんなに遅くても日没までには着くだろう。

 

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 ここからまた北と南でルートが分かれる。北のほうが七キロ近く短いらしいのだが、私たちはもともと南ルートを行く予定だったのでそこは貫き通すことにした。

 

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 車道沿いをずっと歩く。山の頂上はもう過ぎたのだから昨日よりは雨も風も強くないはず……という予想を華麗に裏切ってすごい風だ。もともと湿ったままではあったけど、昨日洗ったばかりのジーパンと靴下がすぐびしょ濡れになった。

 

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 地層がすごい。

 

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 しばらくすると車道から脇に逸れて林の中に突入した。

 

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 坂を降りてすぐのところに寒村が。建物の老朽化具合からかなり古い町であることがわかった。なんだか廃墟みたい。

 本当に人が住んでるのかな?と二人で話していると、背後から住人のおじいちゃんに挨拶されてビックリした。しかもめちゃくちゃ笑顔で優しそうな人だ。

 

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 町を通り過ぎたあともずっと自然道が続いた。泥濘がすごい。昨日丹念に裾についた泥を洗ったばかりなのに……。

 

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 しばらくするとまた別の町があった。そろそろお腹が空いてきたところだったので町唯一のバルを探したが、なんと休業日。仕方ないのでその辺に座って十五分だけ休むことにした。残っていたチョコレートで当面のエネルギーを補いつつ、四キロ先にあるサモスという町に希望をかける。そこはまあまあ大きな町だし、何かしらはありそうだ。

 

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 十二時。普段ならけっこういいところまで来ている時間帯だが、今日はまだまだ。

 

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 牛たちも雨の中頑張っている。

 出遅れたのもあるとは思うけど、この悪天候で長い方のルートを選ぶ物好きはあまりいないのか、今日は他の巡礼者と全然すれ違わなかった。

 

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 木のアーチを潜り抜けながら進んでいく。緑は神聖な色だと思った。

 

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 十三時。サモスの有名な修道院が見えてきた。ガリシア州でいちばん古いらしい。ちなみにここもアルベルゲになっており、巡礼者は泊まることが出来る。

 

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 ようやくサモスに着いた。運良く適当なバルを見つけることができたので、さっそく避難。町が見えてきた途端、いっとき弱まっていた雨が勢いを取り戻してきて大変だった。疲れた体にコーラが沁みる。

 

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 ソーセージとチーズのサンドイッチを頼んだらすごく大きなやつが出てきて嬉しかった。チーズにコクがあって美味しい。

 たったこれだけのことで、人生ってやつはやっぱりどこかしらで釣り合いが取れるもんだなあと思った。大変なことばかりじゃないよね。

 

 あと十四キロ!

 

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 一時間近く休んでから出発。バルの目の前に道標があったので、それに従って坂を登ろうとしたところ、たまたますれ違ったおじさんに話しかけられた。スペイン語だから正確なことはわからなかったけど、たぶん、そっちはアップダウンが激しいから車道沿いを行った方がいい、みたいなことを教えてくれているっぽい。そういうことならと思い、二人でおじさんにお礼を言って別の道を行くことにした。

 明らかに言葉が通じなさそうなアジア人相手なのに、見て見ぬふりをせずこうやって親切に声をかけてくれるのはありがたい。

 

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 しかし、しばらくするとまた大通りから外れて山道に戻った。結果やっぱり坂だらけ!でも心は温かい。

 

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 泥濘に足を取られまくる。何度か完全に泥にハマって悲鳴を上げた。

 

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 素朴なホタテ貝。

 

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 十五時半。道が良かったのか、悪天候がかえって集中力を生んだのかはわからないが、今日はなんだか自分の中の考えに没頭できた一日だった。ふと、しばらくずっと無言で歩いていたことに気がついて話しかけると、夫も夫でそんな感じだったという。

 

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 それぞれが歩いている中で気が付いた考えを交換し合った。会話が楽しい。

 

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 十六時半。急に近代的な町が現れた。今日はずっと古くて寂れた村ばかり見てきたから、なんとなく新鮮な感じだ。

 ここが北と南に分かれたルートの合流地点になっているらしい。

 

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 それから間もなくして今日泊まるサリアの町が見えてきた。

 

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 いまさら顔を出す太陽。遅い。

 

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 山羊たちが牧草を食べているのをぼんやり眺めていたら、なぜかぐいぐい近寄ってきてしまった。猫や犬ならわかるけど、山羊でこの流れは初めてだ。

 

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 つぶらな瞳の黒山羊を見て、夫が「こいつと前世で知り合いだった気がする」と言っていた。

 

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 どういう感じで飼育してるのか不明だが、柵の外に放たれている子もいる。みんなかわいい。

 

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 十七時。サリアに到着。町の入り口あんなに山羊がいたわりにはなかなか大きな街だ。

 予定よりも早く着いたね、と二人で話しながらアルベルゲを探して歩いた。

 

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 しか最後の最後に階段!なんで!この上に目当ての宿がある。

 結果的には無事チェックインできたからよかったけど、今日は本当に疲れた。

 

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 夕飯は近くのバルで軽くつまみながら飲んだ。コロッケが絶品。ハロウィンが近いからか店員さんがみんな悪趣味系映画のコスプレをしていて良かった。『時計仕掛けのオレンジ』は私もいつかやりたい。


 明日はきちんといつも通りの時間に起きたい。