カザンラク 廃墟みたいな犬

八月十四日(日)

 今日は夫の趣味に付き合って「ブルガリア共産主義体制時代の遺物・バズルジャ」を見に行くことになった。それっていったい?

 なんでもプロブディフから電車で数時間はかかる山の上に、今は廃墟となってしまったUFO型の巨大なモニュメントがあるらしい。世界四大廃墟と言っているひともいて、マニアの間ではなかなか有名な存在なのだとか。そう聞いて写真などを調べてみると確かにどこかで見たことがあるような気もしてくる。名物化するのもわかるようなやばい風貌だ。


 夫には「遠いし交通の便も悪いから着いてこなくてもいいよ」と言われたのだが、さすがに興味を惹かれたのでいっしょに行くことに決めた。ツアーを申し込めば(あるんだ!)確実に楽しめるし中も見れるかもしれない(ほんとか?)のだが、少々値が張るため私たちは電車とタクシーを駆使して目的地へと向かう。

 

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 早朝六時、まずは最寄りの鉄道駅を目指して歩く。外は涼しく、朝焼けがきれいで、夏休み最後の日に早起きしてしまったみたいな気持ちになった。

 

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 七時少し過ぎ、駅に到着。剥き出しの鉄骨と生えっぱなしの雑草を見て夫が「荒廃的な美を感じる!」とはしゃいでいる。確かに、前に勧められていっしょに観たタルコフスキーの映画もこんな雰囲気だったな、と思った。

 

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 七時二十五分乗車。

 

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 コンパーメントタイプの座席。ハリー・ポッターの世界で見たやつだ。これは私でもテンションがあがる。

 

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 窓からの風景。

 最初は寝ててもいいかなと思っていたのだが、何もない農村地帯をずっと眺めているとなんともいえない寂しさが込み上げてきて、ちょっと夫の言っていることがわかるような気がしてきた。

 

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 乗り換えの駅で途中下車。白くてかわいいボサボサの犬が線路を歩いていた。

 

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 一時間ほど待って目当ての電車に乗車。

 

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 十一時。ブルガリアの小さな町・カザンラクに到着。目当てのバズルジャは山の頂上にあるため、ここからタクシーを拾う。


 が、その前にトイレ……と思ってトイレを探したところ、見つかったはいいが鍵がかかっていて開け方がわからない。チケットの受付で聞いてもなんて言ってるかなんて聞き取れないし、どうしようかと右往左往していたらたまたま通りがかった地元のひとが「事務所に鍵を借りに行くんだよ」と教えてくれた。めちゃくちゃ親切。


 それでその流れから「これからどこ行くの?」という話になった。夫が「バズルジャを目指していること・これからタクシーを探そうと思ってること」を説明すると、「それはあまり賢明な判断じゃないね、私だったらツアーを頼むか自分の車を使う」「犯罪に遭うことはないだろうけど、タクシーだとぼったくられる可能性がある」とその女性。これはもともと夫も危惧していたことで、逃げ場がない山頂まで行ってはじめて帰りの運賃を高額請求される……といったことは十分起こりうる話だ。対策の仕様はあるが、地元の人にまでそんなことをいわれると若干怯む。どうしようかと顔を見合わせていたら、なんとそのひとが「知り合いに交渉してみる」といってどこかに電話をかけはじめた。どこまでいい人なんだ!


 結局その知り合いが提示してきた額はちょっと高すぎてお断りすることになったのだが、その後もいっしょに良心的なタクシードライバーを見つけて話をつけるところまで付き合ってくれた。往復五十レバ(約三千五百円)で山の上まで乗せっていってくれるという。安くもないがバリバリ予算の範囲内だ。無事帰ってくるまで安心はできないが、女性も「このひとなら大丈夫そう」と言うし、ひとまず信頼してみることにした。


 

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 それで辿り着いたのがここ。

 

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 やばい。近未来的なのにもう終わってる、というちぐはぐさに圧倒された。百八十度どこから見上げても不気味な迫力がある。周囲の広々とした山間の景色も相まって非現実感がすごかった。

 

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△上が元の状態/下が廃墟化した姿(内部)


 さすがに中に入ることはできないみたいだが、入り口に内部の説明が写真付きで書いてあった。

 

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 中には共産主義を讃えるモザイク画が描かれているらしい。

 

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 標高千四百三十二メートルの地点に建っており、見晴らしも素晴らしい。朝が早くてかなり眠たかったが、ついてきてよかったと思った。タクシーのドライバーさんもちゃんとした人だったし、今日は運がいい。

 夫が喜んではしゃいでいるのでたくさん(モニュメントとの)ツーショット写真を撮ってあげた。


 一通り見て回った後は麓に降りて少しカザンラクの街を散歩することに。電車の本数が少ないため三時間以上は暇がある。

 

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 薔薇園を歩いたり、猫を撫でたりしながら過ごした。

 

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 帰りはまた数時間かけてブルガリア鉄道の旅。味わい深い。いい一日だった。