十一月四日(金)
続・カミーノ巡礼一日目。そんなわけで私たちはサンティアゴ・デ・コンポステーラからさらに西、地の果てと呼ばれるフィステーラの岬を目指すことに決めたのであった。詳しくは昨日のブログを読んでください。
九時半出発。朝から今後の旅程について話し込んでいたら遅くなってしまった。はじまりはやっぱりここ、ということで大聖堂を拝むところからスタート。昨日とはまた別の巡礼仲間がたまたまいて、話を聞くと彼女も徒歩でフィステーラを目指すとのことだった。巡礼路でまた再会しよう、と話してひとまず別れる。
昨日で一度気が緩んだからかバックパックがいつもより重く感じた。今日は二十キロ。
公園を通ってちょっとずつ町を抜けていく。フィステーラまではバスで行くという人も多く、巡礼者の数は少なかった。
と、思いきやフィステーラで折り返してサンティアゴまで帰る途中の人が向こう側から歩いてきたりもする。旅のスタイルは人それぞれだ。
フィステーラまで八十九キロ。メーターが戻って嬉しいね、と二人で話した。
十時。振り返れば遠くのほうにサンティアゴの町が見える。今日はまだまだ始まったばかりだ。
山道を行く。これまで歩いてきた道に比べるとあまり手入れされておらず、より野生的な感じがした。
切り株の上にハロウィンのカボチャが。最近置かれたものだろうか。
そのすぐ横には石で書かれた「ULTREIA(もっと前へ)」。
牛柄の馬がいた。
今日の空は曇っているように見えて、実はけっこう晴れていることに気がついた。よく目を凝らしてみると雲が分厚く、空の色が薄いだけだとわかる。羊毛みたいにモコモコしていてかわいい。
十一時半。町中で適当な公園を見かけたので休憩することにした。天気が良くて、且つ手持ちの食料があるとこういうことができるので良い。
日陰は冷えるため、時々太陽光にあたりにいったりしながら三十分ほど休んだ。残り十二キロ。
休憩後はしばらく町が続いた。朝から勝手に「地の果て」モードになっていたけど、サンティアゴ以西だって普通に栄えているし、人の生活がある。
一時間ほどして再び山道に突入。急な上り坂が始まった。ここから一気に二百メートル程標高が上がるようだ。
木漏れ日。
すごい坂道なのにめちゃくちゃ早足で歩いているお兄さんがいて、圧倒されていたら向こうから話しかけてくれた。お兄さんはなんとドイツの自宅からスタートしてるらしい。もうすでに九十日ぐらい歩いてるのだとか。すごい。通りで健脚なわけだ。しかも年齢を聞いたら十九歳という若さだった。えー!と驚愕。そりゃ体力があるという意味では納得だけど、その歳ですごい精神力だ……。
話しながら一生懸命歩いていたらいつの間にか坂が終わっていた。お兄さんのペースに追いつくのが大変だったけど、向こうも向こうで歩調を合わせてくれているのがわかって嬉しかった。優しいね。
会話が途絶えたタイミングで彼とは別れた。
三十分以上登り坂で大変だったけど、以前に比べたら楽な気がする。という話をした。実際、体力はともかく気持ちの面ではだいぶ余裕を感じるようになっていた。どんなにつらい坂でも、足を動かし続ければいつか終わるとわかったからだ。
十四時。バルに入ってオレンジジュースを飲んだ。今日はあまりちょうどいい休憩ポイントがなく、気が付けばほとんど休みなしで残り五キロのところまで来ていた。
三十分程で出発。今朝からの流れで、カミーノが終わった後のことを話し合いながら歩いた。フランスに行くことだけは確定しているのだが、最後のシメとして考えていたインド行きをやっぱりやめようという話になり、では代わりにどこへ行くのか?あるいはどこも寄らずに帰国するのか?と、ここへきて急にプランがとっ散らかってきた。
個人的にはもう充分満足したし、お金もかかるのだからそろそろ帰ってもいいと思うのだが……夫が「せっかく仕事まで辞めてきてるんだから、全部をやり尽くしてから帰りたい」と主張するのもまあわかる。
ベトナム、タイ、カンボジア、パプアニューギニア?、逆にイギリス、あるいはアメリカ、むしろ西成?といろんな地名を挙げながら歩くのはけっこう楽しかった。
十五時。通り過ぎる町の入り口にかけられた橋が良い雰囲気を出していた。
川も勢いがあっていい。
今日の道もずっと美しかった。それに静かだ。
空の色の淡さを見て、冬が近づいているのを感じた。やはり、巡礼を始めたばかりの時よりもちょっと弱々しくて、やさしい色だ。
十六時。ネグレイラの町に到着した。
公営のアルベルゲが町の外れにあるらしいので、さらにもう少しだけ歩いてそこまで行くことに。
十六時半。無事チェックインできた。二十台しかベッドがない宿だったが、ハイシーズンを過ぎた後だからかこの時間でもそれなりに空きがあって助かった。
夜は近くのバルでハンバーガーを食べた。