今日は彼氏がいないから

 訳あって恋人が四日間家を空けることになった。こんなことは滅多にない。最初に話を聞いたときはいやだいやだとたいそう駄々をこねたが、なんせ事情が事情だったし、私はもう大人なんだから我慢しよう……、と考えて最終的には受け入れることにした。

 それから数日経ったいまとなっては、どうせならひとりきりの時間を目一杯楽しみたいな、という方向に気持ちが傾きつつある。恋人の存在を窮屈だとは思わないが、やはり四六時中生活を共にしていると何かと相手に合わせる場面が多く(それが楽しいんだけどね)、自分のやりたいようにできないことも多い。そういったちいさな欲求不満をこの機会にぜんぶ潰してしまおう、と私は考えた。これはその記録である。

Ⅰ.チーズナンを作る

 無印良品でナンミックスを買ってきた。以前から気になっていたのだ。これは自宅で簡単にナンが作れるという代物である。そんなこといって、どうせバターとか牛乳とか余計なものがいろいろ必要なんじゃないの、と懐疑的な気持ちになりながら裏面の説明書きを読んでみると、追加で必要な材料は水とサラダ油だけと書いてある。作り方もいたって単純で、要約すると捏ねて伸ばして焼いたらあとはもう出来上がりだそうだ。大掛かりな準備もいらないし、この程度なら私にもできそうだと思った。ついでにレトルトのジンジャーキーマカレーとバターチキンカレーも買って、作ったら一緒に食べることにした。

 翌日の朝、恋人が出かけた後でさっそく調理に取り掛かる。するとこれがけっこううまくいった。強いて言うなら最初の一口だけちょっと粉っぽい気もしたので、ほんの少しだけ油を多めにするか、あるいはもっとちゃんと捏ねるかすべきだったかもしれない。でも、文句があるとすれば本当にそのぐらいで、素人が作ったにしてはちゃんと美味しかった。

 中まで火を通すのに、油を敷いて弱火で焼くだけでは時間がかかりすぎるし、何より焦げてしまうのでは……と危惧し、途中から蒸し焼きにしてみたのもよかったのかもしれない。

 チーズを好きなだけ生地に埋め込むこともできるし、自宅でナンを作るの、大いにありだな。これは恋人が帰ってきたらまたやりたい。

Ⅱ.読書会の準備

 昔から付き合いのある女性が今度文芸部を立ち上げると言うので、お願いして入部させてもらうことになった。まだ始まったばかりで手探りの状態ではあるが、集まったメンバーで部誌を作ったり、読んだ本をおすすめしあったりする予定になっている。社会人になるとそういった趣味の集まりに参加できる機会がめっきり減るので、こういう場が生まれる瞬間に立ち会えたことは幸運だった。ちなみにだが部員は随時募集しているので気になったひとは連絡をください。

 それで、その活動の一環として、試しに読書会をやってみようという話になった。第一回目の課題図書は山田航の『桜前線開架宣言』。一九七〇年以降に誕生した歌人四十人を著者がひとりひとり紹介していくという、非常に密度の高い内容の本だ。さらっと読める入門書のような顔をしているが、実際のところ、詰め込まれている情報量はえげつない。

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 せっかく時間も余っていたのでこんな風に感想をまとめてみた。後から見返すと誤字や書き間違いがけっこうあって恥ずかしい。文章自体も拙い。

 時間も気力も要るので毎回やるわけにはいかないが、たまにはこうやってじっくり一冊の本と向き合うのもいいと思った。

Ⅲ.服を捨てる

 スカート三枚、ワンピース一枚、下着二組、前職の時通勤用に使っていた鞄が一個。思い出や未練があってどうしても引越しの時に処分できなかった衣類をやっと捨てた。本当はもっと捨ててもいいぐらいだったが、あんまりやると着るものがなくなってしまうのでほどほどにしておいた。三年以上着ている白いコートも捨てる予定だったが、まだ肌寒いのでもうしばらく取っておく。

 服に限らずだが、物を捨てることはわりと好きだ。ダイエットと同じで、余分な物を生活から削ぎ落とすことには苦しさと快楽が伴う。もったいないとか、思い出があるのにとか、いろいろと迷いも生じるが、その一方、そういったへんな妥協なしで選ばれた、本当に好きなものにだけ囲まれて生きることができたらどんなに幸せだろう、と夢想せずにはいられない。

 今回、クローゼットを見返していて思ったのは、あからさますぎる少女趣味には以前ほど心惹かれなくなっているということ。多少装飾的な古着のワンピースなどはまた別なのだが、ピンクのチュールスカートだとか、フリルがたっぷりあしらわれた小花柄のワンピースなんかはもう着る機会がないだろうなと感じた。

 このことを単に「私の少女時代は終わった」と捉えるのではなく、新しい季節に向かってゆっくり洗練されてゆこうとしているのだと考えたい。

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 ここまで書いておいてなんだけど、「恋人がいない間にしておきたいこと」、思ってたよりぜんぜんなかったな。やっぱりふたりでいるのがいちばんいいです。明日の夕方には帰ってくる予定なので、今夜は紅茶にたっぷりお砂糖とミルクを入れて飲んで(いつもは怒られる)、ゆっくり寛いだらもう寝てしまおう。