十月九日(金)
カミーノ巡礼九日目。今日は二十キロしか歩かないとわかっていたので、いつもよりのんびりした朝を過ごした。周りの巡礼者もお寝坊気味で、六時半ぐらいになってようやく起き出す人が大半のようだ。いつも私たちが目を覚ます頃にはみんなもう準備を終えてキッチンでご飯を食べたりしているので、今日は全体的にそういうムードなんだなあと思った。
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七時半過ぎ、ようやくスタート。昨日泊まったアルベルゲのオスピタレロ(巡礼宿のスタッフ)は物腰柔らかなおじいちゃん二人組で、巡礼者が出立する際にはひとりひとりに声をかけてお見送りしていた。やさしい心遣いが嬉しい。夫が「今日も笑顔で行くんだよ、パスポートの写真みたいな顔はしないように」と言われていたのがなんだかよかった。
今朝の日の出は格別に美しかった。飛行機雲が凄いことになっている。私たちは太陽といっしょに東から西へと歩いていくんだね、と話した。
九時。六キロほど進んだところで軽く腹ごしらえ。朝は必ず甘いものを食べたい夫と、朝から甘いのはちょっと……という私で朝ご飯観が良くぶつかるのだが、今日は双方納得のいくご飯に出会うことができてよかった。生ハムとチーズのサンドイッチ最高!
後からどんどんやってくる知り合いに挨拶しつつ、ここでは三十分ほど休んだ。
歩き始め。いろんな人と笑顔で言葉を交わした後だったので、すっかりピースフルな気持ちになっていた。カミーノが始まったばかりの頃は自分の英語に自信がなく、他の人に話しかけられるのが恐かったけど、いまはコミュニケーションを楽しみたい気持ちのほうが強い。ちぐはぐな英語でも良いから、とにかく伝えようとする姿勢が大切なんだと学んだ。
カミーノが終わったら自転車とテントを買ってスペイン中を野宿して周らない?みたいなことを夫が言い出した。さすがにそれはちょっと難しいかなあ。
十二時近くになって二回目の休憩。あと六キロぐらいで今日の道は終わってしまう。ちょっと物足りない。
仲良くなった巡礼者の一人が今日で旅を切り上げて帰ってしまうそうなので、最後を惜しみつつ握手して別れた。カミーノを歩くためにはそれなりの日数が必要なため、仕事などの都合で途中離脱していく人も少なくないらしい。ただ、必ずしも一度に全行程をクリアしなくてはいけないわけではないので、毎年ちょっとずつ歩いて数年がかりでサンティアゴに辿り着くことも可能だ。
十二時半。後半戦スタート。
残りの六キロはずっとこんな感じの道が続いていてひたすらに美しかった。見渡す限り何もない。空っぽの大地と果てしない青空の対比を見つめながら無心で歩き続けた。
めっちゃトイレ行きたい!
向こうのほうに町が見えてきた。あれが今日泊まるサント・ドミンゴ・デ・ラ・カルサーダか。
結局、十四時前には町にたどり着いた。それなりに余裕を持って休憩とかもしてきたつもりだけど、けっこうあっという間だった気がする。
宿にチェックイン。たまには個室に泊まって体の芯からリフレッシュしたい!ということで、今日はアルベルゲではなく普通のホステルに泊まることになった。一応、アルベルゲにも個室を用意しているところはあるのだが、予約するのが遅くて空いていなかったため。
ドミトリーの和気藹々とした雰囲気も好きだけど、やっぱりプライベートな空間じゃないと回復できない体力ってあると思った。
油断して寝てたら夫がスーパーで買い出しを済ませてきてくれた。パスタを作ってくれるそうなので、傍でインターネットをしながらダラダラ過ごす。ありがたや〜。海外に来てから代わりに家事をやってもらうことが増えた気がする。
一生懸命作ってくれたチョリソー入りのパスタ。ピリ辛で美味しかった。お礼に食器を洗ったりしつつ、ようやくお風呂。
二十キロなんて余裕だと思っていたのに、こうして宿に腰を落ち着けてみると意外と疲れていることに気がついた。