カミーノ 歩くの大好き

十月六日(木)

 カミーノ巡礼八日目。朝、キッチンに行くとおじいちゃん巡礼者がテーブル上にタロットカードを広げていて、いいなあと思った。実は私もバックパックの奥底にカードを眠らせているのだが、いまいち活用できていない。それもそのはずで、今は毎日やるべきことが決まっているから道に迷いでもしない限りは占いたいことが特にないのだった。

 

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△現代風の巡礼者像


 七時。オレンジジュースとスープ、紅茶で小腹を満たして宿を出発。美味しいけど全部汁系だ。今日は二十八キロ!

 

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 今日は大きな街からのスタート。二車線の道路沿いをずっと歩いた。夫が「今日の道はつまらない」と話していたのもわからないではない。

 

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 いくつかの公園の中を突っ切って行く。徐々に白んでいく空を眺めつつ、きれいに舗装されたアスファルトの道を歩いていたら、小学生の頃にあった臨海自然教室のことを思い出した。どこか遠くへ行くために朝早く起きた時の、あの雰囲気を感じる。いちばんちょうどいい道の写真が残っていなかったのでうまく伝えられないけど……。

 

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 かわいい杉並木。今日も空は曇り気味だ。

 

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 スペインの太陽は迫力がある。

 

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 八時半。大きな貯水池に出会った。今日はこの絵柄の貝のマークをよく見かける。

 

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 リス?!

 

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 リスだ!

 この辺り一帯で四、五匹は見かけた。野生だとは思うが、人間慣れしているのかそんなに慌てて逃げたりはしない。

 

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 いろんな種類の水鳥たちもいる。急に動物園に来たみたいだねえ。と、話した傍から目の前を駆けて行く野うさぎ。動きが早くて写真は撮れなかった。

 

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△一生懸命殻を壊そうとするリス

 

 その後すぐ、リスに餌付けしてるおじさんを発見。小声でカモンカモンと呼びかけては殻付きのナッツを与えていた。ただ、だからといって懐いている様子はそんなにない。

 いつも思うけど、海外における野生動物への餌やりに関するルールが謎だ。

 

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 動物園ゾーンを過ぎて少し経つと、また国道沿いの道に出た。フェンスが続く限り木の十字架が貼り付けられている。

 

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 丘の上に巨大な牛が……!と思ってよく見たら何かの看板の後ろ姿だった。

 

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 十時。十二キロ歩いたところでようやく最初の町に辿り着いた。今日は町と町の間隔が離れているため、休憩ポイントを見つけるのがなかなか難しい。次の長い行程が始まる前にバルで美味しいチョコクロワッサンを食べることができてよかった。


 三十分になったら出ようか、と声をかけて再出発。あと十六キロ!

 

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 葡萄畑。前を歩いていた韓国人のご夫婦にものすごく流暢な日本語で「日本人ですか?」と聞かれて吃驚した。こういうこともあるのであまり阿呆な話ばかりしているわけにもいかない。

 

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 歩いているだけで遠近法の勉強ができそうな道。晴れてかなり暑くなってきた。

 

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 十二時半。残り七キロになったところで再度休憩することに。木陰のベンチに座って生ハムとチーズ、パンを食べた。最近の中では珍しいぐらい満足度の高いお昼ご飯だ。

 

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 赤い野ばら、青い葡萄。

 後ろから歩いてきたおじさんが「オー!ファンタスティック!写真撮っていい?」と言ってうさたろを激写していった。

 

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 おっ、これは井上陽水の『少年時代』って感じだな。そう思って歌いだしたがいつまで経っても夫の反応がないので、振り返ったら予想よりもずっと離れたところにいた。恥ずかしい。

 

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 十五時。ナヘラに到着!さすがに疲れた。二日連続二十八キロはちょっと堪える。

 私はどちらかというと「やるべきことをやってからダラダラしたい」というタイプで、いつも疲れていればいるほどチェックイン後のルーティンを素早くこなしたいと思うのだが、今日だけはシーツを敷いてる途中で寝そうになったり、シャワーを浴びるのがめんどくさくて駄々をこねたりした。もう何もしたくない!

 

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 気がつくと私も夫も寝ていた。体がだるい。かろうじてシャワーも洗濯も済ませた後だったので、まだ絶望せずに済んだ。目当てのレストランが開くまで待つために近くのバルへ。

 

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 二十時。待ちに待った夕飯の時間。考えてみればこれで今日四回目の食事だ。食べ過ぎてて痩せる気がしない。

 二品目のお肉料理を提供し終わったタイミングで、店員の女性が各テーブルに「美味しい?」と聞いて回っていてよかった。


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 デザートはケーキ。フランスのル・ピュイから巡礼を始めたというご夫婦がいてびっくりした。現時点でもうすでに八百キロ以上歩いていることになる。

 夫が「俺らもそのルートで行けばよかったかな」と言うので、「まあ物足りなかったらサンティアゴで折り返して歩いてフランスに戻ればいいよね」と返すと爆笑していた。歩くの大好き!

※私たちがスタートしたサン・ジャン・ピエ・ド・ポーからゴールのサンティアゴ・デ・コンポステーラまでの距離が八百キロ。

※逆走して往復千六百キロ以上歩く人も稀にいる。