カミーノ たまにはがんばらない日

十月十日(月)

 カミーノ巡礼十二日目。今日はちょっとした休息日にするつもりで、あまり歩かず六キロ先のアタプエルカか十二キロ先のカルデニュエラ・リオピコのどちらかに泊まる予定だ。どっちにしろどんなにダラダラ歩いても昼前には着きそうなので、いつもより遅めに起きてめちゃくちゃゆっくり準備した。

 一息つく頃には大抵の巡礼者は出て行った後だったけど、中には私たちと同じようにダラダラしている人もいて、全員が「最後になったら行こうかな……」と考えていそうな感じがなんかよかった。

 

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 まあそんなことを言っているといつまで経っても一日を始められないので、適当なところで宿を出発。だいたい八時過ぎぐらいだった。

 昨日泊まったサン・ファン・デ・オルテガはとても小さな町なのに、アルベルゲで町名入りのオリジナルTシャツを販売していたり、こういう風におしゃれなライトで行く先を示してくれたりと、健気にがんばっている感じがなんか好きだ。

 

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 朝の森。今朝は珍しく小雨が降っていた。初日以来なんだかんだで天気の良い日が続いていたので、ちょっとがっかり。


 歩きながら、「寝ぼけててよくわからなかったんだけど、昨日夜中におじさん二人が喧嘩してなかった?」「消灯時間を過ぎてるのに部屋の中で電話し始めた人がいて、それで誰かがキレたみたいなんだよね」という会話をした。

 アルベルゲは基本的にドミトリーで、多い時では一部屋に数十人が泊まったりするため、ある程度は周囲への配慮が必要だ。とはいえだいたいの人は普通の常識がある良い大人だし、今のシーズンは特に学生も少ないので、昨夜みたいなことはちょっと珍しかった。

 

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 天気が悪いのもあり、なんとなく気分が上がらない。そういう時は「ファ」の音をいっぱい出して元気になろう。

 

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 九時過ぎ。一時間程歩いたところでひとつ目の目的地・アタプエルカが見えてきた。

 

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 町の手前で謎の石碑群を発見。

 アタプエルカはホモ・サピエンス以前の古代人の遺跡(人骨)が発掘されたことで有名な町らしく、あれもその関連の何かかな?と話しながら歩いた。

※発掘されたのはネアンデルタール人の祖先ホモ・ハイデルベルゲンシスの人骨。

 

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 とりあえず適当なバルで朝ご飯。アルベルゲが開くまで五時間以上あるので、待たずに次の目的地まで歩こうという話になった。

 

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 十時半。一時間以上暇を潰してからようやく再出発。バルでは何人かと会ったけど、私たちが出る頃には全員いなくなっていて、道では誰ともすれ違わなかった。景色を独り占めしている感じが気持ちいい。

 

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 ゴツゴツした岩が露出する坂道を登り切り、見晴らしのいい場所に出た。地面が濡れていなければ寝転がりたかったぐらいの広大さだ。

 

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 しばらくすると今度は下り道。向こうのほうに明日行く予定になっているブルゴスの町が見えた。

 

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 十二時。カルデニュエラ・リオピコに到着。

 アルベルゲがもうすぐ開くらしいのでさっそく向かってみると、入り口のところにダラダラ勢っぽいおじさん三人組が集っていて良い感じだった。

 

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 なかなか開かないので町をお散歩。スペインの教会にはストイックな雰囲気があるなあと思った。

 

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 高台の上からおじさんたちの様子を観察して宿が開いたかどうかをチェック。「本当に開くのかな?」「今の季節は人が少ないからやってないかも」と心配している私たちをよそに、おじさんたちは不動の構えで楽しそうにおしゃべりを続けていた。

 

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 綺麗な町だ。

 

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 一時間ぐらい待っていたら宿の人が来てくれた。無事チェックイン完了。これでクレデンシャルに見開き一ページ分のスタンプが溜まった。嬉しい。

 

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 夕ご飯の時間まで暇だったので、オレンジジュースとビールを飲みに町の入り口までやってきた。ノートを広げて昨夜考えた短歌を清書したり、本を読んだりして過ごす。ひさびさに芯からだらけている気がして癒された。

 

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 十九時。待ちに待ったご飯。今日のピルグリムメニューは過去イチレベルで美味しかった。焦げ目がついたパリパリのパエリア、柔らかく煮込まれたチキン。味付けもやさしくてちょうどいい。


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 そして何より美味しかったのがデザートのチーズケーキ。一口食べた瞬間「?!」みたいな顔になり、「人生で一番美味しいチーズケーキかも……」「いやでも、なんか子供の頃にどこかで食べた気もする、この味……記憶の扉が開きそう……」とブツブツ呟いていたら夫に「『美味しんぼ』で同じシーンを見たことがある」と言われた。

 

 スペインはご飯が美味しいです。