十一月十四日(月)
昨夜はルーヴルの余韻が激しく残っていてあまりよく眠れなかった。ずっと興奮しっぱなしだとさすがにつらいので、今日は市中をのんびり散歩してまわることにする。
十時。宿から二キロ離れたところにある凱旋門を目指して歩き始めた。地下鉄に乗って行く案もあったが、どうせならパリの街並みをゆっくり味わいながら行きたいという話になったのだ。夫婦でそういう気持ちが一致するのは嬉しい。
なんでもない道のはずなのに、ここがパリだと思うとそれだけでウキウキしてしまう。やっぱり昔から胸の奥底にあった憧れは根強い。これまでに訪れたいろんな国のいろんな文化に対する「あれが好き、これが好き」という記憶のディティールを全部破壊され、圧倒的な美と魅力によって心が捻じ伏せられていくのを感じた。パリ、好きだ。大好きだ。
確かに全体として物価は高いし、場所によって治安が悪いのもある程度は事実なのだろうけど、最悪スリや強盗に遭ってもこの街を嫌いにはなれないと思った。
広い公園を通り抜けた。何かの授業の一環なのか、紺のコートを着た子供たちが大勢はしゃぎ回っていた。
三十分程して凱旋門に到着。ここはナポレオンの指揮によって作られたんだけど、実際に完成したのはその死後だったんだよね、という夫の解説を聞く。
地下入り口を通って近くまで寄ってみた。
内部の彫刻もすごい。足元には第一次世界大戦をはじめとする様々な戦争で亡くなった兵士を祈念するプレートがいくつも埋め込まれていた。
裏手側にも彫刻があった。こちらは『1814年の抵抗』という題の作品。
うさたろも凱旋。
ひと通り凱旋門を眺めた後は近くのシャンデリゼ通りを散歩した。ここはCartierやBVLGARIなど多くの高級店が立ち並んでいる。
途中、もっとずっと手頃な価格帯の服屋を見つけて、あれやこれやといろいろ見て回ったのが楽しかった。気に入った服は試着したら明らかにサイズが大きかったので買わなかったけど、それでもひさしぶりに乙女心が満たされて嬉しい。泣きそうになった。
そのままオルセー美術館やルーヴルがある方に向かって進んでいく。
有名なコンコルド広場にたどり着いた。
遠くのほうにエッフェル塔が見える。手前にあるのはエジプトのルクソール神殿のオベリスク(記念碑)だ。
十二時半。昼ご飯を求めてパン屋さんへ。バケットとカヌレを買った。
チーズと生ハムを買い求めてスーパーに入ったら急に大量の日本語が目に飛び込んできて「?」となった。確認したらどうも日中韓系の食料品を中心に売っているお店だったようだ。嬉しいけど今の気分ではない。
ストロングゼロ十ユーロは笑える。輸入ってお金がかかるんだなと思った。
この辺はサンタナ通りといって日本人街になっているらしい。ヨーロッパ式の建物群に日本語が張り付いている様子は妙な異国感があっておもしろかった。
どうにか適当なスーパーでサンドイッチの具材を手に入れ、ルーヴルがあるあたりまで戻った。その辺のベンチに座ってピラミッドを見ながらお昼ご飯。日差しが暖かかった。
そのままの流れでおやつも食べた。実はこれが人生初カヌレだ。こんがり焼けてサクサクしている外側と、もっちりした食感の中身がいいバランスだ。味もただ甘いだけではなくブランデーが効いていてとても美味しかった。フランスにいる間にカヌレ研究会を創設する必要がある。
お腹いっぱいになったところでお散歩を再開。セーヌ川が見えてきた。
水浴をする鳥たち。
向こうにあるのが有名なヌフ橋、通称ポンヌフだ。『ポンヌフの恋人』、観たことないんだよね。シティの語源になったシテ島も見えてきた。
橋を渡ってシテ島へ。川を船が行き来する様子を見て、夫が「ここから飛び乗りたくなるような眺めだよね」と言う。すかさず「名探偵コナンみたいにね」と返したら「いやジャッキー・チェーンかな」と訂正された。
パリのクマたち。
ノートルダム大聖堂。三年前に起きた火災でけっこうな範囲が焼失してしまい、現在は改修中のようだ。
歩いていたら地面にカミーノのマークを見つけた。ここも巡礼路になってるのかと吃驚。ちなみにパリからサンティアゴまではだいたい千五百キロぐらいある。
今日は行きたいカフェがあるのでそのままずっと散歩。
ラ・ロトンド。ピカソや藤田嗣治など多くの文化人が通ったとされる老舗カフェらしい。しかしそのわりには全体的にそこまで高くもなく入りやすい雰囲気だ。赤で統一された内装も美しかった。
明日、明後日のパリでの過ごし方を相談しながら過ごす。
夜はまたパスタを作った。今日はペペロンチーノ風。
食後のおやつはマカロン。宿の近くにピカールという冷凍食品専門の店があり、試しに買ってみたのだ。十二個入りで五ユーロ(約七百円)という安さだった。マカロン好きには嬉しい。
フランスはいろんなものが高いイメージだったけど、こと洋菓子に関しては日本よりも安価に美味しいものが食べられるのかも……とこの時思った。明日以降も油断せず調査を進めていきたい。