クルージュナポカ りんごの標本

十一月二十二日(火)

 朝、起きて十秒で夫が「ルーマニアに来てからまだ睡眠しかしてない」と言い出しておもしろかった。どう足掻いても予定をぎっしり詰め込んで動くことになるフランスの後で、出来るだけのんびり・ゆるく楽しもうという話から軟着陸したのがルーマニアのはずなのだが……。やっぱりいざ訪れると出来るだけ楽しまなきゃ損、という心境になるみたいだ。

 

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 そんなことを言いつつも結局チェックアウト時間ギリギリまで宿にいた。もっと動き回りやすいよう、今日からは町の中心にあるゲストハウスに移る。

 バス停のわかりにくさや、郊外の少し古びた風景がなんとなく懐かしくて良かった。ブルガリア北マケドニアアルバニアあたりの国を巡っていた夏頃を思い出す。どんな文化・ご飯・名所があるのかという事前知識が一切ない場所に降り立って、一からその国の良い部分を探していく楽しさ、みたいなものをひさびさに予感した。


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 たまたま二人ともお昼ご飯はジャンクなものを食べたい気分だったので、シャオルマというルーマニア独自のケバブプレートを食べた。想像以上のボリュームでお腹が苦しい。


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 宿にバックパックだけ置いて辺りを探索。クルージュナポカはわりとこじんまりとした町で、数時間もあれば中心部分をぐるっと見て回ることができた。広場には観覧車やメリーゴーランドが設置されている他、個人らの出店によるミニマーケットもあって楽しそうな雰囲気だ。


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 歩き回って疲れてきたので喫茶店に逃げ込んでホットワインを飲んだ。甘くて安心する味だ。

 宿から連絡があり、十五時には部屋の中に入れると教えてもらった。それまでのんびり待つことに。


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 猫。地方都市は猫がたくさんいるから素晴らしい。

 

 

  宿にチェックインした後はひたすら寝た。朝はあんなことを言っていた夫も燃え尽き症候群気味なのか気怠そうだ。明日もあんまり気張らずに行きたい。

 

十一月二十三日(水)

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 朝から落ち込むことがあったので、当初の目論見に輪をかけてより一層のんびりと過ごすことにした。手始めに近所で朝マックを食べながら数時間暇潰しをする。

 注文後、受付番号を呼ばれたことに気が付かないでいたら(ルーマニア語だったため)近くにいた人が「もしかして○○番?いま呼ばれたよ」と声をかけてくれてとても助かった。優しい世界だ。


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 昨日も通ったマーケット。平日でも関係なく賑わっている。


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△Botanical Garden Museum

 

 町の中心地から少し歩いて植物園を訪れた。人影はほとんどなく、静かで落ち着いた雰囲気だ。入ってすぐのところにいろんな雑草を集めたコーナーがあって、素朴だなあと思った。


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 季節柄、咲いている花はほとんどない。考えてみれば当たり前のことなのだが、そうであるにも関わらず冬以外の季節に植物園へ行ったことがないような気がした。


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 併設の博物館内。私たち以外誰もいなかった。


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 いろんな植物や食物の標本が飾られている。りんごをホルマリン漬けにする発想はなかった。「ピクルスを作ってるわけではないよね?」と二人で相談した。


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 石や地層の欠片。


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 何かはわからないけど妖精みたいでかわいい。


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 不思議なぐらい安心できる場所だ。丁寧に処理を施した上で保管されているひとつひとつの植物からはここに携わる人間の愛を感じたし、その愛の上で守られている静けさにはやさしい温度感があった。美しい空間。

 奥の方に大きなテーブルと椅子が何脚か置いてあったので、しばらくそこで書き物をしながらジッとしていた。


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 博物館を出て再び外へ。日本庭園を模した部分があった。


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 神社もないのに鳥居がある。異文化に対する己の浅い理解を恥じることってけっこうあるけど、これを見たらなんとなく「まあ、しょうがないよね」と思えた。


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 温室の中はひたすら蒸し暑かった。水蒸気が上から滴って水面を打つ。


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 天井の柱、金魚、ミルククラウン。いろんなものが見えた。


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 男の子はみんな好き、食虫植物。いや、女の子だって好きだ。


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 植物園は思っていたよりも広くて、奥のほうには森が広がっていた。そこそこ勢いのある川まで流れている。


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 こうして見ると地面のタイルまでかわいかった。一枚一枚がクローバーの形をしている。


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 数時間で植物園を後にした。これは近くの大学病院に生えていた木。白い靴下を履いているみたいで目を引かれた。


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△Mozart Café

 

 お腹が空いていたので事前に調べて気になっていた喫茶店に行った。「fall in love」と名付けられた紅茶が甘酸っぱい。店員さんの制服もラブリーだった。

 穏やかで良い一日だ。

 

十一月二十四日(木)

 明日には飛行機に乗って日本へ帰るので、実質今日がこの旅最後の日だ。

 

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 しかし完璧に気が抜けてしまって何もやる気が出ない。夫は「旧共産主義時代に造られた建築物を巡ってくる!」と言って元気に宿を飛び出して行ったが、私はただ着いていくだけの気力もないのでずっと宿の中にいることにした。本当はその間にいろいろやりたいこともあったけど、結局気がついたら昼寝……。

 

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 辛うじて日記だけ書いた。スペインにいた時はけっこうコンスタントに書いていたのだが、フランスでは観光に全部気力を待っていかれてノートを取り出すこともなかったな。


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 夕方過ぎになって夫が帰ってきたので、夕飯を求めてようやく外に出た。

 「さっきまでバーにいたんだけど、ワールドカップで日本が優勝おかげでたくさんビール奢ってもらえた」と夫。優勝したチームのメンバーというわけでもないのに得したねえ。やっぱりルーマニアは人が優しいと思った。どこの国においても同じことを言っているような気もするが。

※11/26追記…ドイツに勝っただけで優勝してない!私が早とちりしてた。


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 夕飯はケバブルーマニアの伝統料理を食べるという話もあったけど、気分的にそういうモードでもなかった。

 二人で旅を振り返って今日は終わり。たくさん喧嘩したし、険悪な雰囲気になることもあったけど、なんだかんだで最初から最後まで仲良くいることができてよかった。大きな怪我も病気もせずに日本へ帰れそうで嬉しい。