ポップコーンシュリンプのあなた

 サイゼリヤといえば、こんな思い出がある。

 
 数年前に一瞬だけ付き合っていたというか、付き合っているっぽい関係だった男子大学生と、デートで映画を観に行った帰りのこと。
 「夕飯何食べる?」って流れになった途端、それまで控え目だった彼がいきなり強気の態度で「サイゼリヤ行きましょう、まあ俺ら学生的にはサイゼリヤって選択がマストなんで」とかなんとかサイゼの存在をゴリ押ししてきたのである。
 あまりの不自然さに私はつい小首を傾げ、「そこまでプッシュするか……?」と思ったのだったが、まあでも、いいじゃんサイゼ、私も好きだよ、ってことでそこは素直に承諾、入店し、各々ミラノ風ドリアなんか頼んだりして、楽しく会話して、次会う約束なんかもして、ってやってたら、お会計をする段になって急に「ここは俺に払わせてください」と言われた。思い切ったような表情で。それまでどこに行ってもずっと割り勘だったのに。
 
 あれはよかったな。すごくかわいかった。
 
 遊びたい盛りの大学生、バイトはしているものの常にお金がない、普通に一人暮らしするだけでもカツカツ、って状況で、それでも年上の私に対してカッコつけたかったんだね、サイゼなら全額奢れるって思ったんだね。
 
 そういうのが一瞬で全部わかってしまって愛おしかった。まあすぐ別れたんだけど。
 
 その時はじめて食べたポップコーンシュリンプが美味しかったから、いまでもたまに頼むようにしている。