他人の死

大切なひとが 何人か死んだ

街路樹の濃すぎる青を

蛇口から流れる水の不透明さを

旅客船設計図の精確さを

百合のように垂れ下がった老人の頭を

わたしと同じ目線に立って

わたしと同じだけの重さを持って

そういうものを大切にしていたひとが

この世から消えてしまった

それらの死は

彼が所有していた世界の死であり

彼女が作った図書館の死であり

この世の絵の具がひとつかふたつ

欠けることでもあったので

わたしはすっかり漂白されて

何を描いたらいいのか

わからなくなってしまった