ここは地獄の4丁目

 親友宛てにものすごい内容の手紙を出した。関係性がきちんと出来上がっていなければ人格を疑われてもしょうがないような、ほんとうにどうしようもないことが二枚の便箋に渡ってたっぷり書いてある。大袈裟な言い方をするならば、この手紙を書くにあたって私はいくつかの道徳規範を犯したといえよう。なんてわるいやつ。まあ、極悪人というよりは俗悪な天使ですけど。

 一応、手紙に記した悪事の内容は友達自身とはまったく関係がないことで、彼女はその罪を好き勝手に告白されているだけだから、(よっぽど軽蔑されない限りは)二人の間に亀裂が入る心配はないと思う。もし笑いながら読んでくれるなら嬉しい。

 

 内から湧き出てくる笑いで震えながら手紙を書き上げたあと、私はしばらく興奮を止められなかった。珈琲を続けて何杯も飲んだときみたいに胸がドキドキして、苦しい。こんなことを打ち明けられる人間がいてよかったな、と心底感じ入った。私は明らかに幸福だった。

 

 翌日になっても高揚感は続いた。朝目覚めると私は世界でいちばんキュートな女の子だった。頭が完全に壊れていたし、壊れてる部分を執拗にいじくりまわすのが楽しくて楽しくてたまらない。心はなめらかなクリーム色をしており、肌に触れる空気がやけにやわらかかった。満月のように狂っていて、天使のように軽やかな気分とはこういうことだ。

 

 あまりにも晴々とした気持ちで、風通しがいいものだから驚いていると、なんとマスクをつけ忘れた状態で家から出ていた(マンションの出口で我に返った)。

 

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 こんなにhappyでも私は自分が地獄にいることにきちんと気がついていた。でも、なんて明るい地獄!

 

 昨日書いた手紙を出来るだけ早く手放したかった私は(あまりにもひどい代物なので)昼休み中に職場を抜け出してポストへ投函することに成功した。

 

 ねえみんな、私は何をしたと思いますか?