自分とデートする日

 年明け前後からずっと将来への不安に心を支配されており、ここ数週間はすっかりひきこもりニート三年目の心境になっていたのだが、週が明けた途端急に気分が上を向いてきた。

 オンオフ問わずフォロワーさんにかまってもらったり、恋人とひさびさに街でデートしたり、いろいろ楽しいことがあったから、というのも大きいけど、いちばんの影響はバイトの面接日が決まったことだと思う。冷静に考えて、バイトだからといって必ず採ってもらえるとは限らないのだが、不安と衝動だけがあって、実際的な行動予定が何も立てられなかった時間に比べればかなり気が楽だ。一月の第一週はさっそく三連休で、思い切ってあちこち応募してみてもどこからも返事が来ず、かなりヤキモキさせられた。無職に祝日は苦しい。働いてるひととは違うんや!


 しかしいざ終わりそうになるとそれはそれで惜しい気もしてくるのが無職の難しいところだと思った。おそらく、今回の面接がダメでもどうせ今月中にはなんらかの形で働くことになるんだろうな……と悟った瞬間、急に地上に出るのが嫌になってくる。そのくせ落ちたら焦る。このジレンマ。時間って、有限だと思えばこそ輝くんだね。無職は始めたてと終わりがいちばん楽しいな、と今回改めて実感した。中盤は地獄だ。

 ちなみにどこからどこまでを中盤とするかは人によって違うし、ニート適性が高いひとほどそれが長い。その点私はかなり短めですね。二ヶ月も保たなかった。残念だなあ。


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 なんて言いつつ、やっぱりちょっと安心したのは事実だったので、今日はひさびさに自分とデートすることにした。仕事の恋人を家に置いて、ひとりで好きなことをなんでもしよう、というわけだ。

 

 元々今日は失業手当の認定日で、新宿まで出る予定になっていた。先月の半ばぐらいまでこれからのことが何も決まっていなかったので、とりあえず申請だけしておいたのだ。待っていてもたいした額がもらえるわけじゃないし、今月中にはバイトを始めるつもりでいるから、受給は諦めることになりそうだけど、しっかり先が決まるまでは一応手続きを継続させておく。心の安定にいちばん効くのって、案外こういう地味な行為だよなあ、と電車に揺られながら思った。


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 新宿駅の鳩。ギリギリの時間に家を出たら中央線がまた遅延していて、「もう間に合わない!」と急いでいたのに、あまりに生き物として丸すぎるもんだから思わず立ち止まって撮ってしまった。いったい誰からそんなに栄養もらってんだ。


 認定は結局普通に間に合った。焦っていたせいで受付のやり方がよくわからず、十分ぐらいロスしちゃったけど、それ以外はわりと上手くいったと思う。手続きとはいっても用意しておいた書類を提出するだけのことだったし、たいして時間もかからなかった。


 待合の椅子に腰掛けてる間中、失業者と失業者にはさまれているとなんとなく落ち着くなあと思っていた。恋人はハローワークのことが嫌いだと言っていたけど、私はあそこの雰囲気ってけっこう好きなんだよな。壁にゴシック体で「あなたの就職サポートします!」なんて書いてあるのを見ると、それだけでけっこう元気が出たりする。


 まあ、そのくせ肝心の求人は探していかないんですけど……。

 

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 終わったあとは愛しの珈琲西武へ。無職になるたびに来ている気がする。オムライスを食べたかったんだけど、まだ十一時前で提供がはじまっていなかったのでモーニングを頼んだ。

 

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 食べ終わった後は珈琲を飲みながら手紙を書いたり、出たばかりの部誌を読んでだりした。うちの部誌、おもしろいですよ(急な宣伝)。


 夏号なんかも死のイメージが濃厚だったけど、今回も冬の恐ろしい部分をうつくしく描いている作品が多くてよかった。他の部員の詩や小説を読んで、私はこういう重さってあんまり出せないなあと思った。あと、部長と鈴木雀さん(結うさん)の短歌連作が毎度のごとくとてもよく、刺激を受けたので、私も次はまた短歌をやりたい。

 表現の幅を広げるために最初の一年はそれぞれの号で違うジャンルの文芸作品を載せることに決めていたんだけど(春号短歌連作、夏号小説、秋号エッセイ、冬号詩)、やっぱりいちばん好きなのは短歌……短歌なのかな……?と思った。


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△短歌なのか?と迫ってくるキティちゃん


 今日はひさびさにブログを書くつもりでいたので、ついでに今年の冬のことも振り返ろうとしたけど、どこから思い出せばいいのかもはやよくわからなかった。


 十日間の大阪旅行から帰ってきて、ようやく就活をはじめたり、すぐ挫折して占い師を目指すことに決めたり……。そのことを仲良しのフォロワーにLINEで話したら、「道が開たのか、これも迷走の一環なのかはまだわからないと思う」と言われて、鋭いなあ、私のことをよく知ってんなあと感じたことなんかはよく覚えている。それ以外にも本当にいろんなことがあったし、いろんなひとと会った。


 でも、あたしはその全部をわざと取りこぼしたかったんですよね。


 ブログにせよTwitterにせよ、なんでも言葉で残しておきたがる方だけど、この一ヶ月半に関してはなるべく客観性を捨て、目の前のことにだけ集中したかった。占い師になるという目標はまだまだ継続して追いかけるつもりなので、活動がもう少し形になってきたら改めて考えをまとめたいとは思う。

 

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 適当なところで店を出て、その後はふらふら服を見たりした。途中で郵便局に寄りつつ、『キングスマン ファースト・エージェント』を観るために映画館へ向かう。最近までお金を使うのが怖いモードに入っていたのもあり、「いやでもコリン・ファース出ないしな……」とずっと渋っていたのだが、フォロワーさんの後押しもあってやっと踏ん切りがついたのだった。

 

 チケットを発券した段階で一時間以上暇があったため、適当な喫茶店に入ってチーズケーキを食べた。レモンの風味がきいていてとても美味しい。私も次に家で作るときはもっとレモンを多めにしてみよう、と思った。珈琲といっしょにお砂糖ミルクだけじゃなく、香りづけのためのラム酒までついてきたのがまた洒落ている。珈琲自体も浅煎りで飲みやすかった。かなり気に入ったので、今度は恋人を連れていっしょに来たい。


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 というわけで観ました。よかった。問題のロシア人から目が離せなかった……。なんだこの設定と思って観てたけど、後で調べたら実在する人物をモデルにしてるんですね。気になっていたわりには前情報ゼロの状態で見に行ったので、どこまでが史実でどこからがトンデモの虚構なのかすぐにはわからないことも多かった。

 とはいえアクションシーンの迫力は相変わらずだったし、ストーリー展開も山あり谷あり(※キングスマンはわりと重要な人物があっさり死ぬ……というか、むしろそこを転換点にして話が進んだりするので、今回も途中まで「これはどっちが死ぬんだ……?」と思ってハラハラしながら見守った。結果は………というかんじだったけど、そこから俄然話がスピードアップしてくれてよかったです。)だし、私と同じく世界大戦の知識がほぼないひとでも普通に楽しめる映画だと思う。

 

 エンドロール後、近くにいた男子高校生たちの「なんかさ〜、映画に出てくるアメリカの大統領ってだいたい雑魚じゃね?」という会話を耳にしつつ、映画館を後にする。

 

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 ひさびさの新宿ひとり散歩はすごく楽しかった。働きはじめたらまたこういう日を過ごしたいと思う。

 映画が終わってからiPhoneの電源をつけたら、他のバイト候補先や占い関係の求人からも連絡が来ていて、なんだか急に忙しかった。三連休中はずっと布団の上で死んでたのにな。明日からはまたしばらく職探しに専念したい。

 

 家に帰ったら仕事を終えた恋人が眠たそうにしていたので、そのまま寝かしつけて今日はおしまい。