九月五日(月)
五時半起床。明日のトレッキングに向けて今日は出発地点の町・ヴァルボナまで移動する。
△ピンクが今日の移動/青が明日登る山
ざっくり図にするとこんな感じ。
泊まった宿が移動に必要なバスの予約をしてくれた。聞いたら大きい荷物も宿に置いていっていいそうだ。トレッキングが終わった後はまたシュコダルに戻ってくる予定なので、必要最低限の着替えや洗面用具だけサブザックに詰めてバックパックは置いていくことにした。何も盗られませんように。最悪バッグ丸ごとということもあるけど、そうなったらもう仕方ないな。
六時半、バスに乗車。宿の前まで来てくれた。
夫が「朝早く起きて準備して、みんなで山のほうに行くなんてなんか遠足みたいだね」とかわいいことを言っていた。
お腹空いたしキティちゃんでも食べるか。着香料みたいな味がした。
五分休憩。でかい水にでかい葉っぱのお盆みたいなやつが浮かんでいた。
山羊の大群とすれ違った。
九時前、フェリーの船着場に到着。まさかの手前のトンネル内で降ろされる。売店でチケットと軽い朝ご飯を買ってさっそく乗り込んだ。ひさびさの海路移動にテンションが上がる。
九時半、出港。
昨日あまり眠れなかったので最初の二時間ぐらいは中で横になって過ごした。夫はずっと外で海を眺めており、たまに会いに行くといかにこの景色が刺さるか語ってくれた。剥き出しの岩肌が突き出ているのがかっこいいらしい。
十三時、ようやく陸地に。近くのファーストフード店でペラペラのサンドイッチを食べた。ここからまた数時間かけてバスでヴァルボナに行く。
△道中、頻繁に牛とすれ違った
バスが満員だったのでタクシーを使うことにした。このパターンけっこうあるな。たまたま乗り合わせた二人組が空港で預け荷物を紛失したばかりとのことで(怖いけどよくある話)、タクシーのドライバーさんが気を利かせて街中で買い物する時間を作ってくれた。私たちは特に必要なものもないので中で待っていたのだが……見ていたらSIMカードを買うために携帯ショップにまで同行していて、すごい紳士だなとびっくりした。他人の善行は積極的に記録しておこう。
一時間ぐらいでヴァルボナに着いた。宿はここからさらに二キロほど山を登ったところにあるのだが、これ以上は車で入っていけないそうなのでタクシーとはお別れ。
歩くぞ!
牛。かわいいけど、普通に人間の比じゃないぐらい力があるのであまり刺激しないように気をつけながら通り過ぎた。
歩いていると急に道の雰囲気が変わったりしておもしろい。
三十分ぐらい進んだところでようやく宿を見つけた。
鶏やアヒルがいた。
無事チェックインできたので、ひとまずお昼寝することに。たいした距離は歩いてないはずだけど、やっぱり移動が多い日は疲れる。
一時間ぐらいで起き出してきて、ブレーメンの音楽隊みたいだな、と思いながら二人で庭を眺めた。それにしても寒い。太陽が出ている間はまだよかったが、沈むと一気に冷える。Tシャツの下にヒートテックを着て、その上にウルトラライトダウンジャケットまで羽織ってるのにまだ心許ない気がした。
十九時、夜ご飯。ヴァルボナは周辺に飲食店もマーケットも何もないので、宿がご飯を出してくれるのがスタンダードらしい。朝から軽食しか胃に入れてなくてヘロヘロだったのでありがたい。温かいスープが身に染みた。
九月六日(火)
今日も五時半には目を覚ました。外はまるで冬の気温だ。昨日の装備に追加して軽いジャケットも羽織っているのに、余裕でまだ寒い。先週は水着で海を泳いでいたのに……と思うと落差がすごかった。でも本当の冬だったらこんなものじゃ済まないんだろうな。
朝ご飯。早い時間から本当にありがたい。日が登り切る前にある程度まで歩みを進めたかったので、七時前には食べ終えて出発した。
神々しい朝の光。まずはここから大きな道路まで降りなくてはならない。
三十分ぐらいかけてようやく平地に着いた。歩いていて暑くなってきたのでジャケットとライトダウンを脱ぐことに。
死ぬほどダサい。というか、今から登山するのにうちらサンダルなんだよね。夫の下調べ(と、これまでの登山経験)によるとたぶん大丈夫とのことですが……本当か?
登山口までのアプローチがけっこう長い。値段や評価を考慮して宿を選んだ結果とはいえ、やっぱりもう少し近いところにするべきだったかな……と二人で話しながら歩いた。
向こう側から来る馬の大群とすれ違った。馬使いと犬も後ろからついてくる。
八時。一時間ぐらいかけてようやくテス方面を示す看板を見つけた。
こんな感じの砂利道をずっと行く。道端にけっこう馬の糞が落ちていて、脳内にいるミニキャラの自分が「馬の糞避けゲーム!」とピースサインしていた。
先はまだまだ長いので、お互いのペースで夫婦それぞれ黙々と歩く。
八時半。ようやく山の入り口に立った。だいぶ日が照ってきたのでこの辺で一度装備を整える。
平地を歩いている時は全然平気で夫よりペースが早いぐらいだったのに、登り坂が始まった途端息切れ。子供の頃喘息だったし、たぶん肺活量が人より少ないんだと思う。出発からちょうど二時間経過したあたりだったので、きりのいいところで一旦休憩を挟むことにした。
おそらく土砂崩れがあった跡。
九時半。ちょっとずつ眺めが良くなってきた。この後しばらく急斜面が続く。
十時。こんなところにカフェを発見。コーヒーが一杯四ユーロとかだった。決して安くはないもののも、ここまで物資を運ぶ労力について考えるとまあ妥当だ。
あまり長く座っていると気持ちが萎えるので、適当なところで切り上げて再出発。標高が高くなってきたせいか、この辺から木が減り始めた。
あと四時間でテスに着くよ、と看板。標高千五百メートル地点と書いてあるのでたぶん七合目ぐらい。
草地で大量の羊たちが食事していた。
急な砂利道をひたすら登る。
壁のような岩肌。
十一時半。さすがに疲れてきたけど、自分が登ってきた道を振り返るとまだやれそうな気がしてくる。頂上まであと少し。
この辺から荷を載せた馬とよくすれ違うようになった。素人玄人問わずあまり遅い時間から山に登る人はいないので、この辺がちょうどピークタイムということなんだと思う。
頂上らしきものを発見。
十二時、頂上に着きました!標高二千メートル。
落ちたら死ぬ、みたいな崖のすれすれをよじ登るように歩いて精神的にも疲れた。でも頂上付近でビーサンの男性に「サンダル仲間だね!」って話しかけられたのはよかったな。ビーサンはさすがに……と思ったが。
どちらかというと登るときより降りるときのほうが怖くて、足が滑らないように気をつけながら一歩一歩踏み下ろす先を決めながら慎重に下った。サンダルはやっぱり滑りやすい。すれ違うとき私たちが転ばないように手を差し伸べてくれた男性がいて、優しかった。
頂上を少し降りたところで休憩。エネルギーの補給と称して板チョコを一枚ずつ食べた。美味しいし、このシチュエーションなら罪悪感も少なくて嬉しい。これが日本だったらおにぎりを食べてるところだよ、と言われ、登山を趣味にするのも悪くないかなと思った。おにぎり食べたい。
下り道スタート。雷に撃たれたような木があって怖かった。
筏でも作ろうとしたのかな。
また森っぽい雰囲気になってきた。
いい感じの休憩所。誰が作ったんだろう。
十四時。だいぶ牧歌的な雰囲気になってきた。草っ原に寝っ転がって十分ほど休憩。このまま寝てしまえると思うぐらいヘトヘトだった。
向こう側に村が見えてきた。この辺から水の流れる音が聞こえ始める。
十四時五十分、川発見。
まだ道は続いているようだが、だいぶ下の方まで来たみたいだ。立ち止まると足がガタガタ震えた。限界が近づいている。
十五時、下山完了!死ぬほど疲れた。
ここからさらに一キロほど歩いて予約してる宿まで歩きます。体は悲鳴をあげているようだが歩こうと思えば案外歩ける。麓の売店でバナナとビールを買った。
かつては血の復讐の掟("家族が殺された場合、殺した相手の家族を復讐として殺してもいい"という掟)があったとされる村・テス。写真は宿の近く。山を背景にした教会がうつくしかった。
十六時少し前、無事チェックイン完了。本当にお疲れ様でした。いますぐラーメン食べたい。シングルベッドのひとつを宿の飼い猫に占領されて嬉しかった。
待望の夕ご飯。すごい量を出してくれた。お腹が空いていまにも倒れそうだったので嬉しい。ミネストローネのスープ、ハム、パイ、じゃがいものグラタン、焼き野菜、サラダ、オリーブとチーズの盛り合わせ……全部美味しかった。
猫。餌をもらえないかと期待して食事時になるとやってくるらしい。かわいかった。後は寝るだけ!